"預けた通帳が消えた日" 第7話
「黙っていただろう」
田は言い切った。
「止めなかったも、無関係じゃない」
美はに座り込み、を抱えた。
「どうしてこんなことになったの」
誰も答えなかった。
原因はらかだった。
静のを、自分たちのだとった。
静のを、いずれ自分たちが受け取る物だとった。
そして、静本を、財産についてくる邪魔なとして扱った。
健は通を握りしめた。
がくしゃりと音をてる。
「母さんに、謝らせてください」
黒川は首を横に振った。
「謝罪を受けるかどうかを決めるのは、静さんです」
か、健夫婦はマンションを退した。
売却代は諸費用を差し引いて、約千万円。
藤沢の舗の売却代とわせれば、静には老を自分らしくきるための分な資が残った。
方、息子夫婦の関係は急速に悪化した。
融資計画は頓挫し、美の兄の会社ももなく資難で倒れた。
「あなたの母親なんだから、もっとに説得できたでしょう!」
「おが欲をしたからだ!」
は毎のように責任を押しつけった。
しかし、いくら罵りっても、失ったものは戻らない。
も、も。
そして、自分たちを最まで信じようとしてくれた母親も。
藤沢へ戻った静は、の見えるさな賃貸宅を選んだ。
暮らしには分だった。
窓をけると潮が入り、くから波の音が聞こえる。
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京のマンションよりずっと狭かったが、静はここで初めてく息を吸えた。
誰かの顔をうかがう必はない。
蔵庫ののものをべてよいか迷うこともない。
朝に何を選ぶかも、何に呂へ入るかも、自分で決められる。
ある夜、静は炊きてのご飯と鯵の干物を卓に並べた。
質素な事だった。
それでもべた瞬、涙がこぼれた。
「おいしい」
京にいた頃、べ物のがしなかった。
自分ので買い、自分のために作った事には、きちんとがあった。
通帳と印鑑は、の貸庫へ預けた。
財産管理については弁護士と任代理契約を結び、将来判断力が落ちたにも、息子夫婦が勝にかせないよう備えた。
そして静は、延期していた膝の術を受けた。
術、病へ田が見いに来た。
「怖くないか?」
「しはね」
静は笑った。
「でも、京のにいたの方が、ずっと怖かったわ」
田は答えず、果物の籠を棚へ置いた。
「何かあったら呼べよ。のみんなも配している」
「ありがとう」
翌朝、術へ向かう、静は夫の写真を見つめた。
「あなた。もうしだけ、こので歩かせてね」
術は無事に終わった。
リハビリは楽ではなかった。曲げるたびに痛みがり、何度もが折れそうになった。
それでも静は歩ずつ歩いた。
藤沢のへ戻るため。
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沿いのを、自分ので歩くため。
退院の、病院の玄関にはの仲たちが待っていた。
「お帰り、静さん」
「はなくなっても、俺たちはいるからな」
誰かのその言葉に、静は泣いた。
血がつながっていなくても、い、互いを気遣ってきた々がいる。
族とは、名や戸籍だけで決まるものではないのかもしれない。
方、健からは何度もが届いた。
最初のには、謝罪より言い訳がかった。
美に押し切られた。
仕事で追い詰められていた。
母なら最には許してくれるとった。
静は返事をかなかった。
通目には、幼い頃のいが綴られていた。
の奥でべたおにぎり。
のに迎えに来てくれた母。
学の格発表で、番んでくれたこと。
それでも静は返事をさなかった。
いがあることと、許せることは別だった。
通目には、くだけ記されていた。
《母さんのおを、俺たちの未来だとってしまいました》
静はその文をく見つめた。
ようやく息子は、自分が何を違えたのか理解し始めたのかもしれない。
だが、理解したからといって、以と同じ親子に戻れるわけではない。
静はを箱にしまった。
捨てはしなかった。
しかし返事もかなかった。
今はまだ、それでよかった。
術からか、静は弁護士事務所を訪れた。
藤沢のと京のマンションを売却し、正に引きされたの部も返還された。
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