"ラジオの涙" 第2話
正はの名を、さな帳面にき留めていた。
健が偶然その帳面を見たのは、ラジオを買ってから3かほどたった夜だった。
正が呂へった、ラジオの横にいたままの帳面が置かれていた。そこにはそのの放送で読まれた名が並び、所や齢、別れた所まで細かく記されていた。
番ろのページにだけ、何度もなぞったように濃くかれた名があった。
『茂 正13まれ 宮県巻』
そのには、もうの名が記されていた。
『 茂の妹 昭20815、駅防空壕跡』
健がさらに読もうとした、背で板が鳴った。振り返ると、呂からがった正がっていた。
「何をしている」
普段は聞いたことのないい声だった。健は慌てて帳面を閉じた。
「ごめんなさい。誰の名なのか気になって……」
正は帳面を奪うように取りげた。その顔にはりよりも、られたくなかったものを見られた恐れが浮かんでいた。
「もう度と見るな」
健は怯えながら頷いた。しかし、子どものにはしい疑問が残った。
茂とは誰なのか。なぜ父は、その妹の名までいているのか。そして昭20815、駅の防空壕跡で何があったのか。
翌朝、正は何事もなかったように印刷へ勤した。昨夜のことを謝りもせず、健を叱り直すこともしなかった。
広告
子は夫を送りした、健が見た名について聞いた。それでも、彼女にも当たりはなかった。
「お父さんが帰ってきた、持っていたのは背嚢つだけだったの。族がきていると分かっても、すぐにはばなかったわ」
「どうして?」
「自分だけが帰ってきたことを、申し訳ないとっているように見えた」
正が復員したのは、終戦から数かのことだった。痩せ細り、靴底は破れ、のへ着いてもへ入ろうとしなかった。子の母親が声をかけるまで、のにったままを見つめていたという。
「私は最初、戦争でが壊れてしまったのかとった。でも、お父さんは次のから働き始めた。を直して、べ物を探して、何もなかった暮らしをしずつて直してくれたのよ」
「だったら、どうして今も泣くの?」
子は答えられなかった。
その夜も午8になると、正はラジオのへ座った。健は布団に入ったふりをして、襖の隙から父を見ていた。
アナウンサーが名を読みげるたび、正の指がわずかにいた。しかし最まで『茂』も『』も呼ばれなかった。
放送が終わると、正は帳面へさく付をいた。そのに、い言葉を残した。
『今夜もなし』
正が茂と会ったのは、終戦ののだった。2は同じ部隊に所属していたが、親しくなったのは部隊が移を繰り返し、料も命令も満に届かなくなってからだった。
広告
茂は正より2歳で、沿いの町にまれた。漁師だった父をくにくし、母と妹のを支えるため、徴兵されるは造所で働いていた。
るくよく喋る男だった。わずかな休息のにも故郷のの話をし、妹が作った格好な袋を事そうに見せた。
「は縫い物がでな。のきさが違うんだ」
そう言いながら、茂は寒い夜になるとその袋を必ず着けた。正が笑うと、「帰ったら本に言ってやってくれ」と言い返した。
「なぜ俺が言うんだ」
「俺より先に帰った方が伝える。そう決めておけば、どちらかは必ず帰れる」
縁起でもない話だったが、2は笑った。戦況が悪化するほど、兵士たちは未来について冗談を言わなければ歩けなかった。
昭20、正たちの部隊は空襲と混乱のでばらばらになった。命令系統も崩れ、どこへ向かえばよいか分からないまま、数ずつで移するが続いた。
ある夜、焼けた倉庫のくで攻撃を受け、茂が脚を負傷した。傷はく、歩くことは難しかった。
正は肩を貸して連れていこうとしたが、茂は拒んだ。
「このままでは、おまでけなくなる」
「黙ってつかまれ」
「妹に伝える奴がいなくなるだろう」
正は何度もたせようとした。しかしくから再び爆発音が聞こえ、同していた兵士たちから急かされた。