"全員が揃えた同じ嘘" 第3話
母は湯呑みを持ちげ、苦笑いを浮かべた。
「あなたが帰ってきた、私、聞いたのよ。『先、今どうしたの?』って。そしたらあなた、まるで械みたいに『先は午に帰りました』って言ったの。目もわせないでね。で所のさんのお母さんに聞いたら、輔君もまったく同じことを言ったって。あの子たち、みんなで示しわせて先の悪でも隠してるんじゃないかって、PTAでちょっとした騒ぎになったのよ」
「……それで、どうなったの?」
「どうにもならないわよ。翌週には代理の先が来たし、警察汰になったわけでもないんだから。子どもなんて、誰かが言いした嘘を面がって真似するき物でしょ。あなたたちも、先が変になっていくのを見て、気悪がってを揃えただけじゃないの」
母の言葉は、世般のがすであろう、もっとも理で、もっとも無関な結論そのものだった。 は、自分たちの平穏な常を壊さない範囲でしか、物事を解釈しない。
「もうあの先のことはいいじゃない。どうせどこか別ので、ひっそり暮らしてるか、結婚でもして名を変えてるわよ」
母はそう言って、再びリンゴの皮を剥き始めた。 私はポケットののいの触を確かめながら、それ以何も言わずにぬるくなったお茶をみ干した。
広告
子どもの悪戯で、あんな嘘がつけるはずがない。 あのの夕方、私たちは悪戯などという軽い気持ちではなかった。 あの教に漂っていたのは、もっとたくて、くて、呼吸さえ詰まるような『絶対な恐怖』だった。
階の自に戻った私は、スマートフォンの画面を点灯させた。 連絡先のアドレス帳をく。 そこには、の成式の同窓会で交換した、学代の同級たちの連絡先がいくつか残されていた。
私はメッセージアプリのアイコンをタップし、組の学級委員だった綾の名を探した。
綾は当から成績優秀で、気がく、教師からも絶な信頼を置かれていた『優等』だった。ルールを破る者を決して許さず、クラスの誰よりもびていた。 現は都内の融関で働いているとの噂で聞いていた。
トーク画面をく。回のやり取りは、昨の正に交わした形式な「あけましておめでとう」のスタンプだけだった。
私はキーボードを叩いた。
『久しぶり。突然ごめん。実の片付けをしていて、学の旧舎が来週解体されるってったんだ』
指が震える。 息を吸い込み、もっとも踏み込んではいけない文を打ち込んだ。
『押し入れから、当のものがてきた。……綾、覚えてる? 倉先が辞めたのこと。
広告
どうして僕たちは、あの、親に「先は午に帰りました」って言ったんだろう』
送信ボタンを押した。 画面に『既読』の文字がつくまで、はかからなかった。ほんの数秒だった。 しかし、そこから返信の吹きしが現れるまでに、異様なほどの空があった。
『入力……』の表示がては消え、またては消える。 画面の向こうで、綾が激しく揺し、打つべき言葉を選びあぐねているのが痛いほど伝わってきた。
分、ようやく届いたメッセージは、私の予を遥かに超えて徹で、そして切迫していた。
『どうして今更、そんなことを言いすの?』
画面を見つめる私の指に、じわりと汗が滲む。
『旧舎がなくなるからかな。あののこと、ずっと引っかかってたんだ。みんながを揃えて同じ嘘をついた理由が』
私がそう返すと、今度は髪を入れずに返信がんできた。
『嘘じゃない』
文字だけの画面なのに、綾の張り詰めた声が鼓膜に直接響いてくるようだった。
『先はに帰ったの。それ以の事実はない。律、お願いだから余計なことをしないで』
『でも、僕の元にがあるんだ。が転する直に、僕の箱に入れただ。「先はのとき、まだにいました」っていてある』
そのメッセージを送信した瞬だった。 スマートフォンの画面が激しく震え、着信画面に切り替わった。
相は綾だった。
私は通話ボタンをスワイプし、スピーカーをに当てた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 0 -
完結第22話
側溝の底のGPS
六年前に娘を事故で亡くし、近所から「不注意な母親」と後ろ指を指されながら暮らしてきた私。ある朝、向かいの名士宅との境界にある側溝の泥から、泥まみれの「娘の見守りGPS」を掘り出した。壊れた端末のログを開くと、六年間、豪雨の深夜になるたび、向かいの家のWi-Fiと通信を繰り返していた。問い詰めた夫が無言で開けた物置には、壁一面に貼られた隣家の行動記録と、五年間密かに改造されていた配管図面があった。ミステリー|因果応報|裡切られた|真相3.3万字5 0 -
完結第13話
八百万円の泥棒とされた妹、九年目の審判
九年前に八百万円を持ち逃げして失踪したとされる妹。その金庫が、元婚約者の実家の庭、厚さ二十センチのコンクリート直下から未開封のまま掘り出された。 「腹いせに捨てたのよ」と喚く元義母だが、金庫の底にあった妹の携帯には、未送信の悲痛な下書きが残されていた。 泥棒の家族として親を失い、蔑まれて生きてきた姉・綾乃は、完璧に塗り固められた「被害者一家」の嘘と対峙することを決意する。真実|裡の顔|行方不明|金銭問題|修羅場2.0万字5 0 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 0 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 0 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 0