みかん小説
本棚

"焼け残った家を壊せと言われた" 第5話

そのものに現の計画を変える法な力はないものの、「記録としては非常にがあります」と言ってくれた。

ただし、現実は簡単ではなかった。

「そのものをかすのは難しいです」

杉原は現の計画図を広げた。

予定されているの線は相沢の敷を通り、井戸はちょうどと歩の境目付にかかっている。排管を通す位置もく、単に「井戸があるから避ける」というだけでは事全体に響がる。

「でも、絶対に埋めるしかないわけではないんですね」

信が尋ねると、杉原は慎に答えた。

「現点では何とも言えません。ただ、脇のさな空として処理できる余があるか、技術のには確認できます」

その言葉を父へ伝えると、清吉は予に反してばなかった。

「もういい」

「何が?」

「井戸のためにを曲げろなんて言う気はない」

信は父の変化についていけなかった。あれほどをかさないと言い張っていたが、今度は井戸を残す能性が見えた途端に引こうとしている。

「父さん、本当は何がしたいんだよ」

清吉は黙った。

その夜、信はハルから理由を聞いた。

空襲の夜。

清吉には。

つ。

今も忘れられない来事があった。

井戸を守ったという誇りだけではない。

狭いと。

燃えるので。

助けられなかったの記憶も。

広告

同じ所に。

残っていたのである。

空襲の夜、清吉はを守るためにをかけ続けていた。のが根へぶたび梯子にり、濡らした筵を広げ、ハルと信たちを何度も防空壕とのでき来させた。周囲が赤く染まり、隣の根が崩れた頃には、誰がどこにいるのかさえ分からないほど混乱していたという。

その、清吉の幼なじみだったという男が、母親を連れてへ逃げてきた。ところが荷物を抱えたがを塞ぎ、向こうからも避難するが押し寄せてきが取れなくなった。清吉は井戸のを持って助けにこうとしたが、がへ回り、のを遮った。

の母親は助からなかった。

自も。

数。

傷がもとでくなった。

「父さんは、自分がにをかけてたせいだとってるんだよ」

ハルは静かに説した。

「井戸のをもっとへ持っていっていれば、さんたちを助けられたかもしれないってね。でも私は何度言っても、それは違うとう。あの夜は、誰が何をしても全部は助けられなかった」

信はそれを聞き、ようやく父の矛盾した態度が理解できた。

が残ったことは誇りだった。

同に。

を守ったことで。

救えなかったがいる。

という悔も。

父のに残っていた。

だから清吉は「うちはを守った」

広告

と何度もにしたのかもしれない。それは自というより、あの夜の自分の選択を何度も確かめるための言葉だった。

翌、信は父をしい予定へ連れした。最初は嫌がった清吉だったが、「度だけ見てくれ。それで反対するなら俺ももう何も言わない」と頼むと、渋々ついてきた。

役所の杉原が図を持って待っていた。

彼はしいの幅と排計画を説し、空襲にくのが狭いへ集したことも話した。清吉は最初、腕を組んで無言だったが、消防が通れる幅を確保するという説になっただけ、し顔をげた。

「このなら、裏のまでが入れるのか」

「将来には、その予定です」

「昔みたいに、が詰まることは?」

「完全になくせるとは言えません。ただ、今よりはずっと避難しやすくなります」

清吉はい、しいが通る線を眺めていた。

信には、その目がかつての狭いを見ているようにえた。

帰り、清吉は初めて「を移すのは仕方ないかもしれん」とにした。

信は驚いたが、すぐには何も言わなかった。

「ただし」

清吉は続けた。

「井戸だけは、度頼んでみたい」

「残せるかどうか?」

「ああ。残らんなら、それはそれで仕方ない。でも、何も言わず埋めさせたら、俺はたぶん悔する」

その夜、相沢では久しぶりに父と息子が喧嘩をせず夕をべた。

問題は。

そこからだった。

井戸を残したい。

そう願うだけでは。

役所はかない。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: