"昭和40年、15歳で東京へ出た少年" 第11話
けれど、い正休みは瞬くに過ぎり、再び京へ戻る朝がやってきました。 駅のホームで見送る族の構図は、あのの発のと何つ変わっていませんでした。 しかし、客のステップにつミノルの胸にあったのは、あののような底れぬ恐怖や細さではありませんでした。 「ってきます。仕送り、また毎送るからな!」 ミノルが力くを振ると、弟がきくねがり、妹が笑顔でを振り返しました。 汽がきしても、ミノルはもう涙を流しませんでした。 自分の背には、守るべき故郷がある。 その確信が、をへと脱皮させていたのでした。
京での活が、と積みなるにつれ、ミノルの内面にも、目に見える変化が表れ始めました。 その最も顕著な表れが、「言葉」でした。
京した当初、ミノルの話す弁のズーズー弁は烈で、町の百や煙で買い物をすることすら苦労でした。 「これ、なんぼだべ?」 「あん? 坊や、何言ってるか分かんねえよ。いくらかって聞いてんのかい?」 骨に笑われることもあれば、同世代の都会育ちの若者から、蔑むような線を向けられることもありました。 それが悔しくて、ミノルは夜、寮の布団ので、昼にした先輩たちの「京言葉」を、声で何度も真似して練習したものでした。
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「〜だべ」を「〜でしょ」へ。 「おら」を「ぼく」、そして「おれ」へ。 角のとれた、乾いた標準語のイントネーションが、しずつミノルのをついてるようになっていきました。
が過ぎ、歳になる頃には、ミノルはの話番を任されても、取引先の担当者に方者だと気づかれないほど、滑らかなビジネスの言葉遣いをにつけていました。 「お世話になっております、協精の朝倉です。先ほどご注文いただきましたシャフトの件ですが、の午には納品能です」 淀みなく受話器に向かって話すミノルの姿を見て、田主任は目を細めて笑いました。 「ミノルも、すっかりの『京の職』になったな」
けれど、ミノル自のには、言葉が変わっていくことに対する奇妙な居の悪さと、罪悪のようなが常にさく燻っていました。 京の言葉を覚えることは、きるための武器でした。 けれどそれは同に、故郷のと、あのの匂いのする両親から、しずつ自分がざかっていることの証のようにもえたからです。
その葛藤を救ってくれたのは、やはり族へ宛てるでした。 ミノルは、京でどれほど流暢な都会言葉を操るようになっても、野の母へ送るの文面だけは、決して標準語を使いませんでした。
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『お母ちゃん、寒くなったども、邪ひいてねえべか』 『稲刈りは無事に終わったべか』 をくときだけは、子どもの頃の、あの素朴な訛りが指先から自然と溢れしました。 それは、どれほど京のに馴染もうとも、自分の根っこはあのいにあるのだということを、自分自に確認させるための、神聖な儀式でもありました。
ある、の昼休みに、州の吉と、しく入ってきた潟の輩とで、の裏のに座っておにぎりをべていたのことでした。 吉がふと、くの青空を見げながら言いました。 「なあ、ミノル。俺たち、盆や正に田舎へ帰るとさ、元の友達から『お、京の言葉使うて、気取っとる』って言われんか?」 ミノルは苦笑いを浮かべながら、麦茶をみました。 「……言われるな。自分じゃ普通に喋ってるつもりなのに、弟から『兄ちゃんの言葉、よそきで気悪い』って笑われたよ」 「そうたいな」吉は膝を抱え、さく息を吐きました。 「京に来りゃ田舎者だと笑われ、田舎に帰れば京吹かせてるとなじられる。……俺たちの本当の居所は、体どこにあるっちゃろうかな」
その問いに、ミノルはすぐには答えられませんでした。 のを流れる運の濁った面を、隻の運搬がいエンジン音をてて通り過ぎていきました。
けれど、しばらく考えた、ミノルは静かにをきました。
「……両方でいいんじゃないか、吉」
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