"左足だけの靴箱" 第9話
「どうぞご自由に」
私は瞬の迷いもなく言い捨てた。
「夫が自らの罪で逮捕されようと、私には何の関係もありません。私はすでに婚と財産分与の続きに入っています。あなたがいくら騒ごうが、私から円たりともはません。どうしても直から取りてたいのなら、どうぞ彼が逮捕されたに留置へ請求しにってください」
「っ……この女……ッ!!」
渡辺はドアをく蹴りすると、バタバタと荒々しい音をてて階段を駆けりていった。
廊に再び静寂が戻る。
私はゆっくりと息を吐きし、リビングへと戻った。
部の隅で膝を抱え、ガタガタと震えていた直が、信じられないものを見る目で私を見げていた。
「彩……お……渡辺を追い払ったのか……? 警察に……弁護士に話すって……本当なのか……?」
「当たりでしょう」
私はにしたスマートフォンの録音を保し、古賀弁護士へメッセージを送信した。
『脅迫者の渡辺が来訪。音声録音完。朝番で警察および労基署へ提します』
「おい! やめろよ彩!」
直がいずるようにして私に縋り付いてきた。涙と汗でドロドロになった顔を私に見せつけ、願する。
「警察にかないでくれ! 俺が悪かった! 俺がバカだったんだ! これからは何でもする! おの言うことを何でも聞くから! だから警察にだけは……刑務所にだけはかせないでくれ!」
広告
私は縋り付く夫のを、ゴミでも払うかのようにたく振り払った。
「、吉岡輝さんが所から転落した、彼はどんないで面に叩きつけられたとう?」
「え……?」
「歳よ。これからいくらでも未来があった若者なのよ。それを、あなたが全ネットの費用をケチり、自分の保のために『本の注』にすり替えた。彼のおばあさんから慰謝料を奪い、私の靴を差しして命乞いをした。……あなたというは、最初からしていなかったのと同じよ。私がしていたのは、あなたが演じていた偽りの仮面だった」
「彩……お願いだ……頼むから……」
「の朝、弁護士の同席のもとで婚届にサインしてもらうわ。拒否するなら、この録音データを即座に公して公判で徹底に争う。どっちを選んでも、あなたのが終わることに変わりはないけれどね」
直はに突っ伏し、獣のような呻き声をげて泣き崩れた。
私は彼を顧だにせず、自分の寝に入り、内鍵をかけた。
翌朝、午。
役所に再び休暇を伝えた私は、古賀弁護士とともに内の警察署の活全課、および刑事課の取調にいた。
テーブルのには、昨夜の録音データが入ったUSBメモリ、12の靴と領収の写真、そして吉岡輝のの公類がズラリと並べられていた。
広告
担当の刑事は、最初は単なる夫婦喧嘩や隣トラブルの類かとっていたようだが、録音データを再し、類を精査していくにつれ、その顔つきが急速に険しくなっていった。
「これは……単なる過失致の隠蔽にとどまらないな。偽造印私文使に業務横領、さらには現形の恐事件だ」
「刑事さん」
古賀弁護士が落ち着いた調で交信を図る。
「私の依頼である彩さんは、この連の犯罪為において完全な被害者であり、捜査への全面な協力を申しています。産の渡辺が保している『施誌の原本』は、の事件の過失を証する決定な証拠です。渡辺が証拠隠滅や逃を図るに、押収の続きを取っていただきたい」
刑事はく頷き、受話器を取って署内の捜査員へ指示をし始めた。
「よし、渡辺の柄確保と事務所の宅げ(捜査)の準備に入れ。それから、ご主の直氏にも任同を求めて署に来てもらう」
警察のきは迅速だった。
私と古賀弁護士が警察署のロビーで待している、事態は気に展した。
午すぎ、捜査員に付き添われて警察署の玄関に現れたのは、真っ青な顔をした夫・直だった。彼はロビーに座る私の姿を見つけると、すがるような目を向けてきたが、私は瞬たりとも目をわせず、線を素通りさせた。
そして正午過ぎ、今度は錠をかけられた渡辺が、複数の警察官に連されて署内へと入ってきた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 0 -
完結第22話
側溝の底のGPS
六年前に娘を事故で亡くし、近所から「不注意な母親」と後ろ指を指されながら暮らしてきた私。ある朝、向かいの名士宅との境界にある側溝の泥から、泥まみれの「娘の見守りGPS」を掘り出した。壊れた端末のログを開くと、六年間、豪雨の深夜になるたび、向かいの家のWi-Fiと通信を繰り返していた。問い詰めた夫が無言で開けた物置には、壁一面に貼られた隣家の行動記録と、五年間密かに改造されていた配管図面があった。ミステリー|因果応報|裡切られた|真相3.3万字5 0 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 0 -
完結第17話
何番まで落ちたら離婚するの
三年連続で学年一位を取り続ける十二歳の息子。深夜まで勉強に付き添う私と、追い詰めるなと制する夫は、外食先でも教育方針を巡って激しく口論していた。沈黙していた息子は突然、「僕が何番まで落ちたら二人は離婚するの」と冷たく言い放ち、鞄から直近三回分のテスト用紙を取り出した。そこに並んでいたのは、最難関の応用問題だけが解かれ、一番簡単な基礎計算だけを全て意図的に間違えた、信じがたい異様な答案だった。夫婦|真実|親子関係|修羅場2.6万字5 0 -
完結第22話
母は死んだと書いた娘
夫の連れ子だった八歳の娘を引き取り、七年間毎朝弁当を作り、熱を出せば夜通し看病を続けてきた。ぎこちなくとも穏やかに暮らしてきたはずの中学三年の秋、担任に呼び出された私は、娘が提出した調査票を見て言葉を失った。家族欄には「実母は七年前に他界、父と二人のみで生活」と書かれ、私の名前は存在すら消されていた。裡切られた|夫婦|孤獨|修羅場3.3万字5 0 -
完結第13話
二十七年目の嘘
58歳で急死した夫の遺品を整理していた美智子は、引き出しの奥から27年前の「採用内定通知書」を見つける。当時不合格だと思い込んでいた東京の出版社からのものだった。封筒の裏には夫の筆跡で「辞退連絡済」。夫はなぜ私の人生を勝手に奪ったのか。さらに、夫の出世作となった伝説の住宅企画が、かつて自分が書いた企画ノートそのものだったことを知る。奪われた名前と人生を取り戻すため、妻が下した決断とは。人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係2.0万字5 0 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 0 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 0