"「ただの用務員でしょ?」卒業式で笑われた72歳――アルバムを開いた生徒たちが泣き、校長は壇上を降りた" 第3話
名のない相談
岸真帆はちがったものの、すぐには言葉を続けられなかった。
壇を見れば全教員がいる。ろには勢の保護者が座り、そのには自分の母もいた。の事をこので詳しく話すつもりはなかった。
「全部は言えません。でも、2の、両親が婚の話をしていて、に帰るのが怖い期がありました」
真帆は毎朝、始業より50分もく登していた。誰もいない教へ入る気になれず、庭の壇に腰をろした。佐藤は落ち葉を集めながら、気や壊れた自転の話をした。庭のことを無理に聞くことはなかった。
それでも、真帆が3続けて同じ制を着ていることには気づいた。
「洗濯できているか」とは聞かず、佐藤は養護教諭から声をかけてもらえるよう頼んだ。そこから学と母親が話しい、真帆はに祖母のから通えるようになった。
「朝の10分だけでした。でも、学に来れば誰かがいるとえたから、休まずに済みました」
真帆が座ると、今度は別の徒がさく「僕も」と言った。その声になるように、の列から次々とが挙がった。
壊れた補聴器のケースを直してもらった徒。弁当を持ってこられないが続き、佐藤の言から教員が庭状況に気づいた徒。部活で失敗し、舎裏で泣いていた、黙って温かいタオルを渡された徒。
広告
佐藤は1ひとりの話を聞きながら、困ったように作業を握っていた。
保護者席では、先ほど佳代の言葉にわせて笑った役員が、いたアルバムへ目を落としていた。そこに載っているのは派な功績ではない。誰かが転ばないよう廊のを拭く姿や、壊れたロッカーの扉を直す姿ばかりだった。しかし今は、その写真の周囲にいる徒たちの表まで違って見えた。
その、保護者席から佳代の声ががった。
「しよろしいですか」
内の空気がくなった。
「佐藤さんのお柄が派なのは分かりました。ただ、用務員が徒の庭やの問題にまで関わるのは、職務の範囲を越えていませんか。学として、きちんと管理していたのでしょうか」
先ほどまでの嘲笑とは違い、今度はPTA会としての質問だった。何かの保護者が、そうに顔を見わせた。
佐藤は反論しなかった。代わりに、来賓席くにいたスクールカウンセラーの井奈緒がった。
「佐藤さんが、徒の問題を1で処理したことは度もありません」
奈緒は元のいファイルをいた。
「徒の異変に気づいたは、必ず担任、養護教諭、学主任、または私につないでいます。緊急性があるの連絡順も守られていました。佐藤さんの役割は、相談を抱え込むことではありません」
広告
ファイルにかれているのは相談内容そのものではなく、発見した刻、連絡した相、引き継ぎが完したことだけだった。徒の秘密を柄に変えず、それでも必な責任だけは曖昧にしない。その記録が何分も綴じられている。
奈緒は度言葉を切り、佐藤を見た。
「助けを求める声になるの、さな変化を見つけることです」
佳代はを閉ざしたが、納得した様子ではなかった。
彼女のでは、の価値は肩と責任範囲で理されていた。会社でも、決められた職務を越えてく社員には必ず理由を問う。それが組織を守る正しさだと信じてきたからこそ、会全体が佐藤を特別することに、まだだけでは納得できなかった。
体育館の側面では、教が古い製の箱を壇脇へ運んでいた。ふたの隙から、黄ばんだ封筒が何通も見える。奈緒のファイルには、個名を伏せた過の連絡記録が挟まれていた。
最列の美羽は、その表を見た瞬、膝ので両をく握った。
奈緒はそのきを見逃さなかった。
黒田美羽もまた、佐藤に異変を見つけられた徒だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 430 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 208 -
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 216 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 129 -
完結第13話
二十七年目の嘘
58歳で急死した夫の遺品を整理していた美智子は、引き出しの奥から27年前の「採用内定通知書」を見つける。当時不合格だと思い込んでいた東京の出版社からのものだった。封筒の裏には夫の筆跡で「辞退連絡済」。夫はなぜ私の人生を勝手に奪ったのか。さらに、夫の出世作となった伝説の住宅企画が、かつて自分が書いた企画ノートそのものだったことを知る。奪われた名前と人生を取り戻すため、妻が下した決断とは。人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係2.0万字5 57