"判を押さなかった妻" 第3話
夜0を過ぎた頃、しい命保険の契約がてきた。被保険者は修司で、契約したのは7、受取欄には私ではない女性の名が記載されていた。
「野千佳」
私は初めて、その名をった。
さらに調べると、千佳という女性宛てに直接振り込まれた形跡こそなかったが、賃貸物件の更料、、旅代など、同じ域での支が期続いていた。計額は晩で簡単に理できる規模ではなく、私は度ごとに付箋を貼り、別のノートへ転記していった。
午2を過ぎる頃になると、議なことにしみよりの静さの方が勝っていた。痛みがきすぎる、私は昔から数字へ逃げ込む癖がある。数字にすればは消えないが、なくとも輪郭のない恐怖ではなくなる。
修司が11、どれだけのを「もうつの庭」に使ったのか。
私は卓を叩き続けた。
そして、途までした計額を見て、初めてを止めた。
私が像していたより、桁がつきかった。
翌朝、修司は昨夜の来事などなかったように卓へ座った。私がいつも通りコーヒーを淹れたので、自分がまだ庭の主導権を握っているとったのかもしれない。聞を広げながら「昨の件は急がなくてもいい。ただ、千佳にも都があるから1か以内には決めてくれ」
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と言った。
「そのに、お義母さんのところへってくるわ」
私が答えると、修司の聞がしがった。「今さら何をしにく」と尋ねられたが、私は「しばらく顔を見ていないから」とだけ答えた。澄の施設費については、計簿だけでは確認できないことがあった。
午、私はとバスを乗り継いで介護施設を訪ねた。92歳になった澄は以より体がさく見えたが、私の顔を見ると「佳代さん、久しぶりね」と笑った。認能には波があるものの、会話はまだ分成りっていた。
施設の相談員にも同席してもらい、私は過の契約内容について確認した。族として登録されている私が把握していた通り、2016に修司の申しで部を個から4部へ変更し、追加サービスの部を減らしていた。結果として族負担分は2万数千円程度軽くなっていた。
「ご本は、当かなり嫌がっていらっしゃいました」
相談員の言葉に私は顔をげた。
「嫌がっていたんですか?」
「個に慣れておられましたし、夜に何度かトイレへかれるので、周りに迷惑をかけるのではないかと配されていました。息子さんから『費用面で難しい』と伺ったので、こちらもできる限り調したんです」
私は胸が詰まった。
がには、そのも分な貯蓄があった。なくとも義母の個代を負担できないほど困っていたわけではない。
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修司は「しボケてきているから分からない」と私に言ったが、実際には澄自が環境の変化にをじていたのだ。
帰り際、澄が私のを握った。
「修司と喧嘩したの?」
私は驚いて顔を見た。齢になっても、母親は息子の変化に気づくものなのかもしれない。
「どうしてですか?」
「最あの子、ここへ来ても落ち着かないのよ。話ばかり見て、すぐ帰るでしょう。あなたが来てくれたは、昔はもっとゆっくりしていったのに」
私は事を話さなかった。ただ、「しのことで考えることがあって」とだけ答えると、澄はしばらく私を見つめた。
「佳代さん、あなたは修司のお母さんじゃないんだからね」
その言だけは、妙にはっきりしていた。
私は帰りのバスで何度もその言葉をい返した。
妻である私は、いつから夫の母親のようになっていたのだろう。事を作り、薬を分け、シャツを洗い、支払いを管理し、何か失敗すれば本が気づくに修正する。修司はそれを夫婦の役割分担だとっていただろうが、私はいつのにか、彼が自分できるために必な作業まで代わりにやっていた。
へ戻ると、修司はテレビで野球を見ていた。
「母さん、どうだった?」
「元気だったわ。でも2016に部を変えた、費用に困っているって施設に言ったのね」
修司の線が瞬だけ止まった。
「実際、はかかってただろ」
「でも、その同じから別の部に8万5000円払っていた」
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