"「ただの用務員でしょ?」卒業式で笑われた72歳――アルバムを開いた生徒たちが泣き、校長は壇上を降りた" 第1話
アルバムに載る資格
「先でもないのに、卒業アルバムにまで載るんですか?」
卒業式当の朝、私桜ヶ丘の体育館入に、黒田佳代の乾いた声が響いた。
夜からったで、廊には靴底から落ちたが細く続いている。その跡を、紺の作業着を着た老がモップで丁寧に拭いていた。用務員の佐藤隆、72歳。この学に勤めて30になり、今が最の勤務だった。
PTA会の佳代は、受付に積まれていた卒業アルバムをいたまま、隣にいた保護者へページを向けた。教職員紹介の次に、見き2ページの特集がある。央にはでほうきを持つ佐藤の写真。そのに「毎朝、にいた」と印刷されていた。
「30いても、結局は用務員でしょう。先よりきな写真なんて、げさじゃありません?」
同していたPTA役員が困ったように笑う。くで子を並べていた教員たちはを止めたが、佐藤本は振り返らなかった。
体育館の隅には、佐藤が30使ってきた製の具箱も置かれていた。角は丸く擦れ、取っには何度も巻き直した黒いテープが残っている。退職のくらい掃除を代わると若い職員に言われても、佐藤は「いつもどおりが番です」と断っていた。
佳代はさらに、の消えたを革靴で確かめるように踏んだ。
「まだ掃除をしているんですか。
広告
式まで40分しかありませんよ」
「だからですよ。徒たちが最に通る所ですから、きれいなほうが気持ちいいでしょう」
佐藤はそう答えると、汚れたモップをバケツので静かにすすいだ。言い返す気配も、傷ついた顔を見せる様子もない。その態度が、佳代にはかえって鈍に見えた。
だが、バケツを持ちげた、佐藤のが度だけ止まった。アルバムに載せてほしいと頼んだことはない。学委員から話を聞いたには、自分より先方を増やしたほうがいいと断っていた。それでも徒たちは、どうしても残したい写真があると言ったのだ。
体育館の壁際には、ふたを閉じた段ボール箱が置かれていた。側面に「3・180名分」とだけかれている。佐藤が朝番に運び込んだものだったが、をる者はほとんどいなかった。
やがて保護者が入り、卒業180がクラスごとに着席した。壇には旗との丸、には幕。えた空気のに、制の布が擦れる音とさな咳払いがなった。
佳代の娘、黒田美羽は卒業代表として最列に座っている。3ほぼ無遅刻で、成績は学位。佳代はその背を見ながら、満そうにスマートフォンのカメラを向けた。
卒業証授与が始まる直、担任からアルバムを渡された徒たちが、膝のでそっとページをめくり始めた。
3組の青蓮も、その1だった。
何げなくいた指が、佐藤の特集ページで止まった。羽を着てにつ姿、壊れた傘を直す元、壇の縁に座る徒からし距を置いて話を聞く横顔。その写真のに、卒業から寄せられたい言葉が並んでいた。
――あの、をるに名を呼んでくれて、ありがとうございました。
蓮の喉が詰まった。
隣の徒が議そうに顔をのぞき込む。蓮はアルバムを閉じようとしたが、指に力が入らない。やがて粒の涙がページに落ちた。
「青、どうした?」
列の教師も振り返り、周囲がざわつき始めた。壇脇で待していた佐藤だけが、何も言わず蓮を見つめていた。
蓮は袖で目元を拭い、震える声で言った。
「俺、このがいなかったら、今ここにいません」
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 430 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 204 -
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 216 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 129 -
完結第13話
二十七年目の嘘
58歳で急死した夫の遺品を整理していた美智子は、引き出しの奥から27年前の「採用内定通知書」を見つける。当時不合格だと思い込んでいた東京の出版社からのものだった。封筒の裏には夫の筆跡で「辞退連絡済」。夫はなぜ私の人生を勝手に奪ったのか。さらに、夫の出世作となった伝説の住宅企画が、かつて自分が書いた企画ノートそのものだったことを知る。奪われた名前と人生を取り戻すため、妻が下した決断とは。人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係2.0万字5 57