"退職祝いは「孫の勤務表」" 第6話
僕は用途と返済額を確認し、無利息の借用を作った。直は「族なのに」とは言わなかった。毎万円をで返し、余裕があるだけ増額する内容にした。
引っ越しの夜、久美子は納得していなかった。
「せっかく緒に暮らせたのに。結菜も寂しがるわ」
「歩いて来られる距だ。会えなくなるわけじゃない」
「あなたが追いしたとわれる」
「誰に?」
久美子は答えなかった。所や親戚へ、退職は娘と暮らし、孫に囲まれると話していたらしい。彼女にとって同居は、娘を助けるだけでなく、自分がい描いた老の形だった。
「私、になるのが怖かったの」
久美子はさな声で言った。
僕が現役の頃、にいないことへ慣れていたはずなのに、退職して毎緒になることが別のでだったという。夫婦になれば、今まで避けてきた会話をしなければならない。娘がいれば、事も休も孫をにき、僕と向きわずに済む。
「だから、僕の退職の予定を全部、孫で埋めようとしたのか」
「そこまで考えてなかった。でも、あなたが旅へくと聞いた、また置いていかれるとった」
旅はだった。帰ってこないわけではない。それでも久美子には、定も僕が自分の計画を優先し、妻はで待つ形が続くように見えた。
広告
僕は初めて、旅へきたい理由を話した。若い頃、の線事へ半派遣され、族を残したことがある。そのに歩けなかった廃線跡を、仕事ではなく自分の目で見たかった。
「緒にく?」
「も鉄だけ見るのは嫌」
久美子は即答し、で笑った。
「では、僕はでく。その代わり、帰ってから泊くらい、君がきたい所へ緒にこう」
「埋めわせ?」
「交換条件ではない。僕は僕の旅へく。君とは別の旅もしたい」
同じを過ごすために、すべて同じことを好きになる必はなかった。
娘夫婦が引っ越す、結菜は斎の棚に枚の絵を置いた。僕と結菜がを見ている絵で、に《またすいようび》とかれている。
毎週曜の迎えは、居へ移ってからも続けることにした。義務ではなく、僕が続けたいと伝えたからだ。予定がある週は休み、代わりのを勝に求められないことも決めた。
直は玄関でをげた。
「か、ありがとうございました」
「僕も言いすぎたところはあった。でも、署名の件は、なかったことにはしない」
「はい」
許したという言葉は使わなかった。彼も、すぐ信頼してほしいとは求めなかった。
がたあと、は急に静かになった。久美子は結菜が使ったコップを洗いながら泣いた。僕も寂しかった。
だからといって、同居を続けるべきだったとはわなかった。
広告
寂しさは、違った決定の証拠ではない。
娘夫婦がって目、久美子は結菜の部をそのまま残したいと言った。僕は物置として使う予定だったが、すぐ片づける必もないとい、かだけ待つことにした。ただし、戻ってくることを提にせず、結菜が泊まるに使う部として残すと決めた。
「あなたは、麻たちが失敗して戻ってくる能性を考えないの?」
「考えている。でも、失敗を待つ部にはしたくない」
久美子は満そうだった。娘が困ったにいつでも帰れる実でありたいという願いは理解できる。しかし、いつでも帰れることと、何度でも族の活を作り替えてよいことは同じではない。
僕たちは、緊急には期限を決めて泊めること、期同居は改めて全員の同を取ることをへいた。夫婦なのにそんな確認が必かと久美子は笑ったが、最には自分で《私の部や予定も勝に使わない》と付けした。
僕はそれまで、このの名義を半分ずつ持ちながら、久美子の活空を確に考えたことがなかった。斎だけを自分の所として守り、台所や居は妻が当然に管理する所だとっていた。それもまた、本へ聞かずに割り振った担当だった。
階のさなを久美子が自由に使うことにした。
彼女は押し入れを片づけ、朗読の本とさな子を置いた。夫婦のに、それぞれ扉を閉められる所ができた。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
二十人分の祝い膳を押しつけられたので、家を出ました
義母から「家族のお祝いだから」と押し付けられたのは、二十人分の料理作りと高額な費用負担。 夫も義妹も、私を一人の家族ではなく、都合よく使える存在として扱っていた。 五年間、我慢し続けた嫁・美咲は、ある決断をする。 それは、義妹の息子の一歳祝いの前日に、すべてを捨てて家を出ることだった。 しかし、静かに準備を進める中で、美咲は夫と義母が隠していた驚くべき事実を知る。 そこには、単なる身勝手な家族関係では終わらない、彼女を縛り続けるための計画が隠されていた。 そして迎えた祝いの日。 親戚二十人が待つ食卓に残されたのは、豪華な料理ではなく、誰も予想しなかった「空っぽの祝い膳」だった。 奪われ続けた人生を取り戻すため、美咲が選んだ静かな反撃とは――。嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 284 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 200 -
完結第19話
深夜2時、隣家の物置で赤ん坊を抱く4歳児
心臓の不整脈で消防士を辞め、故郷の民宿「緑海荘」へ戻った27歳の相馬蒼太。 ある深夜2時、隣家から突然途切れた赤ん坊の泣き声に異変を感じて駆けつけると、物置のような暗い部屋で、全身に青あざを負った4歳のひなが、痩せた妹メイを必死に抱いていた。 「泣いたらまた叩かれるんですか?」――その一言に、蒼太は2人を必ず守ると決意する。民宿へ連れ帰り、常連客の旅行ライター・りんや両親と共に食事と温かな寝床を与え、児童相談所へ連絡。 しかし保護の朝、ひなは「お兄ちゃんと離れたくない」と蒼太の服を握りしめる。初めて見る海の前で、ようやく声を上げて泣いた少女を前に、蒼太とりんは“助ける”だけでは終われない未来を選び始める――。親子関係|修羅場2.8万字5 251 -
完結第11話
「子どもを産めない」と捨てられた妻の逆転
結婚前は優しく誠実だった夫・誠。 しかし結婚後、彼の本性は少しずつ姿を現していった。 子どもを望めない妻を「役立たず」と罵り、家では暴言を浴びせながら、自分は若い女性との時間を楽しむ。 かな子は「自分が悪いのだ」と耐え続け、愛した人との生活を守ろうとしていた。 だが、ある夜、夫の裏切りを示す決定的な証拠を見つける。 そして離婚を決意したかな子のもとに、長年知らされていなかった父からの連絡が届く。 そこで明かされたのは、彼女自身も知らなかった巨大な財産と、人生をやり直すための力だった。 すべてを失ったと思っていた妻が、実は何も持たない弱者ではなかったと知った時――。 誠の傲慢な要求と、隠されていた真実が次々と崩れ始める。 愛だと信じた結婚の終わりから、かな子の本当の人生が始まる。夫婦|第二の人生|不倫1.6万字5 397 -
完結第23話
義母が突然、結婚指輪をくれた
夫が亡くなった日、義母は「もう家族じゃない」と私と娘を雨の中に追い出した。それから二年、一度の連絡もなかった義母が娘の小学校入学を控えた夕暮れ、四十年間外さなかった結婚指輪を私の指に無理やり嵌めて頭を下げた。翌日、親族が集まる祝いの席で和解を受け入れようとした私の前で、義母は冷たい笑みを浮かべ、夫が生前に娘の氏の変更書類を用意していたのではないかと問い詰めてきた。私の手の中で箸が止まった。裡切られた|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|修羅場3.5万字5 127 -
完結第21話
母がナイフで砕いた自分の名前
母の七十歳の祝いで、私は家族に尽くし続けた母に自分の人生を取り戻してほしい一心から、ケーキのプレートに書かれた夫の姓を削り落とし、母の旧姓を書き直した。これで母は喜んでくれるはずだった。しかし母は青ざめ、「誰が戻りたいなんて言ったの」と私を睨みつけると、ナイフを掴んで自分の名前を何度も突き刺し粉々に叩き割った。家族全員から責め立てられた私は、母の部屋で底面を無残に削り取られた大量の人形を見つける。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係|修羅場3.1万字5 137 -
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 88 -
完結第21話
妹のドレスを二十センチ切った
妹の結婚式を数時間後に控えた深夜二時、私はリビングで特注のウェディングドレスに裁ち鋏を入れた。事故で右足に傷が残る妹に対し、相手の家族は配慮という名目で足を隠す重いドレスを強要し、当日は動かず座り続けるよう言い含めていた。母の怒声が響き、私の頬に平手打ちが飛ぶ。泣き崩れる妹の足元には、前裾だけが二十センチ切り落とされた純白の布が散らばっていた。私は鋏を置き、「今日これを着て出なさい」とだけ告げた。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場3.1万字5 94 -
完結第25話
祖父が私に遺した最後の拒否権
亡くなった祖父の果園を三千二百万円で売却するため、東京で働く私は十年ぶりに実家へ呼び戻された。生活苦に喘ぐ父と妹の結婚資金のため、名義を持つ父は契約を急いでいたが、司法書士が出したのは「長孫である私の書面同意がなければ売却は無効」という祖父の遺言だった。早く終わらせようとペンを握った私は、ふと買い手企業がここを何にするつもりなのか尋ねた。山を削り大型トラックの夜間中継所にすると聞かされた瞬間、私は手元のペンを静かに机へと置いた。祖父母と孫|相続|親子関係|金銭問題3.7万字5 111