"一枚のタダ券から始まった家族" 第3話
と苗に勧めた。
「でも、こんな切なお部を私たちが使っていいんでしょうか」
苗が慮がちに尋ねると、君子は振り返らなかった。引きしののをえながら、「今は誰も使っていないから」とだけ答えた。
その夜、歩美を寝かしつけたあと、苗は改めて壁の写真を見た。若い男性は健と目元が似ており、その隣にいる女性は驚くほど自分と雰囲気がい。髪型も代も違うのに、笑うにし首を傾ける癖まで似ているようにえた。
写真ての裏側には、さな字で付と名が記されていた。
《隆志・美紀・歩美 祭り》
苗は自分の娘と同じ名を見つけ、わず写真を持ったままきを止めた。へ入った瞬、君子が娘を見て「あゆみちゃん」と呼んだ理由がようやく分かった。
翌朝、苗が階へりると、健はすでに厨で鶏肉を切っていた。計はまだ6半を回ったばかりで、客席の照も半分しか点いていない。姜をすりおろす匂いが内に広がり、昨夜べた唐揚げの記憶が蘇った。
「何をすればいいですか」
苗がエプロンを着けて尋ねると、健は瞬だけを止めた。「まず米を研げ」と言い、業務用の炊飯器を指差した。で働いた経験のない苗は勝が分からず何度も戸惑ったが、健は鳴ることも急かすこともなく、必なことだけをく教えた。
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君子は8頃に歩美を連れてりてきた。まだ保育園の続きが済んでいないため、当面はの奥の座敷で過ごすことになり、歩美は鉛や折りを並べて楽しそうに遊び始めた。昨まで「今の夕飯をどうするか」だけを考えていた苗には、その普通の景が信じられないほどありがたかった。
数、苗は滞納していた賃の部を払い、に事を説してアパートを正式に引き払うことにした。スーパーのパートも末で辞め、川堂で働く決をした。健は料について細かく説し、「ただでませているからく働け、なんて言うつもりはない」ときっぱり言った。
「む所と働く所は別だ。働いた分は働いた分として払う」
その言葉は、苗にとって事を振るわれたとは別のでありがたかった。誰かに施しを受けるだけではなく、自分の力で再び活をて直せるを与えてもらった気がしたからだ。
方、川堂の経営は、苗が像していた以に厳しかった。昼でも客席が半分埋まれば良い方で、夜は常連が2、3来るだけのもある。昔から通っている客のくは70代を超え、「最は量をべられなくなった」と定を残すも増えていた。
それでも健は唐揚げの量を減らそうとしなかった。
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川堂の唐揚げ定は、ぶりの唐揚げが6個入っていることでられており、「腹を空かせた奴が満して帰るにしたい」という当初からの考えを変えなかった。値げも最限に抑えているため、材費ががるたび利益はくなっていた。
苗が最も議にったのは、唐揚げのだった。醤油と姜だけではないい旨があり、めても肉が柔らかい。をつけるだけは健が厨の奥へで入り、苗にも君子にも調を見せなかった。
あるの仕込み、苗はい切って「何を入れているんですか」と尋ねた。すると君子が笑い、「私だってらないのよ」と答えた。
「息子さんにも?」
その瞬、君子の笑顔が消えた。健は包丁をかしたままだったが、まな板を叩く音だけがしくなった。
「いつかを継ぐに教えるつもりだったみたい。でも、そのに……」
君子はそこでを閉じた。
苗もそれ以は聞けなかったが、そのの夜、2階へ戻ったに、壁に掛けられた族写真を改めて見つめた。写真のの女・歩美は、いつ見ても同じ齢のまま笑っている。
自分の娘はになれば、分だけきくなる。
けれど、この部のだけは10から止まっていた。
4が終わる頃、歩美はくの保育園へ通い始めた。朝、君子と緒にをつないでかけ、夕方になるとへ戻ってきて宿題代わりの塗り絵をする。
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