"財産は長男へ――8年間介護した次男に残されたのは、古びた倉庫一軒だけだった" 第2話
浩司が介護費や葬儀費の替分だけでも精算してほしいと裕へ送ると、返ってきたのはい文だった。
〈おには倉庫がある。売ればいい〉
さらに美咲から、学はの丈にった計画で考えてほしいと届いた。
千恵は両親に隠れて学へ話し、今の入学を辞退した。祖父の歩訓練へ付き添った経験から理学療法士を目指していたが、「来、自分でおをためて受け直す」と笑った。その笑顔を見て、浩司は何も答えられなかった。
夜、荷物から古い腕計を取りすと、針は420分を指したままかない。父がくなる3、声を失った正はこの計を何度も指で叩き、それから窓の向こうのを指していた。
浩司は刻を尋ねているのだとい、「420分だよ」と答えた。しかし父は、そのたびに悔しそうに眉を寄せた。
倉庫とは別の項目で遺された、止まった計。浩司は《武田精密》の刻印をなぞり、ようやくつの能性に気づいた。
父はではなく、何かの所を伝えようとしていたのではないか。
第3話 の壁が返した音
父の、浩司は苗と千恵を連れ、と栗ようかんを持って実へ向かった。ところがでは、裕と美咲が旅鞄をへ積み込んでいた。
「今だけでも、仏壇にをわせたい」
浩司が頼んでも、裕は玄関の鍵をけなかった。
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法はまとめて頼む、旅に供え物を置かれるとが臭くなる、と言うだけだった。
「倉庫をもらったんだから、そちらで好きにやれば?」
美咲はそう言って助席へ乗り込んだ。黒いがから消えると、千恵が閉じた玄関を見つめた。
「おじいちゃん、にいるのにね」
3はそのまま、岡郊の倉庫へ向かった。錆びたシャッターをげると、湿ったと械油の匂いが流れした。棚には古い具と属部品が残り、根から落ちたがの部にさな染みを作っている。
苗は古い作業台を拭き、いのへと菓子を供えた。千恵は祖父と撮った写真をスマートフォンに映し、学を辞退したことを報告した。
「来、もう度受けるね。おじいちゃんが歩けなくなった、いちばん悔しそうだったから、やっぱり理学療法士になりたい」
浩司は娘の背を見つめ、必ず学させると父へ約束した。その、苗のスマートフォンに美咲のSNSが表示された。空港ラウンジで裕とシャンパンを掲げた写真に、〈頑張った私たちへの相続記旅〉と添えられている。
浩司は画面を伏せ、倉庫のを片づけ始めた。側の壁のには、父がで使っていたきな作業台と棚が並んでいる。作業台のからは、胸に《武田精密》と刺繍された紺の作業着がてきた。
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ポケットから腕計を取りして裏蓋を見ると、同じ文字が同じ運びで刻まれている。販品ではなく、父自が加したものだった。
「計を叩いて、を指した……」
浩司は壁へ目を向けた。作業台をかそうと肩を入れると、腰に痛みがったため、苗と千恵も反対側から押した。い脚がをこすり、角が壁へぶつかった。
ゴン、とい音が響いた。
コンクリートなら、くい音が返るはずだった。しかし今の音には、壁の奥へ抜けるい響きがある。浩司は所を変えながら拳で叩いた。
側はい。央もい。それなのに作業台の真ろ、幅1メートルほどの部分だけが、空の箱を叩いたように鳴った。
父が最に指した側の壁。その向こうには、確かに空があった。
第4話 420分の鍵
翌朝、浩司は具と懐灯を持ち、苗、千恵と緒に倉庫へ戻った。発見したの状態を残すため、苗はシャッターをけるところからスマートフォンで撮を始めた。
作業台と棚を完全にどかすと、壁の部だけ塗料のがわずかに違っていた。から井まで延びる境目へ具を入れると、い板のから黒い鉄が現れる。
壁に見えていたものは、取っを隠した鉄扉だった。
扉を内側へくと、たい空気が頬に触れた。その先には幅3メートル、奥き5メートルほどの部があり、も壁もの倉庫とは違って乾いている。
央の械基礎には、浩司の胸ほどのさがある黒い庫が太いボルトで固定されていた。
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