"裏口に回された仕立て屋" 第1話
「お義母さんは裏から入ってください。保護者席はうちの母が使いますから」
民ホールの正面入で、嫁の理奈は当然のように言った。歳の藤原佐子は、にしていた招待状と裁縫具の入った鞄を見ろした。
そのは孫の美が通うダンス教の発表会だった。台へがるの子どもたちは、佐子が縫った紺との装を着る。
か、理奈から頼まれたのは着の袖直しだけだった。ところが数が増え、デザイン画が届き、最終には全員分をから作ることになった。
佐子は卒業からく縫製で働き、婦や台装を縫ってきた。が閉鎖されたも自宅に職業用ミシンを残し、所の裾直しをい料で引き受けている。
「材料費だけでも先にもらえない?」
途でそう頼んだが、理奈は発表会にまとめて精算すると答えた。布、ファスナー、スパンコール、糸だけで万円を超えた。息子の拓也も「理奈はを始める準備で余裕がない。母さんなら待てるだろ」と言った。
佐子は老資の座からて替えた。美が「おばあちゃんので踊りたい」とび、断れば孫のを壊すようにえたからだった。
正面入の向こうで、理奈の母、久美子がしいワンピースを着てを振っていた。
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最列央の席には《藤原美様ご族》と札が置かれ、座れるのはまでだという。
「拓也とお母さんが座るの?」
「私は台袖にいます。夫と母で席です。お義母さんは装の補修担当だから、客席にいるより裏の方が便利でしょう」
佐子は、自分も美の祖母だと言いかけた。しかし演まで分しかなく、子どもの袖がつほつれたとスタッフが呼びに来た。
裏には搬入業者の列があり、佐子は名ではなく《装補助》とかれたを渡された。招待状を鞄へしまい、台裏へ入った。
演も座る暇はなかった。ファスナーが噛み、飾りがれ、成期の子どものウエストがわない。佐子は順番に直し、子どもたちを台へ送りした。
最の曲で、美が央にった。幕の隙からしか見えなかったが、孫は胸を張り、の裾を揺らして踊っていた。
終演、の母親が話しているのが聞こえた。
「着万千円はかったけど、オリジナルなら仕方ないわね」
「理奈さんのアトリエ、来するんでしょう?」
佐子は針を持ったままけなくなった。着なら、百万千円。自分は円も受け取っていない。
子どもたちが台から戻り、保護者の歓声が廊まで響いた。佐子はそので理奈を問い詰めたかったが、装を脱ぐに記撮があり、裾の乱れを直してほしいと頼まれた。
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写真にはの笑顔と、央につ理奈が写った。佐子はカメラので、落ちた飾りを全ピンで留めていた。撮者から緒に入るかとは聞かれなかった。
片づけの際、装箱の側面に《RINA COSTUME商品管理》というしいシールが貼られていることに気づいた。箱自体は佐子が閉鎖に譲り受けた物で、側面には消えかけた旧社名が残っていた。
理奈は佐子の具、作業、技術を借りただけでなく、それらが最初から自分の事業設備だったように見せていた。佐子はシールを剥がさず、箱の写真を撮った。
終演、美が汗だくのまま抱きついてきた。「おばあちゃん、ちゃんと見た?」と尋ねられ、佐子は瞬言葉に詰まった。
「幕の横から見たよ。最の回転、きれいだった」
美は満して母のもとへった。佐子は孫へ嘘をついたわけではない。けれど客席から見たかったという気持ちは、今だけみ込むことにした。
帰りは拓也たちのに乗せてもらえず、装箱を宅配便へ預け、でに乗った。最寄り駅から自宅まで歩く、の親指が脈を打つように痛んだ。
に着くと、理奈の母が列から撮った画が族グループへ届いていた。《理奈ちゃん、本当にお疲れさま。素らしい装でした》。佐子への言葉はつもなかった。
打ちげのロビーで、理奈は保護者たちに囲まれていた。
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