"軍艦島、命をつないだ白い飯" 第8話
だから国は米を回した。
会社は居を用した。
賃をげた。
娯楽をえた。
族ごと島で暮らせる環境を作った。
男は酒をみながらう。
自分たちは恵まれている。
だが、恵まれているから危険な仕事をしているのか。
危険な仕事をしているから恵まれているのか。
たぶん、どちらも同じだった。
息子が言った。
「お父さん、僕もきくなったら炭鉱で働く」
妻の箸が止まった。
男もすぐには答えなかった。
「どうして」
「お父さん、いっぱいおもらえるんでしょ」
子どもらしい理由だった。
男は笑った。
しかし妻は笑わない。
しして、男は息子のを撫でた。
「きくなってから考えろ」
それ以は言えなかった。
飯をえる仕事。
族を養える仕事。
誇りのある仕事。
そして、妻が毎無事を祈らなければならない仕事。
い料の値段を、子どもへどう説すればいいのか、男にも分からなかった。
やがて代は変わった。
エネルギーのは炭から油へ移り、かつて国の最優先物資だった炭のも変わっていく。
端島の炭鉱も、永には続かなかった。
しかし島が最も活気を帯びていた代、そこでは何千ものが、狭い岩礁のでつの町を作っていた。
学がある。
がある。
映画館がある。
堂がある。
酒がある。
テレビがある。
子どもの笑い声がある。
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そして、そのには毎の事があった。
坑夫が底から戻る。
まず炭を落とす。
を使った呂に入り、貴な真で体を流す。
社宅へ帰れば、い飯がある。
焼いた魚。
青菜。
噌汁。
漬物。
し余裕があれば肉や酒。
独者なら寮の事。
夜にがれば、灯りのついた堂でちゃんぽんやうどんをすすった者もいただろう。
腹いっぱいべる。
それはこの島では贅沢であると同に、必だった。
底で働く体にとって、米は燃料だった。
塩気のある汁物は、汗をかいた体が求めるものだった。
酒はの緊張をほどく。
煙の本が、へ戻ったことを実させた者もいた。
その卓を能にしたものは、つではない。
坑夫を「労働者」として扱った配制度。
炭を国策として増産するための特別な物資配分。
危険に見うい賃。
会社がえた社宅。
島内の購買施設。
商。
魚。
百。
堂。
を運ぶ。
料を運ぶ定期。
そしてには底。
どれかつが欠けても、このさな島に何千もの暮らしを維持することは難しかった。
男はあるの仕事を終え、いつものように卓へ座った。
妻が飯を盛る。
息子はテレビを見ながら箸をかしている。
「ちゃんとべなさい」
「見ながらでもべてる」
「こぼすでしょう」
男はのやり取りを聞きながら酒を注いだ。
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も仕事だった。
またケージへ乗る。
面から何百メートルもへりる。
そこからさらに斜坑をむ。
蒸し暑い切羽で炭を掘る。
今とほとんど同じが待っている。
妻が男の茶碗を見る。
「おかわりは?」
し考えた。
「頼む」
い飯がもう度、茶碗に盛られる。
男はそれを見つめた。
何でもない杯だった。
米へけば米がある代なら、誰も特別とはわない。
蛇をひねればがる町なら、米を炊くことさえ識しない。
けれど端島では違った。
はを越えてきた。
米もを越えてきた。
魚も野菜も酒も牛乳も、島のから届いた。
そので、坑夫には普通のよりくの飯が必だった。
国が炭を求めた。
会社が炭を掘らせた。
坑夫が体を削った。
族がその帰りを待った。
すべてがつながった先に、この茶碗杯のい飯があった。
男はべた。
うまかった。
「お父さん」
息子が言う。
「何だ」
「、映画こう」
男は笑った。
「仕事終わってからな」
「約束?」
「ああ」
妻が横から言う。
「まず無事に帰ってきてください」
その言葉に、男は瞬だけ黙った。
それから、
「分かっとる」
と答えた。
端島では、そんな会話がいくつの庭で交わされたのだろう。
本でも数の料を得た男たち。
娯楽に恵まれた島。
価な品物から売れていったという豊かな消費活。
だが、その華やかな記憶の番底には、いつも暗い坑があった。
そして暗い坑の反対側には、必ず卓があった。
男たちは精神論だけで底へりていたのではない。
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