"五輪を見なかったテレビ屋" 第2話
「藤田さん、悪いねえ」
「構いません」
信夫はそう答えながら画面を調した。
国競技の映像が鮮に映ると、周囲から声ががった。
「おお、きれいだ」
「これならよく見える」
信夫は画面を度確認すると、何も言わずのへ戻った。
浩は、そのはまだ気にしていなかった。
父もすぐにてきて、緒に見るものだとっていたからだ。
やがて画面の向こうに巨な国競技が映しされ、商の々が斉にテレビへ顔を向けた。
本が待ち望んだ会式が、始まろうとしていた。
会式が始まると、藤田器のから常の音が消えた。
普段なら自転のベルや商の呼び声がび交うだったが、そのは誰もが黒のさな画面に釘付けになっていた。子どもたちまで騒ぐのを忘れ、膝を抱えながら国競技の様子を見つめていた。
選団の入が始まった。
世界各国の選たちが次々と競技へ入ってくる。
「国って、こんなに背がいんだな」
に座っていた老がしたように言うと、周囲から笑いが起きた。
「ほら、本だ」
誰かの声で、空気が変わった。
本選団が映しされると、も子どもも斉に拍をした。
「頑張れ!」
「すごいなあ」
「本当に京でオリンピックをやってるんだな」
歓声に包まれながら、浩も胸がくなるのをじていた。
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戦争をらない浩にとって、京オリンピックは単純にるい未来の象徴だった。幹線がり、速ができ、世界の々が京へやってくる。
学でも先が何度も話していた。
「これから本はもっと豊かになる」
浩はその言葉を疑っていなかった。
ふとろを振り向いた。
父がいない。
のにいるのかとい、浩はのを抜けた。
「どこくんだ?」
友に呼び止められたが、「すぐ戻る」とだけ答えてへ入った。
内にも父の姿はなかった。
修理台。
帳。
裏。
どこにもいない。
「父ちゃん?」
声をかけても返事がない。
奥へむと、倉庫へ続く扉がしいていた。
浩は扉を押した。
暗い倉庫には古いラジオの部品や段ボール箱、修理待ちの受像が積まれていた。から聞こえる会式の音が壁を隔ててさく響いている。
さらに奥で、信夫が座っていた。
古い箱のだった。
倉庫の裏側にあるさなシャッターが半分ほど閉められ、午の差しが細い帯になってへ落ちていた。そのので、父は何もせず箱を見つめていた。
「父ちゃん」
信夫の肩がわずかにいた。
「始まったよ」
「そうか」
振り返らない。
浩は拍子抜けした。
「そうかって……みんな見てるぞ」
「ああ」
「本の選も入ってきた」
「そうか」
それだけだった。
浩は父の横顔を見た。
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いつもと同じ無表に見えた。
しかし、何かが違っていた。
「見ないの?」
しがあった。
「おは見てこい」
「父ちゃんは?」
「俺はいい」
浩は理解できなかった。
この数か、誰よりも京オリンピックをにしていたのは客たちだったが、その客たちのために最も働いたのは父だった。
朝からテレビを運んだ。
夜遅くまで修理をした。
のにも根へがった。
会式までににわせてほしいと言われれば、事を回しにしてアンテナをてた。
そして今、自分ののテレビをわざわざへして、テレビを持っていないまで見られるようにした。
それなのに本は見ない。
「何でだよ」
信夫は答えなかった。
「せっかくなんだぞ。京でオリンピックやるんだぞ」
「分かってる」
「じゃあ見ればいいじゃないか」
「浩」
い声だった。
「戻れ」
命令されたようにじて、浩ので反発がまれた。
父はいつもそうだった。
何も説しない。
何を考えているのか言わない。
族にも自分の気持ちを見せない。
子どもの頃から、浩は何度もその背を見てきた。
「父ちゃんって、何でもそうだよな」
信夫がゆっくり顔をげた。
「何だ」
「何も言わない。何考えてるかも分からない」
「今する話じゃない」
「じゃあいつするんだよ」
からきな歓声が聞こえてきた。
画面ので何かが起きたのだろう。
その歓声が、暗い倉庫まで届いた。
浩は余計に腹がった。
「オリンピックなんて、本当はどうでもいいんだろ」