"側溝の底のGPS" 第3話
あのとき、陽菜がランドセルの肩ベルトに提げていたはずのこのGPS端末は、濁流に流され、調池のの底に沈んで度と見つからないと聞かされていた。 遺留品として元に戻ってきたのは、まみれになった片方だけの運靴と、破れたレインコートの切れ端だけだったはずだ。
なのに。 なぜ、これがここにあるのか。
百メートルれた調池ではなく。 あの、陽菜が転落したとされた所よりも、遥かに流の。 私たちのと、寺内先のの、わずか数センチの敷境界の側溝の奥くに。 誰かが図に針で固定したかのように、パイプの継ぎ目に括り付けられていたのか。
「……あ」
擦り洗いしていた歯ブラシが、端末の側面のラバーキャップを引っ掛けた。 充用の端子を覆うゴムの蓋が、経劣化でボロリと千切れ落ちる。
その瞬だった。 隙から侵入した分が、内部の基板をショートさせたのか。 端子の脇にある、針の穴ほどのインジケーターが、チッと微かなを散らした。
——赤。
鈍い、濁った赤のが、度だけ、確かに点滅した。
あり得ない。 ものに浸かっていた精密械のバッテリーが、きているはずがない。 リチウムイオン池はとっくに放し、内部は腐して錆び果てているはずだ。
私は震えるで、シリコンのカバーを力任せに引き剥がした。
広告
爪が割れて血が滲んだが、痛みなどじなかった。
現れたいプラスチックの本体。 その裏蓋には、カッターナイフで引にこじけられたような無数の傷がついていた。 そして、わせ目を密閉するように、の業用アルミテープが何にも、几帳面なつきで貼り直されていた。
誰かが、これをけたのだ。 事故の。 あるいは——事故の、に。
私は濡れた端末を胸に抱きかかえるようにしてちがり、勝から台所へ駆け込んだ。 鍵を閉め、チェーンを掛ける。 ガタガタと震える指先で、リビングの引きしをひっくり返した。
陽菜がんだあと、解約することすら恐ろしくて、引きしの奥くに放り込んであった古いスマートフォン。 充器を探しし、コンセントに差し込む。 画面にリンゴのマークが浮かびがり、起するまでの数分が、永のようにえた。
パスコードを入力し、埃をかぶったフォルダの奥から、見守りGPSの専用アプリを探しす。 サーバーの契約は、に康平が無断で解約続きをとっていたはずだった。 額百円の通信料が無駄だからと、そう言って止められたのだ。
アプリのアイコンをタップする。 画面がく滅し、通信エラーのダイアログがるかとわれた。
だが。
『クラウドログを同期……』
細いプログレスバーが、ゆっくりとへとんでいく。
広告
解約されたのは「現の位置報追跡プラン」だけだった。 端末がかつて送受信した過のログデータは、端末固の識別番号(IMEI)に紐づけられたまま、アカウントのストレージに残り続けていたのだ。
私は息を止め、震える親指で「通信履歴・基局接続ログ」のタブをいた。
画面が切り替わる。 の。 あの、午分。 陽菜が公園にいた記録。 そして、午零分、通信が途絶したという最のエラー表示。
そこまでは、警察に見せられたものと同じだった。 だが、その先があった。
画面を、へスクロールする。 親指が、画面のガラスに張り付くようにい。
途絶したはずのログが、途切れていなかった。
【2020/09/14 02:14:03】通信確:Wi-Fiスポット経由 【2020/10/22 01:45:12】通信確:Wi-Fiスポット経由 【2021/04/08 03:02:55】通信確:Wi-Fiスポット経由 【2021/08/13 02:30:18】通信確:Wi-Fiスポット経由 …… 【2024/09/02 01:12:44】通信確:Wi-Fiスポット経由 【2026/09/15 23:41:09】通信確:Wi-Fiスポット経由
昨。 昨夜の、午分。
付と刻が、然と並んでいた。 ほぼ例なく、夜の午から。 そしてそのすべてが、注報や台が接していた夜と完全に致していた。
何かが、この端末を目覚めさせていたのだ。 が増し、位が定のラインに達したときだけ、回が通するような仕掛け。 あるいは、誰かが図に、この端末に力を供し続けていたのか。
私はさらに、接続先報の詳細をタップした。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
「死産」と告げた院長と20年目の出生記録
20年前、出産した娘を「死産でした」と告げられた私・佐藤しず子。しかし私は、麻酔の中で確かに聞いた産声を一度も忘れられなかった。 真実を確かめるため、私は清英産婦人科医院の清掃員として20年間働き続け、誰にも気づかれず院内の秘密を探ってきた。そんなある夜、若い看護師から「まだ間に合います。あなたの娘さん生きています」と書かれた紙を渡される。 やがて地下の保管庫へ忍び込んだ私は、自分の出産記録の隣に「佐藤女児――転送」と記された手帳を発見する。 さらにそこには複数の新生児と金銭の記録まで残されていた。娘を奪ったのは誰なのか。そして病院は20年間、何を隠してきたのか。見下され続けた“掃除婦”は、集めた証拠を手に院長・安藤剛と対峙する――。真相|修羅場2.1万字5 422 -
完結第23話
奪われた手柄と残された受領印
「開発担当の名前、成瀬君に変えておいたから」三ヶ月不眠不休で作った新システムの企画書から、友春の名前は消されていた。机の下で手を重ねる後輩と、冷たく婚約破棄を告げる霞。すべてを奪われ雨の夜に倒れた友春は、なぜか「あの会議の前日」に目を覚ます。 二度と他人の踏み台にはならない――友春は綿密な引き継ぎと受領印だけを残し、即日退職を叩きつけて姿を消した。 迎えた本番発表会、後輩が「見栄え」のために独断で削除した安全装置が、大観衆の前で最悪の暴走を始める。「頼む、戻って直してくれ!」すがる元上司に、友春が突きつけた言葉とは――。職場逆転|真相3.4万字5 202 -
完結第11話
妊婦を狙う老人と十一月の凶刃
「妊婦は立て!奇形が産まれるぞ!」 早朝の電車内、妊婦を怒鳴りつける老人に激昂し、詰め寄ってホームへ追い払った会社員の成瀬涼。だが座席の下に落ちていた老人の定期券の裏には、戦慄のメモが挟まれていた。 『十一月十七日 東都産婦人科 産ませるな 絶対に殺す』 日付は明後日。七年前に母を自死で失った涼は、その朝、病院の物陰で張り込む。午前九時十五分、現れた老人のポケットから閃いた一本の果物ナイフ。 電柱へ組み伏せた涼の背後から、駆け寄った妊婦の悲鳴が響く。 「お義父さん……!?」 老人が隠し続けた、血塗られた過去とは。怒り|真相1.7万字5 1088 -
完結第11話
運転手は何歳?教室に響く告発
「お前の父さんはバス運転手なのに、自分の歳も教えないのか」 算数のテストで一人だけ理不尽な赤バツをつけられ、教室で嘲笑された小三の息子。 問題は『あなたはバスの運転手です。運転手は何歳ですか』。息子が記した答えは、震える文字の「わかりません」だった。 去年の11月20日夜8時45分、豪雨の中で少年の命を救いながら、有力者の妻に理不尽な土下座を強いられた父の姿を、息子はずっと心に刻んでいたのだ。 迎えた授業参観。正装の制服姿で現れた父が教室で再生した一本のドラレコ映像が、仕組まれた嘘を暴き出す。 その時、涙を拭った息子が黒板の前で下した「決断」とは――。真相1.6万字5 1774 -
完結第14話
式1時間前の略奪と百八十万円
「ごめん。結婚やめる。私この人と一緒になるから」 挙式まであと1時間。控室で純白のドレスを着た婚約者の隣に立っていたのは、家具職人の俺・蒼介の元上司だった。 新居のために手渡した180万円を持ち逃げされ、住まいも仕事も奪われ絶望の淵に立たされた俺。だがその時、息を切らして控室へ飛び込んできたのは、婚約者の妹・こよりだった。 大量の不在着信を残していた彼女の手には、姉が3週間前に交わしていた「別の賃貸契約書」が握られていた。 激昂する姉の前で、こよりは俺の冷え切った手を強く握り締め、真っ直ぐに言い放つ。 「じゃあ私が先輩を幸せにしても文句ないよね」夫婦|真相2.1万字5 361 -
完結第41話
無一文の清掃員に届いた出前丼(
「出ていけとは言わないけど、月6万じゃ足りないのよ」 父が遺した家も土地も兄夫婦に奪われ、実家で「居候の厄介者」と罵られる清掃員のみさえ。9年間の壮絶なワンオペ介護も義姉に「全部私たちがやった」と親戚中に嘘を吹聴され、反論すら許されない。 だが、父の一周忌の座敷で義姉が得意げに嘘を重ねていたその時、玄関の戸が開き、この街の頂点に立つ巨大企業の社長が喪服姿で姿を現す。男の腕に抱かれていたのは、底に藍色の焼き印が刻まれた「12年前の古い出前丼」だった――。 息を呑む親戚一同の前で、男は畳の上に丼を置き、冷ややかに告げた。 「このご家族は、私と彼女に何一つ関係ありません」相続|真相6.2万字5 307 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 196 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3190 -
完結第25話
底辺受付嬢を見下す役員たちの誤算
父の会社は、最も信頼していた人間の裏切りによって無惨に食い物にされた。巨額の負債を背負い、絶望の中で病に倒れた父。私はその冷酷な真相を暴くため、ハーバード大の博士号を隠し、ただの「受付嬢」として敵の中枢である星空グループに潜入した。 誰からも見下され、理不尽な侮辱に耐え忍ぶこと3年。息を潜めて集めた証拠が示したのは、あまりにも残酷な真実だった。父を破産に追い込み、私から全てを奪った黒幕の正体は、父が家族のように慕っていた古参役員だったのだ。 「黒幕は役員会の中にいる」――私を守るため、父が命懸けで残してくれた最期のメッセージを知った時、胸の奥の悲しみは絶対的な冷酷さを持つ復讐の炎へと変わった。私の素性を知る新社長のハルトや、父の旧友たちと共に、私は決して逃れられない完璧な包囲網を密かに築き上げていく。 そして迎えた運命の役員会。全てを掌握したと信じ、私の前で勝ち誇る黒幕。だが彼はまだ知らない。無力な受付嬢だと思っていた私が、彼を社会的死の淵へと突き落とす致命的な罠を仕掛けていたことを。仮面を脱ぎ捨てた時、強欲な悪魔を地獄の底へと引きずり下ろす、容赦なき反撃が幕を開ける――。因果応報|真相|修羅場3.8万字5 2103