"亡き義母の口座を洗う女" 第7話
そのがかすかに震えている。
「ごめんなさい。夕飯の支度、すぐするわね」
私は声をし、伏し目で部をた。背に刺さる雅志のたい線をじながら、階段を駆けりる。
胸の内に隠した契約のが、カサリと音をてた。
自分の部に入り、鍵をかける。のから引っ張りした類をベッドのに広げ、震えるでスマートフォンをかざした。ページの文字文字、雅志のサイン、角印、そして義母の歪んだ指印まで、枚残らず鮮に写真に収める。
だが、庫のにあった「USBメモリ」のがかられなかった。
あのメモリには何が入っていたのか。
翌の曜。雅志が休勤でを空けた隙を狙い、私は再び斎へ潜入した。
慣れたつきで庫をける。黒いバインダーの奥から黒いUSBメモリを取りし、自分のノートパソコンに挿し込んだ。
画面に現れたのは、『KAZUKO_DATA_ARCHIVE』というフォルダだった。
クリックすると、そこには付ごとに分類された量の音声ファイルと、画ファイルが収められていた。
『20210315_音声サンプル01.mp3』 『20210402_歩癖撮.mp4』 『20210510_跡および癖指導.mp4』……
番古い音声再ボタンを押す。
『……おい、母さん。聞こえるか? 「坂本子です」って言ってみてくれ』
スピーカーから流れてきたのは、雅志の声だった。く、どこか苛ったような声。
『……さ……さかもと……か……ずこ……』
広告
続いて聞こえたのは、かすれ、途切れ途切れになった義母の声だった。5、認症がみ、自分の名すら怪しくなっていた頃の義母の声だ。
『ちがう! もっとハッキリ言えよ! 「私の座番号は〇〇です」って! ほら、このを見ながら読め!』
バン、とテーブルを叩く激しい音。
『……うう……こわい……ゆかりさん……ゆかりさんはどこ……?』
『由里の名をすな! いいから読めよ! これを読まないと飯抜きだぞ!』
音声ので、義母が怯えて泣き叫ぶ声と、雅志が激しく罵倒する音が響き渡っていた。
「……ッ……!」
私はを両で覆った。涙がボロボロと溢れしてきた。
私がパートにている、デイサービスから帰ってきた義母を、雅志はこうして脅し、声を録音し、個報を喋らせていたのだ。
私が「お義母さん、今はし嫌が悪かったのかな」と何もらずにお世話をしていた裏で、実の息子であるこの男は、母親を部に閉じ込め、声や癖を『データ』として抽していた。
さらに、画ファイルをく。
そこには、隠しカメラで撮された義母の姿があった。
廊を歩く義母の元。をし引きずる独特の歩。
首のろのきなホクロを、指でポリポリと擦る仕。
画面の端には、それをデジタルカメラでに撮し、角度を変えて何度も撮り直す雅志の姿が映っていた。
『よし、歩ピッチと首擦り作のフレーム抽完。
広告
再社へ送信』
画面のの雅志が、満そうに独りごちた。
ファイルリストの最に、テキストファイルがつ置かれていた。
タイトルは『契約更履歴.txt』。
ファイルをいた私は、そこにかれたに目を見いた。
『※対象者(坂本子):2023512』 『※通の保留続き完。座「き残り(ゾンビ)」フラグ維持へ移』 『※本件に関する止め料および名義使用料として、額18,420円の分配を始』 『※特記事項:妻(由里)には完全秘匿とすること。勘ぐられたは「介護トラウマによる精神失調」として処理し、必に応じて精神科への措置入院を検討されたし』
「……精神科への……入院……?」
全の毛穴が逆つような恐怖が、背筋を駆けがった。
雅志は最初から、私がこの事実に気づいたの「逃げ」まで用していたのだ。
私を狂扱いし、精神病院に叩き込んで隔することで、この者の名義ビジネスを永に続けようとしていた。
義母の介護で私から7の青と健康を奪い、義母がんだはその体すらに換え、邪魔になった妻は精神病患者として社会に抹殺する。
「……ゆるさない」
涙が乾き、界が恐ろしいほどクリアになっていくのが分かった。
ので、USBメモリを握りしめる。
この男はじゃない。血の通った悪魔だ。
そして私は、この悪魔と同じ根ので、笑って夕飯をしてやる「都のいい妻」
を、今この瞬にやめることを誓った。
広告
おすすめ作品
-
完結第28話
父の治療費70万円を拒んだ夫と、葬儀で開いた黒い封筒
父の治療費70万円を「俺には関係ない」と拒んだ夫・浩一。しかもその裏で愛人との旅行を予約していた彼は、美咲に離婚を突きつけながら、「離婚後も母さんの介護は続けろ」と要求する。5年間、美咲が義母のために支払った金額は2280万円を超えていた。 だが浩一たちは知らなかった。地方の医師だと思っていた美咲の父が、全国に介護・医療事業を展開する巨大企業の創業者で、株式63%を管理する信託の受益者が美咲だったことを。 さらに義弟・修二が美咲名義の委任状を偽造し、密かに口座を調べていた事実まで発覚。 そして1ヶ月後、父の葬儀に現れた浩一は、なおも「母さんの介護に戻れ」と命じる。美咲は親族全員の前で、父が遺した黒い封筒を静かに開いた――。夫婦|親不孝|修羅場4.2万字5 3 -
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 606 -
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 761 -
完結第24話
銀2両で売られた盲目の花嫁
不作の年、盲目の竜児は、弟の嫁取り資金を欲しがる継母によって、恐ろしいと噂される山の猟師・陸炎山へ半ば売られるように嫁がされる。 ところが待っていたのは暴力ではなく、彼女を娘のように迎える姑と、「安心して暮らせるまで絶対に触れない」と約束する不器用で優しい夫だった。 薬屋で働いた経験を持つ竜児は、失明していても薬草を見分ける知識を生かし、炎山の狩りと力を合わせて貧しい一家の暮らしを立て直していく。 やがて名医から「治療できる可能性がある」と告げられ、失っていた視力にも希望が差し始める。 しかし陸家が豊かになるほど、金を狙う継母や炎山の過去に関わる女まで現れ、竜児の新しい家族と幸せを脅かし始める――。嫁姑|親子関係3.5万字5 362 -
完結第11話
出世ゴルフの朝、沈黙した妻
「一生話しかけるな。口を開いたら即離婚だ」 そう怒鳴り散らし寝室に鍵をかけた夫。翌朝、出世が懸かった役員ゴルフの起床予定から2時間半が過ぎていた。真琴は夫の言いつけを忠実に守り、一切声を出さず「起きる時間だよー」とLINEを1通だけ送信する。 午前7時15分、泡を吹いてパニックで飛び出していく夫。だが、彼が置き忘れた鍵で書斎を開けた真琴は息を呑む。そこにあったのは、3400万円に及ぶ不正なリベート記録と、真琴の実印を悪用して設立されたペーパーカンパニーの書類だった。 夫の恐るべき企みを知った真琴は、冷たく微笑み受話器を取る。「もしもし、弁護士先生――」夫婦|真実1.7万字5 752 -
完結第27話
月5000円を貯めて泊まった旅館で、妻が「お嬢様」と呼ばれた
手取り23万円の配送ドライバー・かずやは、毎月5000円を5年間貯め、妻・彩佳と10歳の娘・ゆいを初めての家族旅行へ連れていく。ところが山奥の旅館へ着いた瞬間、出迎えた老紳士は彩佳に深々と頭を下げ、「お嬢様、お帰りなさいませ」と告げた。 実は彩佳は、創業150年を超える老舗旅館の一人娘だった。 かつて父の勧めで結婚した夫は旅館の信用と財産を利用しようとし、離婚して幼いゆいを連れ戻った彩佳に対しても、父は娘の苦しみより「旅館の評判」を優先した。 それ以来、実家を離れ質素に生きてきた彼女は、5年越しの旅行を機にようやく過去と向き合う決意をする。突然明かされた妻の素性に戸惑うかずやだったが、「俺が家族になりたかったのは彩佳とゆいだ」と伝える。 そしてこの旅は、長く閉ざされていた親子3代の関係を大きく動かしていく――。夫婦|第二の人生|修羅場4.1万字5 1210 -
完結第14話
式1時間前の略奪と百八十万円
「ごめん。結婚やめる。私この人と一緒になるから」 挙式まであと1時間。控室で純白のドレスを着た婚約者の隣に立っていたのは、家具職人の俺・蒼介の元上司だった。 新居のために手渡した180万円を持ち逃げされ、住まいも仕事も奪われ絶望の淵に立たされた俺。だがその時、息を切らして控室へ飛び込んできたのは、婚約者の妹・こよりだった。 大量の不在着信を残していた彼女の手には、姉が3週間前に交わしていた「別の賃貸契約書」が握られていた。 激昂する姉の前で、こよりは俺の冷え切った手を強く握り締め、真っ直ぐに言い放つ。 「じゃあ私が先輩を幸せにしても文句ないよね」夫婦|真相2.1万字5 361 -
完結第14話
夫の遺品から出た三十年目の嘘
四十九日を終えた亡き夫の書斎。引き出しの隠し底から現れたのは、銀座の老舗宝飾店の高級ネックレスだった。添えられたカードには夫の筆跡で「麻美へ 誕生日おめでとう」の文字。結婚三十二年、私には花一輪すら贈らなかった無口な夫が、見知らぬ女へ遺した甘い贈り物。裏切りの証拠を握りしめ、私は封筒に記された住所の呼び鈴を鳴らした。現れた四十歳の女性にネックレスを突きつけ、夫の名を告げた瞬間――女は息を呑み、大粒の涙をこぼして言った。 「奥さん……ご主人から、何も聞いていないんですか?」夫婦|不倫2.1万字5 1285 -
完結第19話
私のカードを盗んだ義母が、夫の隠し口座で120万円使った
姑・幸子が私のバッグからカードを盗んだ――。3年間、都心のマンションを買うために食費まで切り詰めてきた絵里は、その瞬間をホームカメラで確認していた。 だが直後、夫・博之の書斎から1200万円もの秘密口座が発覚する。毎月「金がない」と言って生活費を5万円しか渡さなかった夫が、妻に隠れて巨額の財産を抱えていたのだ。 絵里は姑の盗癖を逆手に取り、彼女が再び持ち出すカードに夫の秘密を仕込む。何も知らない幸子は沖縄の免税店で85万円のバッグや高級品を買い込み、合計120万円を一括決済。 その通知を見た博之は凍りつく。妻を節約生活に縛りながら隠してきた財産と、母親の身勝手な浪費――。2人が互いを責め始めた時、絵里は静かに次の証拠を取り出す――。嫁姑2.9万字5 375