"午前五時の朝餉" 第2話
「……ただの嫌がらせだ」
健は自分に言い聞かせるように呟いた。
「タイマーだよ。てくに、週の朝に炊きがるようセットしていったんだ。あの女ならやりかねん」
「週の筍が、こんなにみずみずしいわけないでしょう!」
志保の鳴にい叫びを無して、健は調理台の包丁スタンドにを伸ばした。
何か武器になるものを元に置いておきたかった。
製のスタンドには、普段本の刃物が収まっている。
ペティナイフ、パン切り包丁、刃包丁。
そして、番にあるはずの、加奈子が嫁入り具として持ってきたい徳包丁。
スリットのは、空だった。
包丁がない。
健の線が、その空洞の縁に吸い寄せられた。
のスタンドの挿しに、まだ乾ききっていない、微かに湿った赤黒い擦り傷が、筋だけ残されていた。
そのの午、健は仕事を放りして自宅の防犯設備をした。
玄関のシリンダー錠をし、暗証番号と指紋認証を兼ね備えた最式の子錠を取り付けさせた。
勝には内側からしかかない補助錠を追加し、階のすべての窓のサッシに防犯フィルムを貼った。
さらに、台所の井をる梁の側面に、型のネットワークカメラを設置した。
スマートフォンと連し、体を検すれば即座に健の端末へ通が届く仕組みだ。
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「これでアリ匹入れん」
業者が引き揚げた、健は玄関ホールで腕を組み、満げにを鳴らした。
費用は万円を超えたが、背に腹は代えられない。
リビングのソファーには、学から帰ってきた蓮が制のまま座っていた。
父親の異常な慌てぶりを、めたような、どこか怯えたような目で見つめている。
「蓮、いいか」
健は息子を見ろした。
「母さんから連絡があっても、絶対にるな。あの女はがおかしくなってる。今さら被害者面して、このを乗っ取ろうとしてるんだ」
蓮は何も答えず、ただ膝ので握りしめた拳を見つめていた。
夕は、所のスーパーで買ってきた揚げ物の惣菜で済ませた。
プラスチックのパックに入ったたいコロッケを噛み砕きながら、誰もをかない。
今朝の筍ご飯は、健が内釜ごとゴミの袋にぶちまけ、粗ゴミの収集所へ捨てにっていた。
夜。
の気が消え、苦しい静寂が戻ってきた。
健は寝のベッドに入ったが、球の裏側が冴え返り、向に眠気が訪れなかった。
枕元に置いたスマートフォンの画面を、分おきに点灯させる。
専用アプリの画面には、暗モードで映しされた無の台所がモノクロで浮かびがっていた。
調理台のには何もない。
炊飯器の蓋はけ放たれ、内釜は洗われて切りカゴに伏せてある。
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源プラグも、志保のによってコンセントから引き抜かれていた。
「これなら何も起きようがない」
健は息を吐きし、画面を伏せた。
識が途切れたのは、午を回った頃だった。
健が目を覚ましたのは、アラームの音ではない。
パチ、パチ、と微かに鳴る、乾いた破裂音だった。
計の針は、午分を指している。
寝のドアの隙から、昨とは違う匂いが漂い込んできていた。
豆の、く甘いり。
健の全から、気に血の気が引いた。
ね起きるようにしてスマートフォンを掴む。
画面をロック解除し、防犯カメラのログをいた。
そこには、無質な赤文字の通がだけ表示されていた。
【04:12 - 04:42 デバイスオフライン(信号切断)】
分。
ちょうど分だけ、カメラの映像が途絶えていた。
健は素のまま階段を駆けりた。
裏に突き刺さるのフローリングのたさもじなかった。
台所の引き戸を蹴破るようにける。
暗の、浮かびがっていたのは、やはりあの琥珀のだった。
抜かれていたはずの源プラグは、しっかりと壁のコンセントに差し込まれていた。
【保温:11分】
「うわああああっ!」
背から甲い鳴ががった。
起きてきた志保が、廊の壁にへばりついて腰を抜かしていた。
「健! 健! 警察、警察呼びなさいよ!」
「黙ってろ!」
健は鳴り返したが、自の膝も刻みに震えていた。
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