"ただいまの裏にあった10年" 第3話
髪も髭も伸び、頬はくこけている。失踪の健とはあまりにも違って見えた。
それでも、目の形が似ていた。
声も同じように聞こえた。
男性はゆっくり頷いた。
その頬を涙が伝った。
「母さん……」
かず子は次の瞬、男性へ駆け寄っていた。
「健!」
両腕でく抱きしめると、男性の体は驚くほど細かった。骨ばった背へを回しながら、かず子は声をげて泣いた。
奥から物音を聞きつけた誠がてきた。
「どうした」
玄関先で抱きう2を見て、が止まった。
男性が顔をげた。
「父さん」
誠はすぐにはづかなかった。
妻のようにのまま抱きつくことができなかった。
2というが、父親のに慎さを作っていた。
痩せ方も髪型も違う。
本当に健なのか。
誠は数歩み、男性の顔をから見た。
そしてを取った。
のひらに、さな傷跡があった。
健が学の頃、作の授業につけた傷と同じ所だった。
「健……なのか」
誠の声も震えた。
男性は何度も頷いた。
その直、したように膝から崩れ落ちた。
「とにかくに入りなさい」
誠とかず子はから体を支え、男性を居のソファへ座らせた。
かず子はすぐに台所へき、温かいお茶を淹れた。茶碗を受け取った男性は、両で包むように持ちながらしずつへ運んだ。
しばらくして、誠が尋ねた。
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「2、どこにいたんだ」
男性は茶碗を見つめた。
「分からないんです」
「分からない?」
「覚えていないんです。ほとんど何も」
話は断片だった。
気がついたにはらない所にいた。
自分が誰なのかも分からなかった。
どこかを転々としていたような気はするが、具体な所もの名もいせない。
ただ、あるから「に帰らなければ」という気持ちだけがくなった。
歩き続けるうち岡へ着き、見覚えのある並みを見て、佐藤までたどり着いたという。
誠はすぐ警察へ連絡した。
やがて岡警察署から2の警察官が来た。そのうちの1は、2から健の捜索に関わっていた刑事だった。
45歳になったは玄関へ入るなり、男性の姿を慎に確認した。
「佐藤さん、本当に息子さんだとわれますか」
誠とかず子は揃って頷いた。
「違いありません。この子です」
は男性へ名、、族構成などを尋ねた。
男性は全て答えた。
佐藤健。
23歳で失踪し、現25歳。
父は誠。
母はかず子。
所も違っていない。
ただし、失踪した昭60815から現までの記憶だけが、ほぼ完全に抜け落ちていた。
は体特徴も確かめた。
のひらの傷。
肩にある、子供の頃についた古い傷跡。
は約172センチ。
どれも捜索資料に記されている健の特徴と致していた。
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は2の写真と目のの男性を何度も見比べた。
顔は痩せていたが、目や、の位置などの特徴もよく似ていた。
「ご両親が確認され、体特徴も致しています。現点では佐藤健さんと考えてよいでしょう」
昭62当、DNA鑑定は元確認のため般に使われるものではなかった。
何より両親自が、疑っていなかった。
翌、男性は内の総病院で診察を受けた。
部にきな傷の痕跡は見つからなかった。医師は、い精神な負担などによって記憶が失われている能性もあるため、しばらく様子を見るよう説した。
かず子にとって、それ以のことは必なかった。
「きて帰ってきたんだから、それだけでいいの」
帰宅した夜、かず子はそう言って男性のを握った。
「いせなくたって、あなたは健よ」
男性はしばらく母親の顔を見つめた、静かに頷いた。
そのから、止まっていた佐藤のが再びき始めた。
かず子はしいを何着も買った。
誠は髪を切り、髭を剃るよう勧めた。
散髪を終えた男性がへ戻ってくると、かず子は玄関で元を押さえた。
「やっぱり健だわ」
くえられた髪。
髭のない顔。
以より痩せてはいたが、失踪の息子の面が戻っていた。
所の々も次々と訪ねてきた。
「よく帰ってきたね」
「お父さんもお母さんも、本当に待ってたんだよ」
男性はそのたびくをげた。
以の健よりもししくなったように見えたが、誰も議にはわなかった。
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