"帰る家は、ちゃんとあった" 第1話
「同居介護が嫌ならていけよ。まあ、親なし女に帰るがあるならの話だけどな」
その夜、夫の順は、の悪い義母を連れて突然自宅へ帰ってきた。玄関先にはきな荷物が置かれ、義母は松葉杖をついたまま、まるで最初からここで暮らすことが決まっていたような顔をしていた。
私は何も聞かされていなかった。
義母はしからを悪くし、1での常活が難しくなっていた。そのため私は仕事のを調しながら義実へ通い、掃除や事の支度、の回りの世話を続けてきた。
しかし、義母から謝されたことはほとんどなかった。
「そんなやり方じゃ駄目」
「本当に気が利かない嫁ね」
「順はであんなに頑張ってるのに、あなたはで楽な仕事しかしてないんでしょう」
何をしても文句を言われ、ときには聞やリモコンまで投げつけられた。順に相談しても、返ってくるのは私を責める言葉ばかりだった。
それでも私は、できる限りしてきた。
幼い頃に両親をくした私にとって、義理とはいえしく母親と呼べるができたことは、結婚当初とても嬉しかったからだ。いつか義母も私を族として認めてくれるのではないかと、どこかで期待していた。
だが、その期待を踏みにじり続けたのは義母本だった。
私は限界を迎え、しずつ義実へを運ぶ回数を減らしていた。
広告
そんな私に対し、順は相談するどころか、義母を直接へ連れてきた。
「お、最母さんの世話をサボってるだろ」
リビングに入るなり、順は責めるように言った。
私はゆっくりと息を吸った。
「サボってるって何? お母さんは私に介護されたくないって何度も言ってるし、私だってもう限界なの。あなたにも相談したでしょう。それなのに何も聞いてくれなかったじゃない」
すると順は、私の言葉を遮るように声を荒らげた。
「施設も見つからないし、母さんはここにませることにしたから」
私はを疑った。
「今、何て言ったの?」
「だから、今から母さんはここで暮らす。おが介護すればいいだろ」
「私に何の相談もなく?」
「俺は仕事があるんだよ。おはにいるんだからできるだろ」
その言葉に、胸の奥がえていった。
順はさらに私を見ろすように笑った。
「同居介護が嫌ならていけよ。まあ、親なし女に帰るがあるならの話だけどな」
隣で聞いていた義母も、元を歪めた。
「そうよね。霞さんには親なんていないんだから、帰るなんてどこにもないものね。これからは私の介護をしっかりやってもらわないと」
2が笑った。
その瞬、私ので何かが音をてて切れた。
これまで残っていたも、族として切にしたいという気持ちも、全部消えた。
広告
私は議なくらい静だった。
「分かったわ」
順が得げな表を浮かべた。
私は続けた。
「それじゃあ、婚しましょう」
「は?」
順の顔から笑みが消えた。
義母もを半きにして私を見る。
「そして私は実に戻ります」
「実?」
順がの抜けた声をした。
義母はすぐにで笑った。
「何を言ってるの。実なんてないくせに」
私は2をまっすぐ見た。
「ありますよ」
「え?」
「あなたたちがらないだけです。兄がずっと守ってくれていますから」
順の顔が張った。
「あ、兄? どういうことだよ」
私は答えなかった。
そのまま寝へ向かい、荷物をまとめ始めた。
もう1秒でもく、このにいたくなかった。
私の名は霞。35歳。
そして順がい込んでいるほど、私は「帰る所のない女」ではなかった。
むしろ私には、幼い頃からずっと私を守り続けてくれた族がいた。
私が両親をくしたのは、5歳のだった。
幼かったため記憶のくは曖昧になっている。それでも、あのの午のだけは今でも妙にはっきり覚えている。
幼稚園の窓から差し込んでいた、穏やかな差し。
いつも通りなら、迎えに来るのは母だった。
けれど、その、園ののにっていたのは祖母だった。
「おばあちゃん?」
嬉しいような、議なような気持ちで私は駆け寄った。
祖母は私のを握った。
いつもより力がかった。
「今のお迎えは、ママじゃなくておばあちゃんなんだね」
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 418 -
完結第15話
二十人分の祝い膳を押しつけられたので、家を出ました
義母から「家族のお祝いだから」と押し付けられたのは、二十人分の料理作りと高額な費用負担。 夫も義妹も、私を一人の家族ではなく、都合よく使える存在として扱っていた。 五年間、我慢し続けた嫁・美咲は、ある決断をする。 それは、義妹の息子の一歳祝いの前日に、すべてを捨てて家を出ることだった。 しかし、静かに準備を進める中で、美咲は夫と義母が隠していた驚くべき事実を知る。 そこには、単なる身勝手な家族関係では終わらない、彼女を縛り続けるための計画が隠されていた。 そして迎えた祝いの日。 親戚二十人が待つ食卓に残されたのは、豪華な料理ではなく、誰も予想しなかった「空っぽの祝い膳」だった。 奪われ続けた人生を取り戻すため、美咲が選んだ静かな反撃とは――。嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 284 -
完結第16話
十字の紙片と売られた生家
「母さん、老人ホームに入れ。この家も売る」息子夫婦はカナダ移住を前に、相場の半値以下の査定書と山奥の隔離施設のパンフレットを突きつけてきた。共働きで多忙な彼らに代わり、十年間孫娘を育て上げ、遺産から数百万円を用立ててきた私への仕打ちがこれだった。絶望に沈む私の手に、高校生の孫娘が震えながら押し込んだのは、固く折られた「十文字のチラシの紙片」。「明日の朝までに、実印と通帳は絶対に渡さないで」。深夜二時、一人で開いたその紙には、全てを覆す戦慄の計画が記されていた。私は仏壇の隠し金庫に手を伸ばし――。祖父母と孫|介護2.4万字5 426 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3039 -
完結第14話
月二十五万を貪る偽装役員一家の転落
外資系コンサルティングファームで働く小笠原萌子は、お見合いで大手企業勤務のエリート・東野広夢と結婚した。しかし新婚早々、夫の経歴が全て嘘で、定職すら就いていない無職だと発覚する。さらに広夢は「大企業の役員に抜擢された」と両親に大嘘を吹き込み、見栄を張る義父母は都心のタワマン家賃二十五万円や、百万円の旅行代を萌子の給料から平然と搾取し始めた。夫の度重なる深夜帰宅に不審を抱いた萌子が財布を探ると、そこには見知らぬ甘い香りと、黒地に金箔押しされた高級シティホテルの会員カードが。探偵の分厚い報告書によって夫のキャバクラ通いと裏切りが露呈したとき、萌子は離婚を決意する。だが、金の蛇口を止められた元夫と義家族の強欲は暴走し、SNSでの悪質なデマ拡散、そして新居への土足侵入へとエスカレートしていく。すべてを奪おうとする寄生虫たちに、萌子が下す冷徹な鉄槌とは――。嫁姑|夫婦2.4万字5 695 -
完結第15話
元義母の誤爆着信と暴かれた花婿の嘘
モラハラと不倫を重ねた夫・裕二と離婚し、独身としての平穏な生活を取り戻してちょうど一年が経ったある休日の朝。主人公・マナのスマートフォンに、元義母・文から突如「結婚式になぜ来ないの! 早く来ないと離婚させるわよ!」と怒鳴りつける狂気の電話が入る。 「私はもう独身ですが」と告げるも、来なければ自宅や職場に押しかけると脅され、指定された高級シティホテルの式場へ向かうマナ。黒留袖姿で激怒する文は、新郎となった息子の晴れ舞台を元嫁が邪魔しに来たとロビーで激しく罵倒し、白タキシード姿の元夫も腕力で追い出そうと詰め寄る。 だが、文のスマートフォンの発信履歴を確認させた瞬間、事態は暗転。人身事故で遅延していた本当の新婦「まみ」が泥だらけのパンプスで駆けつけた時、元夫が隠し続けていた致命的な大嘘が白日の下に晒される――。嫁姑|修羅場2.5万字5 358 -
完結第23話
義母が突然、結婚指輪をくれた
夫が亡くなった日、義母は「もう家族じゃない」と私と娘を雨の中に追い出した。それから二年、一度の連絡もなかった義母が娘の小学校入学を控えた夕暮れ、四十年間外さなかった結婚指輪を私の指に無理やり嵌めて頭を下げた。翌日、親族が集まる祝いの席で和解を受け入れようとした私の前で、義母は冷たい笑みを浮かべ、夫が生前に娘の氏の変更書類を用意していたのではないかと問い詰めてきた。私の手の中で箸が止まった。裡切られた|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|修羅場3.5万字5 127 -
完結第20話
偽りの仕送りと緑の通帳
専業主婦の佐藤真美は、長年にわたり傲慢な義母・君代から「無収入の居候」と見下され続けてきた。夫の減給により進学を断念し、誇りを持って介護職に就いた二十歳の娘・奈々までも、義母は「高卒の無能な孫」と親戚の前で嘲笑する。さらに君代は「長男の嫁・恭子を見習い、毎月十五万円を仕送りしろ」と理不尽な要求を突きつけてきた。耐えかねた真美が恭子に相談すると、長男一家の仕送りに隠された信じがたい事実が判明する。義母の言う通り「見習う」ことを決意した真美は、夫の浩一を巻き込み、スマートフォンに収めたATMの振込画面の写真と、タンスの上の空の茶封筒を使ったある計画を仕掛ける。だが、疑念を深めた義母が「緑の銀行通帳」を差し出し、記帳を命じたことで事態は急転する――。嫁姑|真相3.0万字5 721 -
完結第21話
母を遠ざける姉の嘘
長野で一人暮らす母の介護を一手に担う姉から「母の体調が悪化するから来るな」と言われ、私は五年間帰省を控え、毎月五万円の仕送りを続けていた。だがある夜、母から五年ぶりに直接電話が入る。「まだ怒ってるの。あんたが私の顔も見たくないと言っていたと姉から聞いた」と母は怯えていた。直後に受話器を奪った姉は「母の被害妄想だ」と言い放つ。不審に思った私は姉に告げず始発の新幹線に乗り、五年ぶりに実家の引き戸を開けた。兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|介護3.2万字5 166 -
完結第19話
完璧な夫に給料を突き返した朝
毎月二十五日、夫は手取り四十五万円の給料を一円も引かずに私の口座へ振り込み、親戚の前で完璧な夫として称賛されている。だがその裏で、私は息子の塾代を払うために結婚五周年の指輪を買取店へ持ち込んでいた。固定費と夫のカード代だけで毎月赤字が続き、私の独身時代の貯金も底をついた。翌朝、いつも通り振り込まれた四十五万円の通知を見つめた私は、その全額をそのまま夫の口座へ送金し、スマートフォンの画面を伏せた。嫁姑|夫婦|金銭問題|修羅場2.9万字5 7822