"地下室に消えた名前" 第1話
200710、形県部のあいでは、葉が終わるより先にたいがり始めていた。杉林に囲まれた旧・羽精神療養所は、の空ので、取り残された巨なのように佇んでいた。
1938に設されたその施設は、半世紀以にわたって精神疾患を抱える患者を受け入れてきた。戦から戦にかけては、治療より隔をする傾向がく、本のとは無関係に期入院させられた者もなくなかった。
戦から帰還しても常活へ戻れなかった男性、産にの均衡を崩した女性、族の決めた結婚を拒んだだけで「異常」と見なされた若い娘。さまざまな事を抱えた々が、い壁と鉄格子の向こうへ送られた。
施設は1991、老朽化と経営難を理由に閉鎖された。患者のくは県内の病院へ移されたが、古い記録の理は分なまま、建物だけがに残された。
それから16。自治体は周辺域の再発に伴い、廃墟となった建物の解体を決めた。
事に先ち、元の代建築保会へ、内部を記録するためのち入り許がされた。保会は建築や郷史、学などで構成されたさな団体で、解体される古い建物の図面や写真を残す活を続けていた。
「像していたより傷んでいますね」
若建築士の佐藤直哉は、正面玄関を入ったところで井を見げた。
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34歳になる直哉は、形内の設計事務所に勤める傍ら、休には保会の調査へ参加していた。
井から垂れがった漆喰はを吸って黒ずみ、にはガラス片と剥がれた塗料が散乱していた。閉鎖当のものとわれる子が廊の隅に残され、その輪には蔓が絡みついている。
「が抜ける能性があります。壁際を歩かず、必ず2以でいてください」
保会代表の浦誠が注を促した。62歳の浦は元教師で、郷史を調べるうち、羽療養所の建築史に関を持つようになった物だった。
調査は3の予定で始まった。
直哉たちは各病棟を計測し、壁や窓枠、階段の構造を写真に収めた。かつて診察だった部には錆びた診察台が残り、事務のにはを吸った類がのように張りついていた。
類のくは判読できなかったが、患者の氏名らしき文字が見えるたび、直哉はカメラをろした。建物の歴史を記録するつもりで入ったものの、ここにいたのが単なる数字ではなく、活を持っただったことを忘れてはならないとったからだ。
調査最終の午、直哉は央棟1階の平面図を仕げていた。
メインホールは幅8メートル、奥き12メートル。側に診察、側に面会へ通じる廊がある。
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設計図に記された寸法と実際の壁面を照しているうち、直哉はわずかなずれに気づいた。
「浦さん。この部分、90センチほどいません」
「壁がからくされたんじゃないか」
「それだけでは説できません。廊もいんです」
直哉は巻き尺を持ち、何度も測り直した。設計図の数字が正しければ、メインホールのか奥に、記載されていない空がすることになる。
に積もった埃を箒で払うと、央付に方形の属枠が現れた。
縦約1メートル、横80センチ。周囲をいモルタルで固められ、取っも鍵穴もない。点検に見えたが、通常ならあるはずの蝶番まで覆い隠されていた。
「閉鎖に塞いだのでしょうか」
保会員の学院、藤本絵里が膝をついて縁を調べた。建築史を専攻する26歳の絵里は、属枠と材の代が違うことに気づいた。
「このモルタルだけしいです。といっても、なくとも30以は経っていますけど」
浦は自治体の担当者へ連絡し、確認を取った。返ってきた答えは、公式図面にも引き継ぎ資料にも、設備の記載はないというものだった。
建物は数週に解体される。そのままごと壊せば、に何があるのか分からないまま失われてしまう。
自治体の許を得たうえで、保会は表面のモルタルだけを慎に除することにした。
作業員が型の具を入れると、いに甲い音が響いた。
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