"息子に捨てられた母の逆転" 第2話
「母さん、今は言うことを聞いてくれよ」
その声には、配ではなく焦りがあった。
次の瞬、バッグはさやかのへ渡っていた。
「携帯だけ返して」
「また持ってきますから」
「さやかさん」
「丈夫ですよ」
職員が困った表でを見ていたが、族の事だとったのか、それ以を挟まなかった。
3階へがるエレベーターに乗り、はる子は301号のまで連れていかれた。
ところがドアがくと、健とさやかはりなかった。
「健?」
息子は線を落とした。
「母さん、今はここで休んで」
「あなたたちは?」
「また来るから」
「いつ?」
返事を待たず、エレベーターの扉が閉まり始めた。
「健!」
はる子が歩へた。
しかし扉は無に閉じた。
最に見えた息子の顔は、母親を配するの顔ではなかった。
ろめたさから、逃げようとしている顔だった。
職員に案内された301号には、ベッドが2つあった。片方は空いており、さな窓から駐が見えた。
はる子はすぐ窓辺へづいた。
黒いが駐をていく。
「待って……」
部をびし、エレベーターへ向かったが、階へ自由にりるには職員用の操作が必だった。
「すみません、息子が帰ってしまったんです」
ナースステーションの職員へ訴えると、女性は困ったように笑った。
「ご族の方はお帰りになりました。
広告
また面会にいらっしゃるといますよ」
「私も帰ります」
「今はもう遅いですし、入所のお続きも済んでおりますから」
「本の私は何も聞いていません」
職員は返事に詰まった。
はる子はそれ以言えなくなった。
くで玄関の自ドアが閉まる音がした。
のる夜。
自分は、本当に置いていかれたのだ。
部へ戻り、ベッドの端へ座った。
泣きたかった。
息子を呼びたかった。
どうしてこんなことをするのかと叫びたかった。
けれど、はる子は両を膝のに置き、何度もゆっくり息を吐いた。
ここで取り乱したら、それこそ相のうつぼだ。
ふと、はる子はコートのポケットへを入れた。
ハンカチ。
銭。
何かいもの。
だが、そのは確かめなかった。
まず今夜を越えなければならない。
はる子は暗い窓に映る自分の顔を見つめた。
「泣くのは、まだよ」
さくそう言った。
その夜、70以きてきたはる子ので、初めて「自分の息子からを守る」というが始まった。
翌朝7、廊に朝をらせるアナウンスが流れた。
ほとんど眠れなかったはる子は、見慣れない井をしばらく見つめてから体を起こした。隣のベッドは空いたままで、部のには自分の呼吸音しか聞こえない。
洗面台で髪をえ、廊へた。
杖をついた。
子を押してもらう。
広告
職員とをつないで歩く。
何もの齢者がゆっくりと堂へ向かっている。
はる子もその列に混じった。
朝は柔らかく煮たかぼちゃと粥だった。欲はなかったが、ずつへ運んだ。
「初めてのね」
隣に座った80代くらいの女性が話しかけてきた。
「昨来たんです」
「あら、そう。最初は眠れないわよ。私もそうだったもの」
親切そうなだった。
はる子は礼を言ったものの、それ以は話さなかった。
、ナースステーションへ呼ばれた。
「はる子様、施設内の決まりを説しますね」
職員から渡された用には、、面会、貴品管理などについて細かな決まりが並んでいた。
族との話しいが必な項目もい。
「携帯話を返してもらいたいんです」
はる子が言うと、職員はし困った顔をした。
「携帯は昨、ご族がお持ち帰りになりました」
「私のものです」
「はい。ただ、ご族から紛失が配なので預かると伺っておりまして……」
「私はなくしません」
職員は返事をしなかった。
はる子はバッグを返してもらい、を確認した。
財布はある。
保険証もある。
しかし携帯だけがない。
と自由に連絡を取る段を、さやかは図して持ち帰った。
それだけは違いなかった。
午11ごろ、廊を歩いているとナースステーションの話が鳴った。
「はい、希望の里です」
職員の声が聞こえる。
はる子はそのまま通り過ぎようとした。
ところが次の言葉でが止まった。
「はい。はる子様のご族ですね」
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 478 -
完結第16話
十字の紙片と売られた生家
「母さん、老人ホームに入れ。この家も売る」息子夫婦はカナダ移住を前に、相場の半値以下の査定書と山奥の隔離施設のパンフレットを突きつけてきた。共働きで多忙な彼らに代わり、十年間孫娘を育て上げ、遺産から数百万円を用立ててきた私への仕打ちがこれだった。絶望に沈む私の手に、高校生の孫娘が震えながら押し込んだのは、固く折られた「十文字のチラシの紙片」。「明日の朝までに、実印と通帳は絶対に渡さないで」。深夜二時、一人で開いたその紙には、全てを覆す戦慄の計画が記されていた。私は仏壇の隠し金庫に手を伸ばし――。祖父母と孫|介護2.4万字5 426 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 202 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3040 -
完結第19話
深夜2時、隣家の物置で赤ん坊を抱く4歳児
心臓の不整脈で消防士を辞め、故郷の民宿「緑海荘」へ戻った27歳の相馬蒼太。 ある深夜2時、隣家から突然途切れた赤ん坊の泣き声に異変を感じて駆けつけると、物置のような暗い部屋で、全身に青あざを負った4歳のひなが、痩せた妹メイを必死に抱いていた。 「泣いたらまた叩かれるんですか?」――その一言に、蒼太は2人を必ず守ると決意する。民宿へ連れ帰り、常連客の旅行ライター・りんや両親と共に食事と温かな寝床を与え、児童相談所へ連絡。 しかし保護の朝、ひなは「お兄ちゃんと離れたくない」と蒼太の服を握りしめる。初めて見る海の前で、ようやく声を上げて泣いた少女を前に、蒼太とりんは“助ける”だけでは終われない未来を選び始める――。親子関係|修羅場2.8万字5 251 -
完結第25話
底辺受付嬢を見下す役員たちの誤算
父の会社は、最も信頼していた人間の裏切りによって無惨に食い物にされた。巨額の負債を背負い、絶望の中で病に倒れた父。私はその冷酷な真相を暴くため、ハーバード大の博士号を隠し、ただの「受付嬢」として敵の中枢である星空グループに潜入した。 誰からも見下され、理不尽な侮辱に耐え忍ぶこと3年。息を潜めて集めた証拠が示したのは、あまりにも残酷な真実だった。父を破産に追い込み、私から全てを奪った黒幕の正体は、父が家族のように慕っていた古参役員だったのだ。 「黒幕は役員会の中にいる」――私を守るため、父が命懸けで残してくれた最期のメッセージを知った時、胸の奥の悲しみは絶対的な冷酷さを持つ復讐の炎へと変わった。私の素性を知る新社長のハルトや、父の旧友たちと共に、私は決して逃れられない完璧な包囲網を密かに築き上げていく。 そして迎えた運命の役員会。全てを掌握したと信じ、私の前で勝ち誇る黒幕。だが彼はまだ知らない。無力な受付嬢だと思っていた私が、彼を社会的死の淵へと突き落とす致命的な罠を仕掛けていたことを。仮面を脱ぎ捨てた時、強欲な悪魔を地獄の底へと引きずり下ろす、容赦なき反撃が幕を開ける――。因果応報|真相|修羅場3.8万字5 1809 -
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 430 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 208 -
完結第14話
月二十五万を貪る偽装役員一家の転落
外資系コンサルティングファームで働く小笠原萌子は、お見合いで大手企業勤務のエリート・東野広夢と結婚した。しかし新婚早々、夫の経歴が全て嘘で、定職すら就いていない無職だと発覚する。さらに広夢は「大企業の役員に抜擢された」と両親に大嘘を吹き込み、見栄を張る義父母は都心のタワマン家賃二十五万円や、百万円の旅行代を萌子の給料から平然と搾取し始めた。夫の度重なる深夜帰宅に不審を抱いた萌子が財布を探ると、そこには見知らぬ甘い香りと、黒地に金箔押しされた高級シティホテルの会員カードが。探偵の分厚い報告書によって夫のキャバクラ通いと裏切りが露呈したとき、萌子は離婚を決意する。だが、金の蛇口を止められた元夫と義家族の強欲は暴走し、SNSでの悪質なデマ拡散、そして新居への土足侵入へとエスカレートしていく。すべてを奪おうとする寄生虫たちに、萌子が下す冷徹な鉄槌とは――。嫁姑|夫婦2.4万字5 695