"山に捨てられた妻は立ち上がる" 第5話
「誰が、私のを確認したんですか」
護師は答えられなかった。記録は佳奈本の申しになっているが、実際に会話した職員はいない。類を持参した健が、妻はと話すと興奮するからと面談を断っていた。
治療チームには、佳奈が夫のでほとんど反応しない姿だけが伝わっていた。その姿さえ、薬で眠らされていた結果だった。
拒否した覚えなどなかった。自分を傷つけたことも度もない。
佳奈が類を見せてほしいと頼むと、護師は担当者へ確認し、写しを持ってきた。
《リハビリテーション実施拒否申》
には、鈴佳奈という署名と実印があった。署名は滑らかで、震えも迷いもない。今の佳奈にはけないほどっていた。
夫が奪おうとしているのは、会社や20億円の産だけではなかった。
もう度、自分のでてるかもしれない能性まで、最初から消すつもりだったのだ。
佳奈は類を護師へ返し、目を閉じた。りを見せれば、健へ伝わるかもしれない。今はまだ、何も気づいていない患者でいなければならない。
けれど掛け布団ので握ったには、はっきりと力が戻っていた。
会社を奪われても、産を奪われても、証拠があれば取り返せる。
だが、治療のだけは戻らない。
健は佳奈の財産だけでなく、再びちがるための未来まで盗もうとしていた。
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第5話 先からの返事
翌朝、病へ来たのは、リハビリテーション科医の浦真紀と理学療法士の佐藤美咲だった。
浦はベッド脇の子に座り、最初に付、病院名、事故の経緯を尋ねた。佳奈はすべて正確に答えた。続いて、治療を拒否したことも自分を傷つけようとしたことも度もないと説した。
「ご主が提した申は、私がいたものではありません。署名も実印も、眠っているに使われました」
浦はすぐに結論をにせず、類の写しと佳奈の顔を交互に見た。
「そのことをご主には伝えてもいいですか」
「まだ伝えないでください。私がどこまで回復しているかも、らせたくありません」
患者本に判断能力がある以、病状の詳しい説を誰に許するかは佳奈が決められる。浦はそのを診療記録へ残し、今は佳奈の確な同がない限り、健へリハビリの内容を伝えないと約束した。
「ただし、私たちは治療を隠れてうわけではありません。正式な診療として記録します。ご主に話さないことと、記録を残さないことは別です」
その言葉に、佳奈は初めてしした。
浦は護師も呼び、治療拒否申が受理された経緯を確認した。類を持参したのは健で、佳奈本との面談はわれていない。
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担当者は夫の説と実印のある類を信用し、そのままリハビリ予定を止めていた。
「病院側にも確認がありました。この原本は処分せず、提と受け取った職員の記録も残します」
佳奈は謝罪より、その言を求めていた。誰が何を持ち込み、いつ治療が止められたのか。それが記録として残れば、健はから「妻が望んだ」と言い逃れできない。
美咲が掛け布団をめくり、脚の状態を確認した。事故から分な運をしていなかったため、太ももは細くなり、首もくなり始めている。美咲は膝、ふくらはぎ、の裏を順番に刺激しながら、反射を見ていった。
たい属、柔らかい綿、先の丸い器具を交互に肌へ当て、覚の残り方も調べた。佳奈には何も分からない所がかったが、のふくらはぎだけは、皮膚の奥にかすかな圧力をじた。
「じたふりはしないでください。分からないは、分からないと答える方が回復を正確に追えます」
佳奈がうなずくと、美咲は検査結果をつずつ記録した。期待ではなく、数字と反応を積みげていく。その姿勢が、設計図を引くの佳奈自と似ていた。
「は今のところ、はっきりした反応がありません。次はを見ますね」
の裏を指で押した、美咲のが止まった。
「鈴さん、今、かしましたか」
「いいえ。何もじません」
美咲は浦と目をわせ、同じ所をもう度押した。
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