"八百万円の泥棒とされた妹、九年目の審判" 第3話
「いいえ、っているはずです」
綾乃は歩、静恵に歩み寄った。
「父の記に残っています。の、うちの務がこの池の補修事を請け負うはずでした。でも、奈央がいなくなったの朝、あなたが突然話をかけてきて、『お宅の娘がを盗んで逃げたんだから事はだ、別の業者に頼んだ』って、鳴りつけたんです」
綾乃の記憶が、鮮に蘇っていた。
〇。曜。
朝過ぎ、まだ夜がけきらない暗いリビングで、父の鳴り声と母の鳴が響いた。受話器の向こうから聞こえていたのは、違いなくこの女、神静恵の切り声だった。
『お宅の奈央さんがね、うちの庫から百万円盗んで姿を消したのよ! 婚礼用のも乗り捨てて! 警察に通報したからね! 事なんて冗談じゃない、棒のにうちの敷居を跨がせるわけにはいかないわ!』
父は血の気を引かせ、作業着を着たまま警察へった。
だが、そのの午には、もう神の庭には別の業者のミキサーが入っていたのだ。
「妹が消えたのは、の夜です」
綾乃は、静恵の目をまっすぐに見据えて言った。
「そして、この池のコンクリートが打たれたのは、その翌朝、です。……奈央が自分で百万円を盗んで逃げたとして、どうやって翌朝に打たれるはずのコンクリートのに、このい庫を埋め込めたんですか?」
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静恵は息を呑み、喉をさせた。
「そ……それは……」
「奈央にはできません。穴を掘るスコップも、割栗を退かす具も持っていなかった。何より、翌朝にコンが流し込まれることなんて、事を発注したあなたしからなかったはずです」
「言いがかりよ!」
静恵が叫んだ。その声は、もはや隣を気にする余裕すら失っていた。
「何が言いたいのよ! 私がその庫を埋めたって言いたいわけ!? 自分が用した百万円を、自分のの庭に埋めるわけないでしょうが! 何の得があるのよ!」
「得なら、あります」
綾乃の声は、自分でも驚くほど徹だった。
「奈央を、棒に仕てげることができた」
静恵の表が凍りついた。
「奈央がを持って逃げた悪女になれば、婚約破棄の理由はすべて篠原の責任になります。そして……奈央のお腹にいた俊さんの子どもごと、妹のをこの町から完全に消しることができた」
「ふざけないで……!」
静恵の顔がりで赤黒く染まり、ががろうとした。
「お母さん、やめろ!」
に、背から俊が静恵の腕を掴んだ。
静恵が信じられないものを見る目で息子を振り返る。
「俊……あんた、何の方をしてるの!?」
「もういいだろ……警察のもいるんだから……」
俊の声は震えていた。その線は、面に転がるピンクのガラケーに釘付けになっていた。
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綾乃は、逃げようとする俊の目を逃さなかった。
「俊さん。の、夜の。あなたは本当に、何もらなかったんですか?」
俊の喉がさく鳴った。彼は綾乃を見ようとせず、すがるように母親の顔を見た。だが、静恵の瞳の奥にあるたい威圧に気圧されたように、再びを閉ざした。
「……警察署へきます」
綾乃は、巡査に向き直って告げた。
「妹の遺留品として、あの携帯話と庫の保全をお願いします。それから、にこの池の事をった業者を調べてください。誰が、何に、どういう指示でコンを流したのか。すべて記録が残っているはずです」
「あ、はい……もちろん、事実関係の確認をめます」
巡査は静恵と綾乃のただならぬ気迫に圧倒されながら、無線にを伸ばした。
神のをるとき、綾乃は背に突き刺さる静恵の線をじていた。
振り返ると、静恵は庭の端にち、にまみれた庫を見ろしていた。その顔には、先ほどまでの激昂はなく、ただ底れない淡なが張り付いていた。
、篠原を獄に突き落とし、両親の命を奪った嘘の正体が、音をてて崩れ始めていた。
妹は、逃げてなどいなかった。
あの、あので、何かが起きていたのだ。
綾乃はスマートフォンを取りし、実の古い引きしに眠っていた父の業務誌の画像を呼びした。
そこには、に父が殴りきした、神に入りしていた請け業者の名が残されていた。
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