"二十七年目の嘘" 第4話
叫ぶように言うと、真由は肩で息をした。
居にい沈黙が落ちた。
真由は自分の言った言葉の鋭さに気づいたのか、し線を泳がせた。
けれど、謝りはしなかった。
「……私、もうくね。輔さんが迎えに来るから」
真由はそう言って、逃げるように斎をてった。
バタンと玄関のドアが閉まる音が、に響いた。
美智子は、散らばった類のにち尽くした。
娘の言った言葉が、ので何度も反響した。
『結局お母さん自がそれを選んだからでしょ』
違わない、と美智子はった。
誰も首に縄をつけてに縛り付けたわけではない。
話が来なかったと聞かされた、なぜ会社に確認しなかったのか。
夫に「にいてほしい」と言われた、なぜ自分の志を貫かなかったのか。
傷つくのが怖くて、全な所に逃げ込んだのは、自分自だったのではないか。
けれど、もし。
あの。
也が「採用の話があったよ」と伝えてくれていたら。
私のは、どうなっていただろうか。
美智子は机のに置かれたパンフレットを見つめた。
制作スタッフの欄の、夫の名。
らなければならなかった。
也が社内でこの企画をどう説していたのか。
本当に、妻のアイデアだと言わずに通したのか。
美智子は也の帳をめくり、ある物の連絡先を探し始めた。
広告
藤本隆。
也の同期で、数に期退職したと聞いていた男だった。
翌の午、美智子は梅田の古い喫茶にいた。
テーブルを挟んで座っているのは、藤本隆だった。
也と同じ歳のはずだが、髪がく、背がし丸まっている。
藤本は、美智子が差ししたのパンフレットを見て、懐かしそうに目を細めた。
「ああ……これか。『暮らしたが、になる』。懐かしいな。也の世作だよ」
「藤本さん、この企画のこと、覚えていらっしゃいますか」
美智子の声は静かだったが、藤本は何かをじ取ったのか、珈琲カップをソーサーに戻した。
「覚えているよ。当、うちはハウスメーカーに押されていてね。どこもピカピカの最設備と耐震性ばかりアピールしていた代だ。そこに也が、活の汚れや傷を肯定するような企画を持ってきた。役員会でも絶賛されてね。うちの会社のブランドイメージをガラリと変えたんだ」
「主は……この企画を、どうやっていついたと言っていましたか?」
藤本の目が、わずかに揺れた。
美智子から線をそらし、窓のの通りをき交う々に向けた。
「……奥さん、どうして今さらそんなことを聞くんだい?」
「引きしを理していたら、これの元になったような私の古いノートがてきたんです」
藤本は息を呑んだ。
広告
そして、苦いものを噛み潰したような顔をした。
「やっぱり、そうだったのか」
「ごだったんですか?」
美智子の臓がねがった。
藤本はしばらく躊躇していたが、観したようにいをいた。
「企画が通って、パンフレットの制作が始まったころだ。也とでみにってね。俺が聞いたんだよ。『お、普段あんな緒なこと考えるタイプじゃないだろ。どっからあんなアイデア拾ってきたんだ』って」
「主は何と?」
「最初は笑って誤魔化してたよ。でも、酔っ払った拍子にポロッと言ったんだ。『嫁さんの昔のノートを見てたら、転がってたんだ』って」
美智子は指先をく握りしめた。
テーブルので、膝がかすかに震えていた。
「奥さんのアイデアだって、っていたんですね」
「……ああ。でも、也はこう言ったんだ。『美智子は世らずだから、この企画の価値が分かってない。に埋もれさせておくくらいなら、俺が会社で形にしてやった方がいいだろ』って」
「形にしてやった……」
「也を庇うわけじゃないがね、奥さん」
藤本は慌ててを振った。
「あいつ、悪気があって言ったじゃなかったんだよ。むしろ、誇らしげですらあった。『あいつの考えたことは、俺が番よく分かってる』って。ただ……」
藤本は言葉を濁した。
「ただ?」
「社内では、切その話はさなかった。役員たちには『休、自分ので子供たちと過ごしているうちにいついた』と説していたよ。
俺も、わざわざ波てるようなことは言えなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 0 -
完結第17話
何番まで落ちたら離婚するの
三年連続で学年一位を取り続ける十二歳の息子。深夜まで勉強に付き添う私と、追い詰めるなと制する夫は、外食先でも教育方針を巡って激しく口論していた。沈黙していた息子は突然、「僕が何番まで落ちたら二人は離婚するの」と冷たく言い放ち、鞄から直近三回分のテスト用紙を取り出した。そこに並んでいたのは、最難関の応用問題だけが解かれ、一番簡単な基礎計算だけを全て意図的に間違えた、信じがたい異様な答案だった。夫婦|真実|親子関係|修羅場2.6万字5 0 -
完結第23話
父の逝った夜の車
父が亡くなって十八年、独身の伯父は私達三兄妹を支え続け、兄の就職も姉の結婚資金も工面してくれた。家族全員が恩人と慕う中、末っ子の私だけが幼い頃から伯父と二人きりを拒み、性格のせいだと呆れられていた。二十八歳のある日、会食の席で伯父が私の椅子を引いてくれた瞬間、鍵のかかっていた記憶が甦る。十八年前の嵐の深夜、泥まみれの母が一度だけ家に戻った時、街灯もない門前の暗闇で消灯したまま待っていたのは、伯父の車だった。兄弟姉妹|真実|親子関係|修羅場3.4万字5 0 -
完結第22話
母は死んだと書いた娘
夫の連れ子だった八歳の娘を引き取り、七年間毎朝弁当を作り、熱を出せば夜通し看病を続けてきた。ぎこちなくとも穏やかに暮らしてきたはずの中学三年の秋、担任に呼び出された私は、娘が提出した調査票を見て言葉を失った。家族欄には「実母は七年前に他界、父と二人のみで生活」と書かれ、私の名前は存在すら消されていた。裡切られた|夫婦|孤獨|修羅場3.3万字5 0 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 0 -
完結第12話
午前五時の朝餉
母・加奈子を理不尽に追い出して七日目の朝。二重ロックで施錠されたはずの台所で、炊飯器のランプが黄色く灯っていた。「保温:28分」。蓋を開けると、湯気を立てる筍ご飯と、包丁立てから消えた一番重い三徳包丁。電源を抜いても、暗証番号を変えても、毎朝午前五時に届き続ける温かい米。やがて米の底から現れた“ある金属片”を境に、父と祖母の顔から血の気が引いていく。母はどこから入り、この家で何を見つめているのか。因果応報|嫁姑|真実|修羅場1.8万字5 0 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 0