"元警察官の父が娘に渡した一枚の封筒" 第10話
《おが「したことない」と言って消してきたかだ》
私はもう消さない。
いいことも。
悪いことも。
全部、自分のとして残す。
を迎える。
私は婚のを正式に伝えた。
拓也はすぐには同しなかった。
話しいは何度か続いた。
「もう度だけ考えてくれ」
最まで、その言葉は消えなかった。
けれど以と違うこともあった。
鳴らなくなった。
突然押しかけてくることもなくなった。
代理を通した連絡にも応じるようになった。
それが本当に変化なのか。
私には分からない。
そして、もう私が判断する必もなかった。
最にだけで話す会を作った。
所は、最初に別居を伝えたのと同じ駅のカフェだった。
拓也は以のようなスーツではなく、普通のセーターを着ていた。
「織」
「うん」
「俺、カウンセリングに通ってる」
「そう」
「自分がる理由とか、々話してる」
私は静かに聞いた。
「最初は、おが戻るためにってた」
拓也が苦笑した。
「変わったって証すれば戻るとってた」
私は何も言わなかった。
「でも途で、それじゃないって言われた」
彼はコーヒーを見つめた。
「俺はずっと、ったに謝ればちゃんと反省してるだとってた。でも謝ることで、自分が楽になってただけだったのかもしれない」
初めて聞く言葉だった。
以の私なら、そこでが揺れたとう。
広告
もう度なら、と。
でも今の私は、穏やかに聞けた。
「そうなんだ」
拓也が顔をげた。
「それでも戻らない?」
「戻らない」
即答した。
彼は目を閉じた。
「そっか」
い沈黙。
そして、ようやく言った。
「分かった」
それは結婚してから初めて聞いた、本当のでの「分かった」だった。
私を説得するためでもない。
嫌を直すためでもない。
自分には変えられない私の決定があると、認める言葉だった。
数週。
婚届にで署名した。
婚届を提したの夕方。
私は実へ戻った。
誠は居で聞を読んでいた。
「ただいま」
「お帰り」
コートを脱ぎ、父の向かいに座る。
「今、してきた」
聞がしがった。
「そうか」
それだけだった。
「何かないの?」
わず笑ってしまった。
「何が」
「かったね、とか。よく頑張った、とか」
「別に俺が頑張ったわけじゃない」
父らしい返事だった。
私は笑いながら泣いた。
「お父さんって、本当にそういうところあるよね」
「何だ」
「もうし普通の親みたいにしてよ」
「疲れてるなら呂入って寝ろ」
そう言いながら、父は台所へ向かった。
しばらくして、私の好きなほうじ茶と最を持って戻ってきた。
言葉の代わりなのだと分かった。
私は最を半分に割った。
「ねえ、お父さん」
「何だ」
「私、結婚したこと悔してないよ」
誠はそうに私を見た。
「辛かったけど」
私は続けた。
広告
「結婚しなかったららなかったこともいっぱいあったし、自分がどれだけの顔を気にするなのかも分からなかった」
「そうか」
「でも次は、もっと自分のこと信じる」
父は湯呑みを持ちげた。
「それなら分だ」
婚したからが急に輝くわけではなかった。
翌も私は会社へった。
は混んでいた。
司には仕事を急かされた。
帰れば洗濯物もある。
けれど、その平凡さが嬉しかった。
誰かの嫌つで壊れない。
それが私には、しい活だった。
半。
私は実をた。
父と仲が悪くなったわけではない。
むしろ以より話すようになった。
ただ、いつまでも父のを「避難所」のままにしたくなかった。
自分の活を自分で作りたかった。
駅から10分ほどのさな1LDK。
以のマンションよりずっと狭い。
キッチンも古い。
それでも内見した瞬、窓から午の差しが入るのを見て、ここがいいとった。
引っ越しの、誠が伝いに来た。
元警察官とはえないほど段ボールの運び方がで、腰を押さえながら文句を言っている。
「無理しないでよ」
「まだこれくらい持てる」
「もう70いんだから」
「うるさい」
夕方。
最の箱をけると、例の茶封筒がてきた。
父が気づいた。
「まだ持ってたのか」
「捨てろって言ったくせに」
「嫌なら捨てろと言った」
私は封筒を引きしへ入れた。
「これは捨てない」
父は何も言わなかった。
「お父さん」
「何だ」
「これ読むと、怖かったのこといすんだけど」
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 418 -
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 609 -
完結第14話
「死産」と告げた院長と20年目の出生記録
20年前、出産した娘を「死産でした」と告げられた私・佐藤しず子。しかし私は、麻酔の中で確かに聞いた産声を一度も忘れられなかった。 真実を確かめるため、私は清英産婦人科医院の清掃員として20年間働き続け、誰にも気づかれず院内の秘密を探ってきた。そんなある夜、若い看護師から「まだ間に合います。あなたの娘さん生きています」と書かれた紙を渡される。 やがて地下の保管庫へ忍び込んだ私は、自分の出産記録の隣に「佐藤女児――転送」と記された手帳を発見する。 さらにそこには複数の新生児と金銭の記録まで残されていた。娘を奪ったのは誰なのか。そして病院は20年間、何を隠してきたのか。見下され続けた“掃除婦”は、集めた証拠を手に院長・安藤剛と対峙する――。真相|修羅場2.1万字5 407 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 199 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3039 -
完結第22話
夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉
深夜2時、救急外来で夜勤中の看護師・佐藤み咲のもとへ、交通事故で重傷を負った男女2人が搬送されてきた。シーツの下にいたのは、夫・拓也と義姉・麗子。しかも2人は、決して「姉弟愛」では説明できない姿で倒れていた。 み咲は5年間、看護師という仕事を見下す夫と、「子供も産めない」と侮辱する麗子、その2人を庇い続ける義母・里子に耐えてきた。 それでも彼女は感情を捨て、看護師として2人の命を救うことを選ぶ。 だが、惨状を目にした義母まで「全部あなたのせい」とみ咲を罵倒した瞬間、最後の迷いは消えた。 何年も残してきた暴言の記録と証拠を武器に、奪われ続けた人生を取り戻す反撃が静かに始まる――。夫婦|修羅場|不倫3.3万字5 2748 -
完結第19話
深夜2時、隣家の物置で赤ん坊を抱く4歳児
心臓の不整脈で消防士を辞め、故郷の民宿「緑海荘」へ戻った27歳の相馬蒼太。 ある深夜2時、隣家から突然途切れた赤ん坊の泣き声に異変を感じて駆けつけると、物置のような暗い部屋で、全身に青あざを負った4歳のひなが、痩せた妹メイを必死に抱いていた。 「泣いたらまた叩かれるんですか?」――その一言に、蒼太は2人を必ず守ると決意する。民宿へ連れ帰り、常連客の旅行ライター・りんや両親と共に食事と温かな寝床を与え、児童相談所へ連絡。 しかし保護の朝、ひなは「お兄ちゃんと離れたくない」と蒼太の服を握りしめる。初めて見る海の前で、ようやく声を上げて泣いた少女を前に、蒼太とりんは“助ける”だけでは終われない未来を選び始める――。親子関係|修羅場2.8万字5 251 -
完結第25話
底辺受付嬢を見下す役員たちの誤算
父の会社は、最も信頼していた人間の裏切りによって無惨に食い物にされた。巨額の負債を背負い、絶望の中で病に倒れた父。私はその冷酷な真相を暴くため、ハーバード大の博士号を隠し、ただの「受付嬢」として敵の中枢である星空グループに潜入した。 誰からも見下され、理不尽な侮辱に耐え忍ぶこと3年。息を潜めて集めた証拠が示したのは、あまりにも残酷な真実だった。父を破産に追い込み、私から全てを奪った黒幕の正体は、父が家族のように慕っていた古参役員だったのだ。 「黒幕は役員会の中にいる」――私を守るため、父が命懸けで残してくれた最期のメッセージを知った時、胸の奥の悲しみは絶対的な冷酷さを持つ復讐の炎へと変わった。私の素性を知る新社長のハルトや、父の旧友たちと共に、私は決して逃れられない完璧な包囲網を密かに築き上げていく。 そして迎えた運命の役員会。全てを掌握したと信じ、私の前で勝ち誇る黒幕。だが彼はまだ知らない。無力な受付嬢だと思っていた私が、彼を社会的死の淵へと突き落とす致命的な罠を仕掛けていたことを。仮面を脱ぎ捨てた時、強欲な悪魔を地獄の底へと引きずり下ろす、容赦なき反撃が幕を開ける――。因果応報|真相|修羅場3.8万字5 1809 -
完結第14話
月二十五万を貪る偽装役員一家の転落
外資系コンサルティングファームで働く小笠原萌子は、お見合いで大手企業勤務のエリート・東野広夢と結婚した。しかし新婚早々、夫の経歴が全て嘘で、定職すら就いていない無職だと発覚する。さらに広夢は「大企業の役員に抜擢された」と両親に大嘘を吹き込み、見栄を張る義父母は都心のタワマン家賃二十五万円や、百万円の旅行代を萌子の給料から平然と搾取し始めた。夫の度重なる深夜帰宅に不審を抱いた萌子が財布を探ると、そこには見知らぬ甘い香りと、黒地に金箔押しされた高級シティホテルの会員カードが。探偵の分厚い報告書によって夫のキャバクラ通いと裏切りが露呈したとき、萌子は離婚を決意する。だが、金の蛇口を止められた元夫と義家族の強欲は暴走し、SNSでの悪質なデマ拡散、そして新居への土足侵入へとエスカレートしていく。すべてを奪おうとする寄生虫たちに、萌子が下す冷徹な鉄槌とは――。嫁姑|夫婦2.4万字5 695