"姉の代わりに嫁いで6年――総支配人夫人の姉と再会した日" 第5話
70件の予約
翌朝、本部の資料で、私は角部の写真を並べた。ホテルから受け取った客写真と、姉が公している投稿を印刷したものだった。
最階の窓から庭園が見える。カーテンを留める具の位置と、窓際のテーブルの目が致していた。季節もも違うのに、姉の写真には何度も同じ部が写っている。
「お姉様が、このお部を利用されていたことは確認できそうですね」
芦田さんが、写真の端に付箋を貼った。
「ただ、投稿したに泊まったとは限りません。利用は、ホテルの記録で確かめます」
私は頷いた。自分の記憶では、もっと頻繁に見た気がする。けれど、その覚を件数に置き換えることはできなかった。
芦田さんは、予約ごとの報をまとめた表を広げた。買収に取得した予約システムの記録と、フロントが保管していた資料を照らしわせたものだ。
私は運用を調べる担当なので、普段見る覧には客の氏名や連絡先は載っていない。代わりに予約番号、部、宿泊数、料処理が並んでいた。
「この角部だけで、3に70件。無料でのご利用です」
私は数の列を指で追った。最初も、その次も、2。そのも同じ数字が続いていた。
「全部、2泊なんですね」
「はい。わせて140泊です。同じ部を、延べ140晩使っています」
70という数字を、私はもう度見た。
広告
に数回の記では収まらない。姉の写真に何度も写っていたいシーツの向こうに、その晩そこへ泊まれなかったがいるかもしれなかった。
「この2泊という数には、理由があります」
芦田さんが、ホテルの社内規程を横に置いた。総支配の判断でう無料宿泊は、1組につき2泊までといてあった。
「限と同じ……」
「その点も、ご本たちに確認します。まずは、別の方の名で予約されたものを含め、誰が利用を申し込んだかです」
芦田さんは調査用の別冊をき、覧の横にA、B、Cと印をつけていった。10件を過ぎても、しい文字はてこなかった。
途で私はを止めた。控えのに、同じ部を希望していた客の記録があった。姉の写真を見ていると、全部を姉に結びつけたくなる。私はそのを別に置き、予約番号を確かめるよう頼んだ。
「こちらのお客様とのなりも、確認をお願いします。い込みで付をわせたくありません」
「承しました」
昼、姉から話が来た。芦田さんの部署から、利用状況について話を聞きたいと連絡があったらしい。
「何なのよ、あれ。私、ホテルで何か聞かれなきゃいけないわけ?」
「宿泊の確認だと聞いているよ」
「あんたが言わせてるんでしょう。あんなの、お友達が泊まった分まで入ってるのよ」
私は受話音量をげ、資料の隅へ移った。
広告
姉の声をのに聞かせる必はなかった。
「それなら、誰が泊まったかを説すればいいとう」
「説も何も、私の名なんて、そんなに何度もてこないはずよ」
私は机に残した覧を見た。姉は件数を尋ねなかった。最初から、そこに並んでいる名の方を気にしていた。
「紗、聞いてる?」
「聞いてる。私に言うより、記録を見ながら担当者に話して」
「いいわよ。けばいいんでしょう。私が何かしたみたいに言われるの、迷惑だから」
話は姉の方から切れた。私はしばらく携帯を持ったままち、それから机へ戻った。
翌、ホテルのさな応接に姉が来た。敬吾さんが子を引くよりく腰をろし、鞄を膝に置いた。私は客の資料を説するために同席していた。
芦田さんが、確認した内容を記録することと、答えにくいことはそので申して構わないことを伝えた。姉はく始めてと頷いた。
「名を見れば分かるでしょう。みんな別のなんだから」
芦田さんは、束のに指を置いた。
「ご宿泊者のお名は10通り以あります。ただ、ご予約に使われた連絡先は3つです」
姉のが、鞄の留め具を押したまま止まった。
芦田さんは70件を3組に分けた資料を、裏返したまま姉のへ置いた。
「奥様。まず、この3つの連絡先から確認させてください」
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
四十九日の追放、母の隠し遺言
「十年世話しただけの妹に、実家の取り分はないわ」 母の四十九日、喪服の兄夫婦は親族の前で澄子を指差し、台所の冷えた板の間へ追いやった。信金を辞め10年間、720万円の私財を投じて母を看取った澄子に、兄は「今週中に出て行け」と冷酷に通告する。 母のキャッシュカードは7年前から兄が独占し、消えた年金は1240万円。 家財すべてが二束三文で業者に売り払われようとする中、母が50年愛用した古い足踏みミシンの奥底から、厳重に隠された「ある物」が滑り落ちた。 「その言葉、そっくりそのままお返しします」 あの日からちょうど49日後、審判の幕が上がる――。兄弟姉妹|修羅場2.3万字5 439 -
完結第10話
洋食屋の絆と、高級寿司屋の逆転
岡田悠斗は、高校生の時に両親を交通事故で亡くし、高卒の自動車整備士として働きながら、三歳下の妹・真央をたった一人で大学の法学部まで育て上げた。真央は猛勉強の末に難関の司法試験を突破し、弁護士として初任給をもらう。悠斗への感謝を込めて予約した高級寿司屋の席で、悠斗の職場の傲慢な上司・西村が偶然居合わせ、「工場で油まみれになって働く底辺の作業員」と悠斗と真央を激しく侮辱する。絶望と怒りが交錯する中、隣の席に座っていた一人の客が立ち上がり、西村を冷徹に一喝する。その男の正体は、かつて両親の営む洋食屋「ひまわり」で無銭の少年時代に助けられた大手IT企業の社長・藤井宗介だった。過去の恩返しと、血を分けた兄妹の絆が奇跡を引き起こす感動のヒューマンドラマ。兄弟姉妹|修羅場1.5万字5 641 -
完結第10話
従妹に貸した部屋が、半年で40回又貸しされていた
国家試験の勉強に使う――そう約束した従妹・さやが、私のマンションを他人に使わせ、密かに金まで受け取っていた。半年間、家賃も取らず信じて鍵を預けた私を待っていたのは、生活感が消えた不自然に綺麗な部屋だった。光熱費の異常な少なさ、玄関脇に残されたキーボックスの跡、そして靴箱の奥から見つかった、知らない5人宛ての郵便物。調べるほど、さやの「1人で勉強していた」という言葉は崩れていく。さらに彼女は、私の知らない人間に鍵を渡し、住所まで使わせていたことを認め始めた。親族だからと目をつぶることは、もうできない。私は写真、通話記録、利用履歴を残し、警察や関係機関へ相談することを決意する。だが、問題は無断利用だけでは終わらなかった。私の住所は、いったい何のために使われていたのか――。調べた先で、さらに不穏な事実が動き始める。兄弟姉妹|修羅場4.1万字5 318 -
完結第10話
売上300万元の牧場で、従兄が渡した分け前は200元
「300万元も売り上げたのに、俺の取り分はたった200元なのか?」――祖父から受け継いだ秘伝の飼育技術で従兄・大鵬の牧場を支え続けた私。しかし「利益は4対6」という約束は踏みにじられ、私はただの雇われ人だと切り捨てられた。 3年間の努力を嘲笑われた私は牧場を去り、最後の500元で病気に侵された50羽の獅頭ガチョウを買う。祖父の処方と自分の腕を信じ、恋人・小満とゼロから再出発すると、死にかけていたヒナたちは驚くほど回復していった。一方、私を追い出した大鵬の牧場では謎の病が広がり、300万元の大口契約まで危機に陥る。そんな中、私のガチョウを口にした一人の老人が、亡き祖父の名を聞いた瞬間に涙を流した――。兄弟姉妹|修羅場3.3万字5 162 -
完結第20話
長女にだけ渡された鍵
父の四十九日。「お前が一番しっかりしている」と病床の父から金庫の鍵を託された長女の私は、弟と妹の前で鉄の扉を開けた。だが中にあった私の通帳は残高一万円で、二百八十万円あった預金は弟の名義で全額引き出されていた。問い詰める私に弟は「親父に頼まれた」と父の直筆の手紙を突きつけ、妹も父と交わした別の密約を叫び始める。そこへ男が現れ、父が実家を担保に借りた五百万円の借用書を突きつけてきた。裡切られた|兄弟姉妹|相続|金銭問題|修羅場3.0万字5 92 -
完結第21話
母がナイフで砕いた自分の名前
母の七十歳の祝いで、私は家族に尽くし続けた母に自分の人生を取り戻してほしい一心から、ケーキのプレートに書かれた夫の姓を削り落とし、母の旧姓を書き直した。これで母は喜んでくれるはずだった。しかし母は青ざめ、「誰が戻りたいなんて言ったの」と私を睨みつけると、ナイフを掴んで自分の名前を何度も突き刺し粉々に叩き割った。家族全員から責め立てられた私は、母の部屋で底面を無残に削り取られた大量の人形を見つける。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係|修羅場3.1万字5 137 -
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 88 -
完結第21話
妹のドレスを二十センチ切った
妹の結婚式を数時間後に控えた深夜二時、私はリビングで特注のウェディングドレスに裁ち鋏を入れた。事故で右足に傷が残る妹に対し、相手の家族は配慮という名目で足を隠す重いドレスを強要し、当日は動かず座り続けるよう言い含めていた。母の怒声が響き、私の頬に平手打ちが飛ぶ。泣き崩れる妹の足元には、前裾だけが二十センチ切り落とされた純白の布が散らばっていた。私は鋏を置き、「今日これを着て出なさい」とだけ告げた。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場3.1万字5 94 -
完結第21話
母を遠ざける姉の嘘
長野で一人暮らす母の介護を一手に担う姉から「母の体調が悪化するから来るな」と言われ、私は五年間帰省を控え、毎月五万円の仕送りを続けていた。だがある夜、母から五年ぶりに直接電話が入る。「まだ怒ってるの。あんたが私の顔も見たくないと言っていたと姉から聞いた」と母は怯えていた。直後に受話器を奪った姉は「母の被害妄想だ」と言い放つ。不審に思った私は姉に告げず始発の新幹線に乗り、五年ぶりに実家の引き戸を開けた。兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|介護3.2万字5 166 -
完結第18話
「この子は俺の子じゃない」
二十六時間に及ぶ難産を終え、産室を出た私を待っていたのは双方の両親の涙と祝福だった。だが壁際に立つ夫は一歩も近寄らず、「この子は俺の子じゃない」と冷たく言い放った。色めき立つ義父母から不倫を激しく追及される中、私の口から咄嗟に出たのは無実を叫ぶ声ではなく、「今日だけは言わない約束でしょ」という悲鳴だった。冷え切った目で私を見下ろす夫の手が、私のカーディガンの前立てにかかる。裡切られた|兄弟姉妹|夫婦|修羅場2.7万字5 955