"「貧乏人」と笑われた男" 第3話
俺が話にると、朝の挨拶もそこそこに「昨の事会、どうでした?」と聞いてきた。
「最だったよ」
「そこまでですか」
俺は昨夜の来事を簡単に説した。施設育ちとった瞬に態度が変わったこと、玲奈が友へ話の種として送ろうとしていたこと、そして最に央から預を移すと言ったことまで話すと、話の向こうで琢磨が黙った。
彼もまた、ひまわり園で育っただった。
「本当に移すんですか」
「そのつもりだ」
「いくらあるか、把握しています?」
「だからおに確認してもらうんだよ」
琢磨がさくため息をついた。
オルビット・ペイメントが央に置いている資には、常の運転資だけでなく、決済事業必になる準備資や複数の関連会社の座も含まれている。そこに俺個の普通預、定期、貨をわせると、相当な額になることは分かっていた。さらにとは預だけでなく、法決済や国送など複数の契約も結んでいる。
「宗介さん、だけでくなら止めますよ」
琢磨の声がしくなった。
「うちは600の社員を抱えている会社です。取引を変えるなら、玲奈さんを困らせたいという理由だけじゃ駄目です」
俺はその言葉にすぐ答えなかった。
窓のでは、通勤するたちが駅へ向かって歩いている。
広告
確かに、俺がかしているはもう俺だけのものではなく、社員や取引先の活ともつながっている。だからこそ復讐の具として使うような真似はできなかった。
「を変える理由はある」
俺はゆっくり言った。
「取の族だからじゃない。融関は信用を預かる仕事だろ。を柄や預残で扱い分ける価値観が、そのの経営者族のにあるとった。それをったで事な資を任せ続けられるか、俺は度きちんと判断したい」
琢磨はしばらく黙っていたが、やがて「それなら財務のから検討します」と答えた。代替の条件、送のスケジュール、決済業務への響、契約解除に伴う費用まで調べたで、理に移せるなら移すということになった。
話を切ったあと、俺はもう度古い集写真を見た。
加先は昔、よく言っていた。
「の値打ちは、持っている物じゃなくて、誰かのために何をしたかで決まるんだよ」
昨夜の俺は、その言葉を守れていただろうか。
まだ答えは分からなかった。
ただつだけ、玲奈に笑われたまま何もなかったことにするつもりはなかった。
同じ朝、神宮寺玲奈は都の層マンションで目を覚ました。
昨夜の事会について刻に考えている様子はなく、ベッドのでスマートフォンを眺めながら友たちのグループへ返信していた。
広告
そこには「昨の紹介、まさかの施設育ちだった」「普通にびっくり」「しかもの預全部移すとか言ってて笑った」といった文章が並んでいる。男の名こそかなかったが、級レストランの料理写真と緒に、相を面おかしく扱う内容を投稿していた。
雅代はリビングでその投稿を見つけ、さすがに眉をひそめた。
「玲奈、ああいうことをネットにくのはやめなさい」
「誰か分からないようにしてるから丈夫だよ」
「そういう問題ではないでしょう」
そう言いながらも、雅代自も昨夜の事会について夫へ報告するつもりだった。彼女のでも「柄の釣りわない相を紹介された」という認識であり、娘の言葉遣いには問題があっても、縁談を断る判断そのものは違っていないとっている。神宮寺では、それがの「普通」だった。
夫の泰は、央の取に就任して4目を迎えていた。
父も員で、本も学卒業から融業界筋だった。央は全国規模のメガバンクではないものの、首都圏と部方をに法取引へみを持つ準である。泰は内では厳しいが公正な物としてられていた方、庭のことはほとんど雅代へ任せきりだった。
朝の席で雅代が「昨の玲奈のお相なんだけれど」
と切りすと、泰は聞を読みながら曖昧に返事をした。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 201 -
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 430 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 208 -
完結第20話
長女にだけ渡された鍵
父の四十九日。「お前が一番しっかりしている」と病床の父から金庫の鍵を託された長女の私は、弟と妹の前で鉄の扉を開けた。だが中にあった私の通帳は残高一万円で、二百八十万円あった預金は弟の名義で全額引き出されていた。問い詰める私に弟は「親父に頼まれた」と父の直筆の手紙を突きつけ、妹も父と交わした別の密約を叫び始める。そこへ男が現れ、父が実家を担保に借りた五百万円の借用書を突きつけてきた。裡切られた|兄弟姉妹|相続|金銭問題|修羅場3.0万字5 92 -
完結第24話
目覚めた部下にクビを問われた
地方旅館の火災で客を救い出し重傷を負った部下が目を覚ました。だが彼女の記憶は直近の二年分が抜け落ち、着任初日の私が冷酷に解雇を迫った日のまま止まっていた。会社は避難扉が開かなかった責任を彼女の記憶喪失に乗じて背負わせようと、退職金の支払いを口実に過失を認める書類への署名を病室で迫る。何も思い出せない部下は震える手でペンを握り、かつて自分を追い詰めたはずの私を怯えた目で見つめた。職場逆転|真実|裡の顔|修羅場3.7万字5 700 -
完結第25話
祖父が私に遺した最後の拒否権
亡くなった祖父の果園を三千二百万円で売却するため、東京で働く私は十年ぶりに実家へ呼び戻された。生活苦に喘ぐ父と妹の結婚資金のため、名義を持つ父は契約を急いでいたが、司法書士が出したのは「長孫である私の書面同意がなければ売却は無効」という祖父の遺言だった。早く終わらせようとペンを握った私は、ふと買い手企業がここを何にするつもりなのか尋ねた。山を削り大型トラックの夜間中継所にすると聞かされた瞬間、私は手元のペンを静かに机へと置いた。祖父母と孫|相続|親子関係|金銭問題3.7万字5 111 -
完結第19話
完璧な夫に給料を突き返した朝
毎月二十五日、夫は手取り四十五万円の給料を一円も引かずに私の口座へ振り込み、親戚の前で完璧な夫として称賛されている。だがその裏で、私は息子の塾代を払うために結婚五周年の指輪を買取店へ持ち込んでいた。固定費と夫のカード代だけで毎月赤字が続き、私の独身時代の貯金も底をついた。翌朝、いつも通り振り込まれた四十五万円の通知を見つめた私は、その全額をそのまま夫の口座へ送金し、スマートフォンの画面を伏せた。嫁姑|夫婦|金銭問題|修羅場2.9万字5 7822 -
完結第20話
教室の最後列に座る元教員
定年退職した元教員の私は、一度も教えたことのない男子生徒の保護者会に、身元を偽って六年間通い続けていた。教室の最後列から見つめる先には、油まみれの作業着を着た父親が座っている。受付簿の不審な記録に気づいた校長から昇降口で問い詰められた帰り道、桜が散る坂道でその父親が私の前に立ちふさがった。二十四年前の元教え子だったその男は、振り返りもせず、私の背中に向けて「あの席、あと何年座るつもりですか」と低く告げ怒り|真実|親子関係|修羅場3.1万字5 122 -
完結第21話
優しい教室で震える息子
息子が突然学校に行けなくなり、担任は「いじめなどなくクラス全員に愛されている」と胸を張った。不審に思った私が息子のランドセルを調べると、底板の裏から三十七枚の給食費受領書が出てくる。我が家は困窮などしていないのに、三ヶ月間、生徒全員が日替わりで息子の昼食代を立て替えていた。私が学校へ確かめに行こうとした瞬間、息子は「言わないで」と叫んで床に泣き崩れ、その紙片を必死に胸へ抱え込んだ。怒り|裡の顔|親子関係|金銭問題3.2万字5 6057