"「帰ってこなくていい」と笑った家族――20年目の離婚届" 第5話
70件目の着信
調査にはいはかからなかった。
浩司は営業部として数字をげていたが、共精の見積を作ったのは相川さんで、先方との定例会議をねたのは畑さんだった。トラブル発に現へ駆けつけた記録にも、浩司の名はほとんどない。
社内メールと会議記録をねると、浩司が報告へ自分の名を加えたのは、案件がまとまる直ばかりだった。数字そのものは嘘ではない。けれど、誰が顧客の望を聞き、誰が修正をね、誰が失敗の責任を引き受けたのかというが抜け落ちていた。
その方、社内の会では何度もこう話していた。
「うちの社と義父は昔からの仲だ。稲垣の名をせば、共精のにも話が通る」
しかも相川さんと畑さんは、4に司から婚届の証欄へ署名するよう求められていた。2は詳しい事をらないまま断れず、同じに私類へ名をいていた。
午10、社は事担当役員を同席させ、浩司を社へ呼んだ。
「共精の案件だが、君を責任者からす」
ったまま聞いていた浩司は、子の背をくつかんだ。
「なぜですか。8億円の案件ですよ。私がまとめてきた話です」
「実務の担当者と成果の帰属を調べ直す。それと、君を候補に入れた、私のに稲垣君との縁があったことも否定できない」
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さんがそう告げると、浩司の声がずった。
「義父が何か言ったんですか」
「昨、もう義父ではなくなったと本から聞いた」
浩司はそこで初めて、私が本当に婚届をした能性を考えたのだろう。社をると退を申して、自宅へ戻った。器棚のから計簿を次々に引きし、へ放ったが、20冊目に挟まれていたはずの類は見つからなかった。
午1過ぎ、浩司は役所の戸籍窓にいた。本確認類を示して照会を求めると、職員は端末を確かめた。
「昨付で受理されています」
その返答を聞いた直から、私のスマートフォンが鳴り始めた。
最初の着信は午120分。実の縁側で、母と梅を干しているだった。切れるまで待つと、数秒にまた振音が板を伝ってきた。
母は盆ざるので梅を返しながら、「源を切ったら」と言った。私は首を横に振った。怖がらせる内容が届けば証拠として残せるし、何より、浩司が私に何を伝えようとしているのか確かめたかった。
3件目のあと、《話にろ》というメッセージが届いた。5件目では《話しおう》。10件目を過ぎると、《婚なんて聞いていない》に変わった。
私は源を切らず、着信履歴を残した。20、このの数字をすべて計簿へ記録してきた。最の数字も、正確に覚えておきたかった。
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午3に17件、4に22件、6には34件。母と父と夕を取っているも、縁側に置いたスマートフォンは震え続けた。
7を過ぎ、48件目が鳴り終わると、母が私の隣へ座った。
「20で、あのがあなたを配して、こんなに話をかけてきたことはあった?」
答えは分かっていた。私が38.5度のをしたも、里奈を病院へ連れていったも、浩司から届いたのは「夕飯はどうする」という確認だけだった。
「困っているのよ。あなたを配しているんじゃない」
母はそれ以言わず、私の肩を度だけ撫でてのへ戻った。
《今すぐ帰ってこい》
《いい加減にしろ》
そして48件目のあと、ようやく本音が届いた。
《親父さんに何を言ったんだ?》
どうしてていったのか。今どこにいて、体は丈夫なのか。浩司は度も尋ねなかった。あのが困っているのは妻を失ったからではない。事をすると、義父につながるを同に失ったからだ。
午8、70件目の着信が画面を震わせた。
私は数字を確かめ、初めて通話ボタンを押した。
「もしもし」
次の瞬、を刺したのは謝罪ではなく、浩司の鳴り声だった。
「お、勝に婚届をしやがって!」
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