航一が突然家庭裁判所に左遷されるところから始まります。これまでエリートコースを歩んできた彼にとって、この移動は明らかに不名誉なものでした。特に、彼の仲間である若手裁判官たちも同様の扱いを受けたことで、航一の胸には疑念と怒りが渦巻きます。
彼は、司法の独立が脅かされているのではないかという危機感を抱きつつ、長官の桂場(カラバ)に直談判します。しかし、桂場から返ってきたのは、理想論を捨て、現実に従わざるを得ないという厳しい現実でした。

「司法の独立を守るためには、時には犠牲も必要だ」と語る桂場の言葉に、航一は深い失望を感じます。これまで信じていた正義や理想が、大きな力の前に押し潰されていく様子を目の当たりにし、彼の心は大きく揺れ動きます。
物語の中盤、航一は米と轟木(とどろき)を訪れます。そこで、米から告げられたのは、「ありふれた悲劇」という言葉でした。
米は、存続殺人事件の被害者である美子(みこ)の母親が若い頃に家を出て、その後美子が母の代わりに虐待を受けるという、まさに悲劇的な人生を歩んできたことを語ります。「人間の所行とは言えないような事件だが、こうした悲劇は決して珍しいものではない」という米の言葉に、航一は衝撃を受けます。

この「ありふれた悲劇」というフレーズは、航一が直面する司法の現実、そして彼がこれまで信じていた理想と現実のギャップを象徴しています。航一は、世の中の不条理や理不尽な現実に対して、心を痛める暇はないと語る米に対し、自らの弱さと向き合わざるを得なくなります。
航一は、米の言葉を受けて、心の中で葛藤を抱えます。理想を追い求めるあまり、現実の重みを無視してきた自分の姿勢に気づかされ、司法の世界での自分の役割を見直す必要があると感じます。
しかし、その一方で、桂場のように現実を受け入れて妥協することへの抵抗感も拭えません。自らが理想として掲げてきた「司法の独立」を守るために、何を捨て、何を選ぶべきか――その決断を迫られる航一は、苛立ちと失望の中で揺れ動きます。

航一の家族もまた、この難局に立たされています。娘のゆみは、雀荘でアルバイトをしながら、家族を支える役割を果たしています。ゆみの無垢な姿が、航一にとっては一つの救いでもあり、彼が現実と戦うための支えとなっています。
ゆみの成長と家族との絆が、航一の苦悩を少しずつ和らげるも、心の奥底にはまだ重い課題が残っています。

物語の終盤、航一は桂場との対話を思い返し、司法の現実と向き合う決意を固めます。桂場が示した現実は、決して航一にとって受け入れやすいものではありません。
しかし、理想を掲げ続けるだけでは変わらない現実もまた存在するのです。
航一は、米から学んだ「ありふれた悲劇」という言葉を胸に、司法の現場で何をすべきかを深く考え始めます。これまでの経験を通じて、彼が選ぶべき道はどちらなのか。物語は、その答えを見つけるための彼の内なる戦いへと進んでいきます。