"孫の一言で取り戻した通帳" 第1話
「ばあばの通帳、ママのバッグにいつも入ってるよ」
支の朝、6歳の孫・莉央が卵焼きを頬張りながら、何でもないことのようにそう言った。
卓のでは噌汁からい湯気ががり、テレビではるい声のアナウンサーが朝のニュースを読みげていた。しかしその言が落ちた瞬、私たち4が囲んでいたダイニングだけ、が止まったように静かになった。
私は湯呑みを両で包んだままかなかった。
向かいに座っていた嫁の恵理は、箸でつまんでいた焼き鮭を皿へ落とした。ほんのさな音だったが、私には妙にきく聞こえた。
「莉央、適当なこと言わないの。くべなさい」
恵理は笑おうとしていた。
けれど、その声は普段より半音ほどかった。
隣に座る息子の幸はスマートフォンから顔をげない。画面を指で滑らせ続け、娘の言葉などに入らなかったような態度を取っている。
私は何も言わず、恵理の子のろへ目を向けた。
背もたれに掛けられた黒いトートバッグ。その元から、見覚えのある緑の通帳ケースがしだけ覗いていた。
違えるはずがない。
2、私が骨折して入院したに、恵理へ預けたものだった。
私は4に夫をくしてから、こので1暮らしをしていた。ところが2の、自宅の廊でを滑らせての腿骨を骨折した。
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の切れた廊でけなくなり、数に所のへ発見されるまで、私はたいのでただ助けを待っていた。
その恐怖は今も体の奥に残っている。
退院、幸が言った。
「母さん、もう1は無理だよ。俺たちがこっちへ来る」
当、幸は賃貸マンションにんでいた。夫と建てたこのには空いている部があったため、結果として息子夫婦と莉央が私のへ越してくる形で同居が始まった。
私はありがたかった。
のにの声が戻った。
夕には莉央が保育園の来事を話し、恵理は私のために柔らかく煮た根を作ってくれた。の調子が悪いは、買い物にもにも代わりにってくれた。
だから私は自分から申した。
「私もこので緒に暮らすんだから、毎4万円は活費として入れさせて」
最初、恵理は断った。
「そんな、母さんから毎いただくなんて」
「完全に世話になるのは嫌なの。私の分くらいは払わせて」
そのの恵理は、本当に慮しているように見えた。
やがて私は用の通帳とキャッシュカードを彼女へ預け、暗証番号まで教えた。
毎4万円。
それだけろして計へ入れる。
残りは私の医療費や老のために、そのまま残しておく。
そういう約束だった。
ところが、退院から2く経った今でも、通帳は私の元に戻っていない。
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私はそのことを議にいながらも、く考えようとはしなかった。
族なのだから。
恵理は私のためにいてくれているのだから。
疑うようなことをしてはいけない。
そんな気持ちがあった。
「お義母さん、今はお茶、しかったですか?」
恵理が急に言った。
「いいえ。ちょうどいいわよ」
私は湯呑みを置いた。
そしてゆっくりちがった。
にはまだ古傷が残っている。ちがるには、無識にテーブルへをつく癖があった。
恵理の顔に、瞬だけ堵が浮かんだ。
私がトイレへでもくとったのだろう。
しかし私は彼女の背まで歩き、子に掛かっていた黒いトートバッグへを伸ばした。
「お義母さん?」
緑のケースを引き抜く。
恵理が勢いよくちがった。
「どうしたんですか?」
「今は気がいいから」
私はケースをカーディガンのポケットへしまった。
「散歩がてら、自分で記帳してくるわ」
恵理の顔から、はっきりと血の気が引いた。
「私がきます。お義母さん、まだが痛むでしょう?」
「私の通帳よ」
私は彼女の目を見た。
「私が自分で持ってへって、何かいけないことでもある?」
恵理の唇がいた。
だが言葉はなかった。
そのになって、ようやく幸がスマートフォンから顔をげた。
「母さん、恵理が親切で言ってるんだから」
私は息子へは答えなかった。
靴を履き、玄関の扉をけた。
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