"「ただの用務員でしょ?」卒業式で笑われた72歳――アルバムを開いた生徒たちが泣き、校長は壇上を降りた" 第8話
720分の
美羽が初めてのでけなくなったのは、3の5だった。
朝720分。始業まで1以あり、登する徒はまだない。美羽は正まで来ているのに、敷へを入れた瞬、胸を内側から締めつけられたように息ができなくなった。
夜、佳代から模試の結果を聞かれていた。
「第1志望を変える必はないわよね。卒業代表に選ばれるくらいでなきゃ、ここで成績を落としたら悔するわよ」
卓には、美羽のために印刷された学別の判定表が3枚並んでいた。佳代は仕事のに説会を予約し、塾の面談も帳にき込んでいる。娘を苦しめたいわけではなかった。自分が報を集め、先回りしてをえれば、美羽は迷わずめると信じていた。
美羽も、その努力に謝していた。だからこそ、もうれないとは言えなかった。
責める調ではなかった。娘ならできると信じている声だったからこそ、美羽は「苦しい」と言えなかった。
柱にをつき、呼吸をえようとする。制の胸元を緩めても空気が入らず、界の端がくなった。
その、数メートル先から、ほうきがアスファルトを擦る音が聞こえた。
佐藤はすぐに駆け寄らなかった。美羽の正面にてば、逃げをふさぐと分かっていた。ほうきを壁へてかけ、斜めの植え込みまでゆっくりづく。
広告
「黒田。返事はしなくていい。そこにしゃがめるか」
美羽は柱にもたれたまま膝を曲げた。
「吸おうとしなくていい。く吐いてみろ。保健には俺から連絡する」
佐藤は携帯用無線で養護教諭を呼んだ。美羽の肩に触れず、周囲の徒から見えにくい位置にった。数分、養護教諭が子を持って来たも、何が起きたのかをの徒へ説しなかった。
そのは保健で休み、2目から授業に戻った。佳代には軽い貧血と伝えた。美羽自も、度だけなら眠で済ませられるとっていた。
放課、佐藤は廊ですれ違っても朝のことに触れなかった。友のでは、いつもどおり「窓を閉めて帰れよ」と声をかけただけだった。その距の取り方に救われ、美羽は翌も学へ向かうことができた。
しかし翌朝も、同じ所でが止まった。
3目には、をる刻を10分めた。それでもへ着くと息が浅くなった。佐藤は毎朝720分になると正付の掃除を始め、美羽が自分から声をすまで問いかけなかった。
「今も保健までくか」
「……みんなにられませんか」
「必な先にしか話さない。ただし、俺だけで隠すとは約束できない」
その言葉はたく聞こえるはずなのに、美羽はなぜかした。佐藤が秘密を面がらず、1で支配しようともしないと分かったからだ。
5目、佐藤は美羽の同を得て奈緒へつないだ。面談は空きに保健の奥でわれ、授業と課題の負担もに調された。
奈緒は症状をすぐ病名で決めつけず、眠、事、模試の変化を確かめた。養護教諭と担任も報を共し、朝に教へ入れないは保健から始めてよいことにした。佐藤が担当したのは、で美羽を見つけ、到着を無線でらせるところまでだった。
それでも美羽は、朝になるとのでけなくなった。1週、2週、1か。良くなったとった翌に、また呼吸が乱れることもあった。
佐藤は励ましの言葉を増やさなかった。ただ、のも暑いも、720分には同じ所にいた。
ある朝、美羽はを越えるに佐藤へ尋ねた。
「お母さんには、まだ言わないでください」
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 430 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 204 -
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 216 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 129 -
完結第13話
二十七年目の嘘
58歳で急死した夫の遺品を整理していた美智子は、引き出しの奥から27年前の「採用内定通知書」を見つける。当時不合格だと思い込んでいた東京の出版社からのものだった。封筒の裏には夫の筆跡で「辞退連絡済」。夫はなぜ私の人生を勝手に奪ったのか。さらに、夫の出世作となった伝説の住宅企画が、かつて自分が書いた企画ノートそのものだったことを知る。奪われた名前と人生を取り戻すため、妻が下した決断とは。人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係2.0万字5 57