みかん小説
本棚

"昭和33年、父が隠した高校合格通知" 第9話

「おじいちゃんがどうしたのかしらね」

修はし考えた。

そして自分の通を、元の引きしへ戻した。

いつか捨ててもいい。

でも今は、もうし残しておこうとった。

それからいが経った。

修は械会社で働き続けた。

最初は計算係のような仕事だったが、しずつ図面を任されるようになり、には製造現と設計をつなぐ仕事をするようになった。

数学が好きだった15歳のが、そのまま数学者や教師になったわけではない。

学へもかなかった。

けれどで学んだは、確かにそののへつながった。

子も学卒業すぐには働かず、本の希望でへんだ。

その頃には計もし持ち直し、修も毎いくらかへ入れるようになっていた。

「兄ちゃんのせいでけないなんて嫌だからな」

修が言うと、子は笑った。

「私がきたいからくの」

「分かってるよ」

浩もに業へんだ。

田島ではいつのにか、

「学へくかどうかは、まず本が決める」

というのが当たりになっていた。

父の正吉は、そのも決して饒舌にはならなかった。

息子の仕事について細かく聞くこともない。

ただ修が帰省すると、

「会社、潰れそうじゃないか」

などと嫌な聞き方をする。

修も、

「製材所よりは丈夫だよ」

広告

と言い返す。

そんな親子だった。

正吉が70を越えた頃。

修は度だけ、あの話を蒸し返した。

で縁側に座り、夕方の田んぼを見ていただった。

「父ちゃん」

「何だ」

「俺の格通、隠したこと覚えてる?」

正吉は嫌そうな顔をした。

「忘れるか」

「まだ仏壇にあるよ」

「母ちゃんが捨てんからだ」

「父ちゃんは捨てたい?」

「勝にしろ」

修は笑った。

しばらくして、正吉がぽつりと言った。

「お、あの、俺のこと相当んだろ」

「んだよ」

「そうか」

「父ちゃんもじいちゃんんだんだろ」

「ああ」

正吉は素直に答えた。

「今は?」

「もうんどるをいつまでもんでも仕方ない」

修はし考えた。

「許したってこと?」

父は首を振った。

「許すとか、許さんとかじゃない」

「じゃあ何」

正吉は田んぼを見た。

「分かっただけだ」

「何が」

「あのの親父が怖かったものが」

修は黙った。

父は続けた。

「分かったからって、正しかったことにはならん」

修はその言葉を聞いて、し驚いた。

それは父自のことでもあった。

正吉は祖父の為を理解した。

だが正しいとは言わなかった。

修も同じだった。

父がなぜ通を隠したのか、今では分かる。

15歳の頃よりずっと分かる。

自分も庭を持ち、子どもの学費を払い、料に財布のを気にするようになったからだ。

子どものを応援したい気持ちと、来の支払いを配する気持ちは、同にする。

広告

親だから派になるわけではない。

むしろ子どものを背負った、自分でもらなかったさや怖さがてくる。

正吉は、その怖さに負けて通を隠した。

しかも度ではない。

も。

息子に、

「来てない」

と嘘をついた。

それは違いだった。

修は今でもそうっている。

けれど目。

母に見つかり、息子に責められ、逃げられなくなった父は、最にはつだけ違う選択をした。

自分の父親と同じところで、止まらなかった。

族全員で計簿をいた。

がないことを話した。

息子の希望を聞いた。

そして朝まだ暗いうちに、自転をした。

駅まで息子を乗せてった。

学までではない。

駅までだった。

そこから先は、修自に歩かせた。

《くかどうかは、おが決めろ》

あの、父が返したのは枚の格通だけではなかった。

自分では選べなかった15歳のを、今度は息子に選ばせようとしたのだ。

正吉がくなったのは、その数だった。

葬儀が終わり、族で仏壇のを理していた、修は例の引きしをけた。

格通はまだそこにあった。

だが、そのにもうつ、見覚えのない包みがあった。

くと、から古びた算術の参考がてきた。

納で父が度だけ見せてくれたものだった。

修は表を撫でた。

には若い頃の正吉の字が残っていた。

問題の横に、さな鉛きがある。

何度も解き直した跡。

頁の端には、

《松本》

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: