"三度目の金色の玉" 第1話
昭5312。
京郊にある古い商では、今も歳末売しが始まっていた。アーケードの入にはの旗が何本も並び、のが吹き込むたびに、ぱたぱたとさな音をてて揺れている。
魚の先からは、「今はいよ」「正用に持っていって」と威勢のいい声がんでいた。乾物には昆布や鰹節、干し椎茸がのように積まれ、し先のレコードからは、そのの暮れによくにした謡曲が流れていた。
商を歩く買い物客のには、袋や呂敷包みがいくつもぶらがっていた。500円買い物をするごとに福引券が1枚もらえるため、先では「あとし買えばもう1枚ですよ」と声をかける員もいた。
商の央には、板で囲ったさな福引所が作られていた。
には油ストーブが置かれ、その横にきな製の抽選器が据えられている。取っを握って回すと、ガラガラという音が商の端まで響き、玉が落ちるたびに子どもたちが駆け寄ってきた。
今の等は、品の婦用自転だった。
等は気毛布。
等は醤油と砂糖の詰めわせ。
それよりにも洗剤や菓子、ポケットティッシュなどが用されていた。豪華な景品ばかりではなかったが、暮れの商にとって福引は毎欠かせない事だった。
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そんな福引の季節になると、必ず名がる女性がいた。
林千代、46歳。
商からしれたで、学の息子と2で暮らしていた。夫を数にくしてからは仕しで働き、朝から夕方まで休むもなく働いていることでられていた。
千代自は決して目つではなかった。
声で笑うこともなく、誰かの噂話の輪に積極に加わることもない。買い物に来れば必なものだけを選び、代を払うと、「ありがとう」とさくをげて帰っていくような女性だった。
それなのに、福引の期だけは注目を集めた。
理由は単純だった。
千代は2続けて等を当てていたのである。
昭51の等は気炊飯器だった。
古い炊飯器をく使っていた千代が、の玉をした瞬、福引所ではきな拍が起きた。本も驚いた顔をして、何度も「本当に私ですか」と聞き返していた。
翌昭52。
今度の等は油ストーブだった。
そして千代は、また等を引いた。
2続けてとなれば、さすがに商でも話題になった。
「林さんはくじ運がいんだな」
「宝くじでも買ったらいいんじゃないか」
そんな冗談を言う者もいた。
千代は困ったように笑いながら、ストーブを受け取って帰っていった。
そして昭53。
歳末売しが始まって数目の午、千代は何枚もの福引券をに商へやって来た。
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の茶い着を着て、肩からさな買い物袋をげている。いつも通りの千代だったが、その姿に気づいた主たちのには、ちょっとしたざわめきが起こった。
百の若主、俊夫もその1だった。
先に積んだ菜を並べ直しながら、くに千代を見つけると、隣にいた肉の主へ顎をしゃくった。
「来たぞ」
肉の主が振り返った。
「誰が?」
「林さんだよ」
「ああ」
が分かると、肉の主は声をてて笑った。
俊夫も苦笑しながら言った。
「まさか今も等じゃないだろうな」
「そんなことあるかよ。3続けてなんて、いくら何でも無理だ」
「だよな」
2はそう言ったものの、千代が福引所へづくにつれ、自然にそちらへ目が向いていた。
千代は福引券を係のに渡した。
老会の森田が枚数を確認し、「何回か回せるな」と声をかける。
千代は袋をし、抽選器の取っを握った。
ガラガラ。
最初の玉はだった。
参加賞。
次も。
その次も。
周囲にいた々の緊張もしずつほどけ、「さすがに今はないか」と笑い声が漏れ始めた。
千代自も特に気にする様子はなかった。
残った福引券を森田へ渡し、もう度抽選器を回した。
ガラガラ、ガラガラ。
そして取っをゆっくり戻した。
コロン。
受け皿に落ちた玉を見て、俊夫はわずを止めた。
だった。
そのにいた誰もが、瞬だけ黙った。
森田さえ、玉を見つめたままかなかった。