"千五百円の仕送りと暴かれた嘘" 第1話
登美がこのような理尽な事態に直面したとき、真っ先にをよぎるのは、幼期から刷り込まれてきた自のいちであった。 登美の父は、県で国語を教えていた教師だった。背筋を常に定規のように伸ばし、眉にい皺を刻んだ父は、とにかく厳格で頑固なだった。曲がったことや軽な振るいを何よりも嫌い、「礼儀」「規律」「誠実」という言葉をがの訓として掲げていた。 母は、そんな父の歩ろを歩くような、絵に描いたような昔気質の女性だった。父が帰宅すれば玄関につ指をついて迎え、父が事を終えるまで自分は箸をつけず、ながら父の職務と活を支え続けた。父の言うことに対して、母が異を唱えたり逆らったりする姿を、登美は幼い頃から度たりとも見たことがなかった。
当然のことながら、娘である登美への教育も極めて厳格を極めた。 今振り返れば、それはまさに昭の匂いが濃く残る、息の詰まるような教育方針であった。限は夕方。テレビを見るはに分までと制限され、流の音楽や漫画は「操を乱す」という理由で切買い与えられなかった。箸のげろしから言葉遣い、歩き方に至るまで、父の鋭い線が常に登美の挙を監していた。 々の活に息苦しさと窮屈さをじる瞬は数え切れないほどあった。
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友が楽しそうに放課の買いいやのないおしゃべりに興じているのを横目に、登美はに帰宅しなければならなかった。しかし、登美は父を憎むことはできなかった。父の厳しさは酷さから来るものではなく、この確かな世ので娘がのとして真っ当にきていけるようにという、器用なまでの真剣なから来ているのだと、子供に理解していたからである。 の反抗期こそあれど、登美はグレることもなく、両親の教えを忠実に守りながら、すくすくと素直に育っていった。
やがて学を卒業した登美は、父と同じ教育の世界へとを踏み入れた。公学の英語教師としての採用だった。 厳格な父と同じ教職というを選びはしたが、登美が胸に抱いていた教育方針は、父のそれとはきく異なっていた。 「言葉を通じて、徒たちに広い世界を見せてあげたい。古い慣習やさな枠組みに囚われず、世界で自由に、のびのびと活躍できる翼を授けたい」 教で徒たちに英語を教える登美の姿は活気に満ちていた。徒たちの発言を否定せず、個性を伸ばし、異国の文化や価値観の豊かさを伝えることに、登美はいきがいをじていた。
充実した教師活を送るうちに、登美は代を迎えていた。
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周囲の同僚たちが次々とを固めていく、登美には特定の相がいなかった。それまでまったく恋をしてこなかったわけではなかったが、親譲りの真面目さと潔癖さが災いし、しでも相の誠実な面や軽な面を見てしまうと、どうしてもが引いてしまい、い関係へと発展することができなかったのである。
そんなある、実の父から枚の見い写真を渡された。 「相は申し分のない男だ。度、会ってみなさい」 畳のに正座した父の静かな、だが威厳のある声に、母も隣で静かに頷いていた。 現代において見いという古い慣習に乗ることに、登美は正直なところあまり気がまなかった。しかし、これまで自分を育ててくれた両親の顔をてるためにも、度だけ会ってみようとホテルのでわれた見いの席に臨んだ。
そこに現れたのが、直太であった。 直太は登美よりも回りの代半ばで、誰もがる国学を卒業、名企業で順調に世を歩むエリート会社員だった。仕ての良いスーツを皺つなく着こなし、背筋を伸ばして静かに挨拶をするその佇まいは、いかにも父が気に入りそうな「真面目で堅実な男」そのものに見えた。 席での直太は、数は決してくないものの、登美の話に落ち着いた相槌を打ち、自の仕事に対する責任を淡々と語った。
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