"側溝の底のGPS" 第2話
午。 蓮を学へ送りし、洗濯物を干し終えた私は、庭の隅にある境界のコンクリート側溝に目を留めた。
幅センチほどの、何の変哲もないU字溝だ。 私たちの敷と、向かいの寺内先のの敷のをり、そのままの本管へと流れ込む排。 昨夜の台崩れの豪のせいで、流の雑林から流れ込んだ落ち葉と濡れた砂が、コンクリートの底に黒々と堆積していた。
「……詰まってるわね」
が流れず、の泡を浮かべて淀んでいる。 このまま放置すれば、ボウフラが湧くか、悪臭で隣所に迷惑がかかる。 私は物置からゴム袋と、先が平らになった園芸用の移植ごてを引っ張りしてきた。
靴を履き、湿ったコンクリートの縁に膝をつく。 こてをのに突き刺すと、ズブズブと鈍い抵抗とともに、腐敗したヘドロの匂いがちった。 を突く硫化素の臭気に顔をしかめながら、バケツにを掻きしていく。
シャリ、シャリ、と、属と砂利が擦れう単調な音だけが、静かな宅の朝に響いていた。
杯目のを掻きそうと、こてを側溝の奥——寺内先のの敷から突きている、古い塩ビの排パイプの継ぎ目あたりに差し入れたときだった。
ガツン。
固いものが、こての先端に当たった。 ではない。
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もっとく、空のプラスチックのような、甲い反発音。
「……ゴミ?」
を伸ばし、のに指を突っ込んだ。 指先に触れたのは、細い針のようなものだった。 何にもねじりわされ、側溝の内壁の隙に、図に引っ掛けるようにして固定されている。
力任せに引っ張ると、メリメリと錆びた針がちぎれ、のから方形の塊が持ちがってきた。
のひらに収まるほどの、の塊。 みはセンチほど。 全体がドロドロの黒いヘドロで覆われ、何にもビニールテープが巻きつけられていたが、そのテープの端が経劣化で剥がれ、隙からが染みしていた。
私はちがり、庭の散ホースのノズルを捻った。 めのストレート流を、の塊に浴びせかける。
黒いが流れ落ち、次第にのプラスチックが現れた。 濁ったのから浮きがってきたのは、汚れた、しかし見覚えのあるエメラルドグリーンのシリコンケースだった。
息が、喉の奥で詰まった。
「……嘘でしょ」
臓が、のすぐろで激しく鐘を打ち鳴らし始めた。
それは、防犯ブザー能のついた、子供用の見守りGPS端末だった。 角が丸っこい、角いフォルム。 央にある緊急発信ボタン。 そして、その裏側。 爪で擦り取ったの跡に、黄く変し、端が擦り切れたテプラのシールが残っていた。
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ひらがなで、拙い丸文字で印字された、文字。
『たかぎ はるな』
陽菜。
私の、にんだ、娘の名だった。
血の気が、音をてて元から引いていくのが分かった。
っていられなくなり、私は濡れたコンクリートのに、両膝から崩れ落ちた。 袋越しに握りしめた端末が、氷のようにたい。
陽菜。 私の娘。 きていれば、今で歳。蓮とつ違いの、お転婆で、たまりにび込むのが好きな女の子だった。
あの——の、の終わりの午。 突然のゲリラ豪だった。 鳴が轟く、所の公園へ遊びにったきり戻らなかった陽菜を、町総で探した。 警察、消防団、自治会、所の々。 何ものが、傘を放りして名を叫び続けた。
陽菜が見つかったのは、翌朝のことだった。 宅から百メートルほど流にある、調池の吐きし。 増した濁流に呑まれ、フェンスの網に引っかかっていたさな体には、もう息がなかった。
警察の結論は「過失による事故」だった。 で増した渠の側溝を覗き込み、を滑らせて転落、そのまま暗渠へと吸い込まれ、調池まで流されたのだろう、と。
『お母さん、目をしちゃ駄目じゃないの』 『あの、が鳴ってたのに、なんでにしたのかしらね』
お通夜の席で、焼に並ぶ所の主婦たちが交わしていた囁き声を、私は今でも言句違わずに覚えている。
私の注。 私の監督責任。 娘を殺したのは私だという消えない烙印。
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