"千五百円の仕送りと暴かれた嘘" 第6話
登美はその広い背を追いかけながら、を決してをいた。 「でも……そんなに張費を自腹でしていたら、がの計は持ちしばかりになってしまうわ。さすがにこのままじゃ貯を切り崩すことになってしまうし……私も、パートにて働こうかとうの。しでも計のしにしたいのよ」
登美は、直太が即座に激して拒絶するものと構えていた。かつて登美に教職を辞めさせ、「女がで働くなど言語断」と言い放った男である。パートなどと言いせば、どんな罵倒がんでくるか分からなかった。 だが、直太から返ってきた反応は、登美の予を完全に裏切るものだった。
「……そうしてくれ」 直太はを止め、振り返りもせずに言った。 「飯の支度を急げ。呂のにビールをむからな」 そう言い残すと、直太は台所の蔵庫へ向かってスタスタと歩いてってしまったのである。
リビングに残された登美は、呆然とち尽くした。 あの極端な亭主関で、妻をに縛り付けることに執着していた直太が、これほどあっさりと妻の就労を認めるなど、到底信じられなかった。 (それほどまでに、がの計は切迫しているということ……? それとも、会社の業績が本当にそこまで悪化しているのかしら……) 夫の変わりに抹の違を覚えつつも、登美は翌から速求誌をめくり、所の型スーパーのレジ打ちのパートに応募した。
広告
採用は即座に決まり、登美は何ぶりかに自分の名札を胸につけ、制のエプロンをに纏って働くことになった。
のち仕事と、絶えなく流れてくる商品をスキャンする作業は、像以に体力を消耗した。かつて教壇で徒たちと向きっていた頃とは全く異なる疲労に、夜になるとが鉛のようにくなった。 それでも、自分が働くことでしでも計を支え、リリカの将来のための蓄えを守ることができるのならと、登美は音を吐かずに懸命にシフトに入り続けたのである。
登美がパートを始めて数ヶが過ぎた頃、がの運命をきく揺るがす来事が起きた。 夕の片付けを終え、族がリビングに揃っていた休の夜、リリカがを決した面持ちでテーブルの央に枚のパンフレットを置いたのである。
「お父さん、お母さん。私……のうちに、アメリカへ留学したいとってるの」
張り詰めた声だった。リリカの両は膝のでく握りしめられていた。 「お母さんが、昔からずっと教えてくれたでしょ? 英語を学ぶことの本当のや、世界にて広い野を持つことの切さを……私、自分の目で世界を見てみたいの。もっときた英語を学んで、将来は世界で通用するスキルをにつけたいんだ」
広告
登美の臓がきくねがった。 かつて自分が教壇で徒たちに伝えたかったこと、そしてが子に託したかったを、リリカはしっかりとので育ててくれていたのだ。元英語教師として、娘のこの申しは涙がるほど誇らしく、嬉しかった。というな期に異文化にび込む経験は、何物にも代えがたいの財産になるはずだった。かせてやりたい。母親として、全力で背を押してやりたい。
だが――現実はあまりに厳しかった。 登美の脳裏に、スーパーのレジ打ちで得られる僅かなと、直太が「自腹でしている」という張費の赤字が即座に浮かんだ。般庭にとって、アメリカへの留学に必な数百万円という費用を捻するのは至難の業だ。 ましてや、あの直太である。「女が留学など言語断」「の無駄だ」とされ、机を叩き割らんばかりの勢いで猛反対されるに決まっている。登美は娘のがこので無残に打ち砕かれる瞬を像し、息を詰めて夫の顔を窺った。
直太は、テーブルのの留学案内パンフレットにゆっくりと線を落とした。 数秒の苦しい沈黙が流れる。直太の眉がわずかにき、元で湯呑みを弄ぶ音がカツンと響いた。 そして、直太のから漏れたのは、いもよらない言葉だった。
「……いいんじゃないか」
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
義母ATM、全財産を失う
妻を臨月の過労で倒れさせながら、平然と「嫁の勤め」と言い放つ義母。夫は怒りを押し殺し、法事の席で母の隠し財産とリフォーム費用の着服を暴く準備を進めていた。しかし、母が仕掛けた会社への嫌がらせの裏には、亡き義父が隠し通した衝撃の過去が眠っていた。真実が明かされた時、毒親の描いた完璧な老後計画は完全に崩れ去る。相続|真実|絶縁|金銭問題2.2万字5 0 -
完結第13話
八百万円の泥棒とされた妹、九年目の審判
九年前に八百万円を持ち逃げして失踪したとされる妹。その金庫が、元婚約者の実家の庭、厚さ二十センチのコンクリート直下から未開封のまま掘り出された。 「腹いせに捨てたのよ」と喚く元義母だが、金庫の底にあった妹の携帯には、未送信の悲痛な下書きが残されていた。 泥棒の家族として親を失い、蔑まれて生きてきた姉・綾乃は、完璧に塗り固められた「被害者一家」の嘘と対峙することを決意する。真実|裡の顔|行方不明|金銭問題|修羅場2.0万字5 0 -
完結第11話
五十万円の便利妻
義父の四十九日を終えた日曜の朝、商社の係長へ昇進した夫から緑の離婚届を突きつけられた。「腰を壊したお前は出世の邪魔。手切れ金50万で出て行け」。4年間、排泄の世話まで一人で背負い続けた私を、夫は「無償の介護要員」として切り捨てたのだ。愛人とタワマンへ移る気満々の夫。だが、冷え切った私の手元には、四年間の一切を記した【介護日誌】と、義母から託された反撃の鍵が握られていた。因果応報|裡切られた|介護|金銭問題|不倫1.7万字5 0 -
完結第18話
退職金と三百万円の借金
三十二年間勤めた会社を定年退職する日、人事に呼び止められた私は、一枚の紙を突き出された。それは私の名義と私印で作成された、三百万円の福祉貸付金の借用証書だった。返済が済むまで退職金は支払えないと告げられるが、私に借金の覚えなど一切ない。震える手で書類の日付を確認すると、そこには十一年前、夫が急逝して告別式を行っていた日の数字が並んでいた。私は退職の合意書へのサインを拒み、人事の机に手をついた。怒り|退職金|金銭問題|修羅場2.6万字5 0 -
完結第19話
レジ打ちの妻は恥ずかしい
結婚式まであと一か月。婚約者から突然、私の名前が印刷された『退職届』を差し出された。「うちの嫁がスーパーでレジ打ちなんて困る」と義母と決めたという。冗談だと笑おうとした私に、彼は真顔で「取引先に見られたら恥ずかしい」と言い放った。この三年間、一生懸命働く私の姿が好きだと言ってくれたのは嘘だったのかと問うと、彼は静かに言った。「恋愛と結婚は、違うんだよ」。私は差し出されたペンを机に押し返した。裡切られた|怒り|金銭問題|修羅場2.9万字5 0 -
完結第17話
何番まで落ちたら離婚するの
三年連続で学年一位を取り続ける十二歳の息子。深夜まで勉強に付き添う私と、追い詰めるなと制する夫は、外食先でも教育方針を巡って激しく口論していた。沈黙していた息子は突然、「僕が何番まで落ちたら二人は離婚するの」と冷たく言い放ち、鞄から直近三回分のテスト用紙を取り出した。そこに並んでいたのは、最難関の応用問題だけが解かれ、一番簡単な基礎計算だけを全て意図的に間違えた、信じがたい異様な答案だった。夫婦|真実|親子関係|修羅場2.6万字5 0 -
完結第23話
父の逝った夜の車
父が亡くなって十八年、独身の伯父は私達三兄妹を支え続け、兄の就職も姉の結婚資金も工面してくれた。家族全員が恩人と慕う中、末っ子の私だけが幼い頃から伯父と二人きりを拒み、性格のせいだと呆れられていた。二十八歳のある日、会食の席で伯父が私の椅子を引いてくれた瞬間、鍵のかかっていた記憶が甦る。十八年前の嵐の深夜、泥まみれの母が一度だけ家に戻った時、街灯もない門前の暗闇で消灯したまま待っていたのは、伯父の車だった。兄弟姉妹|真実|親子関係|修羅場3.4万字5 0 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 0 -
完結第13話
二十七年目の嘘
58歳で急死した夫の遺品を整理していた美智子は、引き出しの奥から27年前の「採用内定通知書」を見つける。当時不合格だと思い込んでいた東京の出版社からのものだった。封筒の裏には夫の筆跡で「辞退連絡済」。夫はなぜ私の人生を勝手に奪ったのか。さらに、夫の出世作となった伝説の住宅企画が、かつて自分が書いた企画ノートそのものだったことを知る。奪われた名前と人生を取り戻すため、妻が下した決断とは。人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係2.0万字5 0 -
完結第17話
娘の十七万円を愛人に貢いだ夫の末路
海外留学中の娘から届いた手紙には、「毎月1500円の仕送りでも頑張ってるよ」と書かれていた。私は毎月17万円を送っているはずなのに――。不審に思った私・富が調べると、残りの16万8500円は夫・直太の隠し口座へ流れていた。長年、私と娘には「無駄遣いは悪だ」と我慢を強い、教師の仕事まで辞めさせた亭主関白の夫。その裏で彼は、出張と偽って若い女性と旅行し、娘の留学費まで貢いでいたのだ。異国で卵ともやしに耐えていた娘を思うと、悲しみは凍るような怒りへ変わった。もう黙って従う妻ではいない。私は銀行の記録を確認し、探偵に素行調査を依頼して証拠を集める。そして休日、偉そうに「一家の主」を語る夫へ静かに問いかけた。「例の彼女には、一体いくら貢いだの?」――その一言から、偽りの亭主関白を引きずり下ろす私の反撃が始まる。親子関係2.5万字5 0