"千五百円の仕送りと暴かれた嘘" 第10話
登美はそのまま駅のビルに入っている総探偵事務所のドアを叩いた。 隠し座の細のコピー、直太の偽りの張程表、そして融関のロゴ入りボールペンの報をすべて提示し、最ランクの辺調査を依頼した。 「どれだけ費用がかかっても構いません。直太のすべての悪の証拠を、言い逃れのできない形で揃えてください」 登美の凍てつくような差しに、調査員はく頷いた。
それからのヶ、登美は完璧な「従順な妻」を演じ続けた。 毎朝、直太のスーツにブラシをかけ、栄養バランスの取れた朝を並べ、張と称してかける夫を笑顔で見送った。スーパーのパートもも休まずに勤し、得られた料を密かに自分の個座へと避難させた。 胸を掻き裂くようなりと憎悪を、たい仮面のに押し殺しながら、登美は虎眈々とそのを待った。
そして、決戦のはやってきた。 澄み渡るようなれの休。午を回ったリビングには、テレビからワイドショーの騒がしい音声が響き渡っていた。 直太はスウェット姿でリビングの革張りソファのに寝転がり、のろで腕を組んで、画面を眺めていた。ワイドショーではちょうど、「昨今の庭における父親の威厳の失墜」や「亭主関は過の遺物か」
広告
といったテーマで、コメンテーターたちが議論を交わしていた。
「ふん、まったく……」 直太はテレビに向かって、偉そうにを鳴らした。 「体、男がもっとしっかりせんからこうなるんだ。頃の男は女に媚びを売りすぎなんだよ。極まりない。女なんてものはな、男の歩ろを黙ってついてくればいいんだ。の主が絶対な権力を持って庭を統率するからこそ、というものは泰なんだよ」
登美は台所のカウンターで布巾を絞りながら、その醜悪な横顔をややかに観察していた。 この男のから吐きされる「亭主関」という言葉の、なんと浅ましく、滑稽なことか。 登美の父もまた、昭の頑固親父であり、絵に描いたような亭主関だった。しかし、父の厳格さの根底には、常に族を守り、自らを律するという潔な徳があった。父は嘘を何よりも嫌い、族に自由をさせないために自らの欲望を厳しく律し、誰よりも誠実にきていた。 だが、目のでソファに寝そべり、偉そうな能きを垂れているこの男はどうか。 に厳しく、自分にはどこまでも甘く。娘の命綱を奪って若い女に貢ぎ、嘘を塗り固めて悦に入っている。同じ「亭主関」の板を掲げることすら、父に対する冒涜だった。
登美はエプロンのポケットにを入れ、あらかじめ起させておいたスマートフォンの録音アプリの作を確認した。
広告
画面のインジケーターが、周囲の音を拾って細かく波打っている。 準備は、完全にっていた。
登美はゆっくりとカウンターをれ、ソファのに歩みた。 「ええ、そうね。確かに女に媚びを売っても仕方ないわよね」 登美の穏やかすぎる声音に、直太はソファから首だけを捻って登美を見げた。 「男は真面目で、正直で、曲がったことは嫌い。の黒柱として、嘘偽りのない背を見せる……私の父を見ていても、それが本当の亭主関だとっていたわ。そういう男こそが、尊敬されるべきの主よね」 「当たりだ」 直太はがを得たりとばかりに頷き、ふんぞり返った。 「そんなことは基本の基本だ。頃の男がだから、女に舐められるんだよ。俺はそこらの象無象とは違って、派にこのを守ってきた。だからこそ、リリカにも誰より厳しく躾けてきたつもりだ。おのような甘っちょろい教育論とは違ってな」
どこまでも娘を貶め、自己を正当化するその言葉を聞いた瞬、登美の唇の端が、すっとややかに吊りがった。 (ええ、分に喋りなさい。それが、あなたの最の演説になるのだから)
「そうね。私はリリカに甘かったかもしれないわね」 登美は歩、ソファへとづいた。 「でも……そういうあなたは、例の彼女にどれだけ甘くして、今は体いくら貢いで媚びを売ったのかしら?」
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
義母ATM、全財産を失う
妻を臨月の過労で倒れさせながら、平然と「嫁の勤め」と言い放つ義母。夫は怒りを押し殺し、法事の席で母の隠し財産とリフォーム費用の着服を暴く準備を進めていた。しかし、母が仕掛けた会社への嫌がらせの裏には、亡き義父が隠し通した衝撃の過去が眠っていた。真実が明かされた時、毒親の描いた完璧な老後計画は完全に崩れ去る。相続|真実|絶縁|金銭問題2.2万字5 0 -
完結第13話
八百万円の泥棒とされた妹、九年目の審判
九年前に八百万円を持ち逃げして失踪したとされる妹。その金庫が、元婚約者の実家の庭、厚さ二十センチのコンクリート直下から未開封のまま掘り出された。 「腹いせに捨てたのよ」と喚く元義母だが、金庫の底にあった妹の携帯には、未送信の悲痛な下書きが残されていた。 泥棒の家族として親を失い、蔑まれて生きてきた姉・綾乃は、完璧に塗り固められた「被害者一家」の嘘と対峙することを決意する。真実|裡の顔|行方不明|金銭問題|修羅場2.0万字5 0 -
完結第11話
五十万円の便利妻
義父の四十九日を終えた日曜の朝、商社の係長へ昇進した夫から緑の離婚届を突きつけられた。「腰を壊したお前は出世の邪魔。手切れ金50万で出て行け」。4年間、排泄の世話まで一人で背負い続けた私を、夫は「無償の介護要員」として切り捨てたのだ。愛人とタワマンへ移る気満々の夫。だが、冷え切った私の手元には、四年間の一切を記した【介護日誌】と、義母から託された反撃の鍵が握られていた。因果応報|裡切られた|介護|金銭問題|不倫1.7万字5 0 -
完結第18話
退職金と三百万円の借金
三十二年間勤めた会社を定年退職する日、人事に呼び止められた私は、一枚の紙を突き出された。それは私の名義と私印で作成された、三百万円の福祉貸付金の借用証書だった。返済が済むまで退職金は支払えないと告げられるが、私に借金の覚えなど一切ない。震える手で書類の日付を確認すると、そこには十一年前、夫が急逝して告別式を行っていた日の数字が並んでいた。私は退職の合意書へのサインを拒み、人事の机に手をついた。怒り|退職金|金銭問題|修羅場2.6万字5 0 -
完結第19話
レジ打ちの妻は恥ずかしい
結婚式まであと一か月。婚約者から突然、私の名前が印刷された『退職届』を差し出された。「うちの嫁がスーパーでレジ打ちなんて困る」と義母と決めたという。冗談だと笑おうとした私に、彼は真顔で「取引先に見られたら恥ずかしい」と言い放った。この三年間、一生懸命働く私の姿が好きだと言ってくれたのは嘘だったのかと問うと、彼は静かに言った。「恋愛と結婚は、違うんだよ」。私は差し出されたペンを机に押し返した。裡切られた|怒り|金銭問題|修羅場2.9万字5 0 -
完結第17話
何番まで落ちたら離婚するの
三年連続で学年一位を取り続ける十二歳の息子。深夜まで勉強に付き添う私と、追い詰めるなと制する夫は、外食先でも教育方針を巡って激しく口論していた。沈黙していた息子は突然、「僕が何番まで落ちたら二人は離婚するの」と冷たく言い放ち、鞄から直近三回分のテスト用紙を取り出した。そこに並んでいたのは、最難関の応用問題だけが解かれ、一番簡単な基礎計算だけを全て意図的に間違えた、信じがたい異様な答案だった。夫婦|真実|親子関係|修羅場2.6万字5 0 -
完結第23話
父の逝った夜の車
父が亡くなって十八年、独身の伯父は私達三兄妹を支え続け、兄の就職も姉の結婚資金も工面してくれた。家族全員が恩人と慕う中、末っ子の私だけが幼い頃から伯父と二人きりを拒み、性格のせいだと呆れられていた。二十八歳のある日、会食の席で伯父が私の椅子を引いてくれた瞬間、鍵のかかっていた記憶が甦る。十八年前の嵐の深夜、泥まみれの母が一度だけ家に戻った時、街灯もない門前の暗闇で消灯したまま待っていたのは、伯父の車だった。兄弟姉妹|真実|親子関係|修羅場3.4万字5 0 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 0 -
完結第13話
二十七年目の嘘
58歳で急死した夫の遺品を整理していた美智子は、引き出しの奥から27年前の「採用内定通知書」を見つける。当時不合格だと思い込んでいた東京の出版社からのものだった。封筒の裏には夫の筆跡で「辞退連絡済」。夫はなぜ私の人生を勝手に奪ったのか。さらに、夫の出世作となった伝説の住宅企画が、かつて自分が書いた企画ノートそのものだったことを知る。奪われた名前と人生を取り戻すため、妻が下した決断とは。人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係2.0万字5 0 -
完結第17話
娘の十七万円を愛人に貢いだ夫の末路
海外留学中の娘から届いた手紙には、「毎月1500円の仕送りでも頑張ってるよ」と書かれていた。私は毎月17万円を送っているはずなのに――。不審に思った私・富が調べると、残りの16万8500円は夫・直太の隠し口座へ流れていた。長年、私と娘には「無駄遣いは悪だ」と我慢を強い、教師の仕事まで辞めさせた亭主関白の夫。その裏で彼は、出張と偽って若い女性と旅行し、娘の留学費まで貢いでいたのだ。異国で卵ともやしに耐えていた娘を思うと、悲しみは凍るような怒りへ変わった。もう黙って従う妻ではいない。私は銀行の記録を確認し、探偵に素行調査を依頼して証拠を集める。そして休日、偉そうに「一家の主」を語る夫へ静かに問いかけた。「例の彼女には、一体いくら貢いだの?」――その一言から、偽りの亭主関白を引きずり下ろす私の反撃が始まる。親子関係2.5万字5 0