"届かなかった母の手紙" 第6話
っていた。
けれど、そこまでく考えたことはなかった。
ハルは自分の名と所くらいならけた。
簡単な言葉も読めた。
ただ、い文章をくことはほとんどなかった。
佐々によれば、ハルは子どもの頃、学へ分に通うことができなかった。
が貧しかった。
田畑の仕事があった。
幼い弟や妹の世話もあった。
学へくより、を伝うことを求められるがかった。
そのまま読みきを分に覚えられずになった。
活するだけなら、それでも何とかなった。
には顔見りがく、分からない類は誰かに聞くこともできた。文字をかなければならない面自体、今ほどくなかった。
ところが芳子が京へったことで、初めて困った。
娘へをきたい。
しかしけない。
「芳ちゃんが京へって、しばらくしてからだった」
佐々は言った。
「お母さん、学へったんだ」
芳子が顔をげた。
「学?」
「夕方な。子どもたちが帰った」
ハルは昔からっている先を訪ねた。
教には誰もいない。
机のに夕が差し込むだった。
そこでハルは、先へをげた。
「先、字を教えてください」
先は驚いた。
60歳い女性が、突然学へ来て文字を習いたいと言ったのだ。
「どうしたんですか」
そう聞くと、ハルは恥ずかしそうに答えたという。
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「京にいる娘へ、をきたいんです」
その目だけだった。
最初に練習したのは、娘の名だった。
「よしこ」
何度いても形がわない。
鉛を持つに力が入りすぎ、を破きそうになることもあった。
先は「ゆっくりでいいですよ」と何度も励ました。
最初の葉にけたのは、
「よしこへ」
それだけだった。
「これがその葉だ」
佐々が指で示した。
芳子は目をせなかった。
次の葉には、
「げんきか」
とかれていた。
その次には、
「ごはんたべてるか」
文字は相変わらず揃いだったが、しずつ増えている。
「お母さん、毎のように練習したそうだ」
佐々は続けた。
農作業が終わった。
事を済ませた。
眠る。
聞の文字を見ながら真似していた。
分からない文字があれば、次に学へったに先へ聞いた。
そしてける言葉が増えると、葉へいた。
しかし、1文字違えるたびに捨てようとした。
先は止めた。
「ハルさん、このまましても芳子ちゃんはびますよ」
けれどハルは頑として首を横に振った。
「こんな字、京のに見られたら、芳子が恥をかく」
その話を聞いた芳子は、目を見いた。
「私が……恥を?」
「お母さんは、ずっとそれを配してたんだ」
都会の寮には勢の女がいる。
郵便物は寮母やのの目にも触れる。
そこで、文字も満にけない母親から来たを見られたらどうなる。
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「字もけない母親の娘」
そう笑われるのではないか。
ハルはそれを恐れた。
だから、もっとになったら送ろうとった。
もうし字を覚えたら。
もうしきれいにけたら。
娘が恥ずかしくないをけるようになったら。
そうっているうちに、1が過ぎた。
そして2。
3。
4。
葉だけが、箱のに増えていった。
芳子は何も言えなかった。
4、自分はを待ち続けていた。
その同じ4、母もまた、をくために文字を覚え続けていた。
芳子は震える指で、箱の葉を1枚ずつめくり始めた。
昭366。
「とうきょうはあついか」
たったそれだけだった。
けれど芳子は、その文章を何度も読み返した。
昭36の。
京に来たばかりの自分は、慣れない暑さので毎へ通っていた。
母は田で、自分のことを考えていた。
次の葉。
「しごとはたいへんか」
さらに次。
「むりするな」
文字は何度もき直されていた。
鉛でくきをした跡もあり、そのから慎になぞったものもあった。
昭371。
「ゆきがいっぱいふった」
芳子の脳裏に、故郷の景が浮かんだ。
軒へ積もる。
朝になると母がを片づける音。
京の寮で、の女たちがから届いた正の餅をべていた頃、母はのでこの葉をいていた。
そして、箱のほどに、何度もき直した跡のある葉があった。
の端がし皺になっている。