"仕送り10万円の行方" 第4話
「分かってる」
「仕送り10万円じゃりないの?」
父がきを止めた。
「仕送り?」
「毎送ってるでしょう」
「何の話だ?」
私は笑えなくなった。
「お父さんの座に毎10万円」
「美幸」
父は真顔だった。
「俺は円ももらってないぞ」
「……え?」
「仕送りなんてらない」
私は慌ててスマートフォンをにした。
「待って。に話して確認する」
すると父が首をかしげた。
「?」
「そうよ」
「俺が普段使ってるのは、郵便局の座だぞ」
指先が止まった。
由利から送られてきたのは座だった。
父の座ではない。
では。
私は毎、誰に10万円を送っていたのか。
考えたくなかった名がに浮かんだ。
由利。
その瞬、背からさな音がした。
振り向く。
武志が、ソファの横でガタガタと震えていた。
顔は真っ青だった。
額には汗が浮かんでいる。
「武志?」
「……」
私はゆっくりづいた。
夫の肩へを置く。
びくりと体がねた。
「ねえ」
できる限り静かな声で尋ねた。
「あなた、何かってるわよね?」
武志の唇が震えた。
「俺は……」
そこで言葉が止まった。
「らない」
武志は度そう言った。
しかし、顔を背けた頬を汗が流れている。
信じられるはずがなかった。
「嘘をつかないで」
「本当に俺は――」
「じゃあ何で震えてるの?」
父も黙って武志を見ていた。
私はもう度尋ねた。
「由利から聞いていたの?」
しばらくして、武志の肩から力が抜けた。
「……ごめん」
広告
「何を?」
「ちゃんと話すつもりだったんだ」
その言葉ほど信用できないものはない。
武志は俯いたまま言った。
「俺、会社をクビになった」
今度は私が言葉を失った。
「いつ?」
「美幸がお父さんへの仕送りを始めた頃」
「どうして?」
武志はで由利に会ったのことを話し始めた。
由利は借に追われていた。
そして突然、
「200万円貸して」
と頼んできたという。
「断ればよかったじゃない」
「美幸の姉さんだし、本当に困ってるとったんだ」
「そんな、どこにあったの?」
武志が黙る。
その沈黙だけで嫌な予がした。
「会社の?」
「……に借りただけのつもりだった」
私は目を閉じた。
会社で回収していた200万円をに流用し、由利へ渡した。
すぐ返すと言われて信じた。
しかし約束のになっても返されず、会社に発覚。
由利は最終には200万円を返したため刑事告発まではされなかったが、武志は当然解雇された。
「馬鹿じゃないの?」
それ以の言葉がなかった。
「本当にそうう」
「それで今まで毎、会社にくふりをしてたの?」
「すぐ別の仕事は見つかった」
「どんな仕事?」
「清掃のアルバイト」
正社員ではない。
当然、収入もがった。
それなのに武志は今までと同じように、毎10万円を義実へ入れていた。
「どうやって?」
答えは分かっているような気がした。
武志がさな声で言う。
広告
「由利さんからもらってた」
胸の奥で何かが切れた。
「いくら?」
「……8万円くらい」
「そのおが、私の仕送りからてるとってたの?」
「最初はらなかった」
「最初は?」
「途で、分そうなんじゃないかって」
私は武志を睨んだ。
「ってて受け取ったのね」
「度は断ったんだ。でも俺もにを入れないと母さんに何を言われるか……」
「だから父のおを盗んでもいいと?」
「違う!」
「何が違うの?」
父がに入った。
「美幸、し落ち着け」
「お父さんに送ったおよ」
「武志君も追い込まれていたんだろう」
「事があればのおを使っていいの?」
父は黙った。
私は涙がそうになるのを必に堪えた。
会社を解雇されたことよりも。
を受け取っていたことよりも。
番悔しかったのは、武志が私に何も相談しなかったことだった。
5、夫婦として暮らした。
それなのに窮に陥った、彼は妻ではなく由利に頼った。
「もう決めた」
「何を?」
「いずれ婚する」
武志が顔をげた。
「待ってくれ」
「今すぐじゃない」
私はたく答えた。
「そのに由利が何をしたのか全部調べる」
そして父を見る。
「お父さん。今の仕送りは本当の郵便局座に入れるから」
「別に俺は――」
「これは私がしたいの」
父はしばらく私を見たあと、さく頷いた。
由利が異変に気づくのは、次の振込を過ぎてからだろう。
約1か。
そのにすべて調べる。
私は親友の島未希へ連絡した。
未希は弁護士をしている。
事を話すと、話の向こうでい返事が返った。
『仕事としてなら受ける』
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 478 -
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 614 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 202 -
完結第22話
夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉
深夜2時、救急外来で夜勤中の看護師・佐藤み咲のもとへ、交通事故で重傷を負った男女2人が搬送されてきた。シーツの下にいたのは、夫・拓也と義姉・麗子。しかも2人は、決して「姉弟愛」では説明できない姿で倒れていた。 み咲は5年間、看護師という仕事を見下す夫と、「子供も産めない」と侮辱する麗子、その2人を庇い続ける義母・里子に耐えてきた。 それでも彼女は感情を捨て、看護師として2人の命を救うことを選ぶ。 だが、惨状を目にした義母まで「全部あなたのせい」とみ咲を罵倒した瞬間、最後の迷いは消えた。 何年も残してきた暴言の記録と証拠を武器に、奪われ続けた人生を取り戻す反撃が静かに始まる――。夫婦|修羅場|不倫3.3万字5 3051 -
完結第14話
月二十五万を貪る偽装役員一家の転落
外資系コンサルティングファームで働く小笠原萌子は、お見合いで大手企業勤務のエリート・東野広夢と結婚した。しかし新婚早々、夫の経歴が全て嘘で、定職すら就いていない無職だと発覚する。さらに広夢は「大企業の役員に抜擢された」と両親に大嘘を吹き込み、見栄を張る義父母は都心のタワマン家賃二十五万円や、百万円の旅行代を萌子の給料から平然と搾取し始めた。夫の度重なる深夜帰宅に不審を抱いた萌子が財布を探ると、そこには見知らぬ甘い香りと、黒地に金箔押しされた高級シティホテルの会員カードが。探偵の分厚い報告書によって夫のキャバクラ通いと裏切りが露呈したとき、萌子は離婚を決意する。だが、金の蛇口を止められた元夫と義家族の強欲は暴走し、SNSでの悪質なデマ拡散、そして新居への土足侵入へとエスカレートしていく。すべてを奪おうとする寄生虫たちに、萌子が下す冷徹な鉄槌とは――。嫁姑|夫婦2.4万字5 695 -
完結第11話
「子どもを産めない」と捨てられた妻の逆転
結婚前は優しく誠実だった夫・誠。 しかし結婚後、彼の本性は少しずつ姿を現していった。 子どもを望めない妻を「役立たず」と罵り、家では暴言を浴びせながら、自分は若い女性との時間を楽しむ。 かな子は「自分が悪いのだ」と耐え続け、愛した人との生活を守ろうとしていた。 だが、ある夜、夫の裏切りを示す決定的な証拠を見つける。 そして離婚を決意したかな子のもとに、長年知らされていなかった父からの連絡が届く。 そこで明かされたのは、彼女自身も知らなかった巨大な財産と、人生をやり直すための力だった。 すべてを失ったと思っていた妻が、実は何も持たない弱者ではなかったと知った時――。 誠の傲慢な要求と、隠されていた真実が次々と崩れ始める。 愛だと信じた結婚の終わりから、かな子の本当の人生が始まる。夫婦|第二の人生|不倫1.6万字5 397 -
完結第32話
不妊を理由に別れた元妻が、機内で双子を抱いていた
5年前、妻・小百合に「ほぼ不妊」という診断が下された瞬間、俺は後継ぎを求める父の言葉に従い、彼女へ離婚届を突きつけた。あの選択は正しかった――そう信じて生きてきた俺の前に、ファーストクラスで小百合と、自分に瓜二つの幼い双子が現れる。 真相を追ううち、俺は恐ろしい事実に辿り着く。不妊診断そのものが偽りであり、小百合は両親まで脅され、何も言えないまま俺の前から消えていた。そして、その全てを裏で仕組んだのは、俺が誰より尊敬してきた父だった。 さらに、本当に問題を抱えていたのは小百合ではなく俺自身で、双子は離婚直前に宿った俺の子供だと判明する。 妻を捨て、子供たちの5年間まで奪ってしまった俺は、もう父の作った「正しい人生」に従うつもりはない。失った家族と向き合い、父が守り続けてきた巨大な権力と秘密に、自分の手で決着をつけると決めた――。夫婦|熟年離婚4.9万字5 8453 -
完結第10話
妹が断った牡蠣漁師は、港の社長だった
「貧乏な漁師なんて絶対に嫌」――妹・美咲が鼻で笑って断った縁談を、35歳の私・香織が代わりに受けることになった。幼い頃から何でも妹を優先され、「我慢できる姉」として生きてきた私にとって、それは初めて自分で選んだ人生だった。 相手の総一郎は、古い家と軽トラックで暮らす不器用な牡蠣漁師。ところが島では誰もが彼に頭を下げ、格式高い老舗料亭まで最上級の敬意を払う。やがて大嵐で加工場が壊れ、会社が存続の危機に陥る中、私は書店員時代に培った「名前と物語を届ける力」で直売所を立ち上げる。そんな矢先、総一郎の本当の立場を知った母と美咲が現れ、「その縁談は本来、美咲のものだった」と言い出す。そして料亭に掛けられた、値段も生産者名もない古い「牡蠣」の木札が、夫にも知らされていなかった過去へとつながっていく――。夫婦|修羅場1.4万字5 748 -
完結第13話
十年の沈黙と離婚届
明治から続く旧家・宗方家に嫁ぎ、十年間「無能な嫁」と蔑まれながら耐え忍んできた白木咲子。義父からは冷え切った古米を押し付けられ、義母や義姉からは下女のように扱われ、夫の孝幸は浮気を重ねては嘲笑を浮かべる日々。ある激しい雷雨の夜、孝幸は朱肉の鮮やかな『離婚届』を卓上に放り出し、「子供も産めぬ役立たずは今日限りで出て行け」と冷酷に追放を宣告する。 だが、咲子の指先は一片も震えていなかった。彼女が着物の帯の間へ静かに滑り込ませたその紙切れこそ、十年間待ち続けた反撃の「合図」だったのだ。 宗方一族四十二人が寄生し、高給を貪る企業群。その頂点に君臨する巨大財閥「白木グループ」の真の支配者は誰なのか――。翌朝、受話器から呼び出された直通秘書ライン。すべてを奪ったと信じ込む傲慢な一族に、音もなく下される苛烈な審判とは。夫婦|修羅場1.9万字5 1124 -
完結第31話
母の還暦祝いで家を奪おうとした夫
「あのマンションは、誕生日会さえ終われば俺たちのものになる」――夫を驚かせようとオフィスのキャビネットに隠れた私・ゆかは、愛していたレオの電話を聞いて凍りつく。亡き父が残し、母が守り抜いたマンションを、還暦祝いの場で親戚ごと丸め込み、私に同意させて奪うつもりだったのだ。 しかも電話の相手は、最近の不審な行動の先にいた女・まゆ。五年間信じた“優しい夫”の正体は、私の情と世間体まで計算する男だった。私は泣いて問い詰める代わりに、会話を録音し、権利書を守り、わざと資産整理の資料を餌として置く。そして彼自身が用意した母の誕生日会に、同僚や取引先まで招き入れる。私を逃げられない舞台へ上げるつもりの夫はまだ知らない。その日、追い詰められる側が誰なのかを――。夫婦4.7万字5 1526