"午前五時の朝餉" 第8話
、毎朝「いってらっしゃい」と送りしていたと、全く同じ平坦な声だった。
「どこにいる!」
健は鳴り散らした。
「ふざけんなよ! 隠し部は見つけたぞ! 全部バレてんだよ! 警察に通報されたくなかったら、今すぐてこい!」
「通報?」
加奈子が微かに笑った。
受話器を通して伝わってくるその吐息に、健の背筋にたいものがった。
「警察を呼べるわけがないでしょう? お義母様があれだけ叫んで状したあとで」
健の呼吸が止まった。
加奈子の声は、淡々と続いた。
「のリフォーム、覚えているかしら。リビングと台所、それから庫の配管。私が選んだ請けの気業者、私の学代の輩だったの。のあらゆる所に、度の集音マイクが埋め込まれているわ」
「な……」
「健さんは図面も見なかったものね。『おが勝に決めろ』って、判子だけ投げてよこしたでしょう」
健の線が、無識に井の隅を彷徨った。
梁の継ぎ目、災報器のカバー、換気のルーバー。
どこにレンズがあり、どこにマイクがあるのか、素目には判別がつかない。
「今朝のお義母様の言葉、綺麗に録音されているわよ。お義父様が倒れた午分から救急を呼ぶまでの分、健さんが何をしていたのか。あの青いピルケースを、どこのゴミ箱に捨てたのか」
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「加奈子、やめろ……頼むから、話しおう」
健の声が、けなく裏返った。
「蓮のこれからのことを考えろよ! 親父が逮捕されて、おばあちゃんが共犯なんてことになったら、蓮の将来はどうなる! 学も就職も、全部めちゃくちゃになるんだぞ!」
「蓮のため?」
加奈子の声から、温度が完全に消えた。
氷柱で胸元を突かれたような錯覚に、健は息を詰まらせた。
「どのがそれを言うの。蓮の誕に、私のから血がるまで殴りつけたが。あの夜、苦しむお義父様をにして、保険の免責期のことしかになかったたちが」
「あれは事故だ! 俺だってパニックになってて……!」
「嘘をつかないで。あなたたちは、度だって自分の罪を悔やんだことなんてない」
受話器の向こうで、擦れの音がした。
どこかくで、のクラクションがく鳴った。
内ではない。
加奈子はとっくにこのをて、別の所から監カメラと回線を継しているのだ。
「蓮はね、もう全部っているわ」
加奈子が言った。
「私が残したノートを読んで、自分ので病院と保険会社へったの。あの子はもう、あなたたちがっているような、嘘で言いくるめられる子どもじゃない」
リビングの入りで、蓮が健をたく見つめていた。
その横顔には、父親に対する同の欠片もなかった。
「加奈子、待て! なら払う! 慰謝料でもなんでも、求通りに……!」
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「の朝、蓮の朝ごはんを作ったら、全部終わりにするわ」
「は? 何を言って……」
「最の朝ごはんは、何がいいかしらね」
加奈子は囁くように言った。
「お義父様が息を引き取った朝、あなたたちが私に無理やりべさせた、あのたい仕し弁当のを、まだ覚えているかしら」
ツ、ツ、ツ、ツ……。
無質な通話終音が、受話器から虚しく響いた。
健は受話器を握りしめたまま、そのにち尽くした。
「健……なんて言ってたの?」
志保がをうようにして、健のズボンの裾を掴んできた。
「あの女、警察にくって言ったの? ねえ、どうするのよ!」
健は志保のを乱暴に振りほどいた。
そして、にした受話器を、台所の壁目掛けて力任せに投げつけた。
プラスチックの破片がび散り、コードが千切れてに垂れがった。
夜がまるにつれ、のの空気は鉛のようにくなっていった。
はががり、湿ったたいが窓ガラスをく曇らせている。
健と志保は、もすることなく台所に陣取っていた。
リビングのソファーには、健が物置から引っ張りしてきたチタン製のドライバーと、い属製バールが置かれている。
志保は骨董で買ったという真鍮製のい燭台を両で抱え、ダイニングテーブルの子に浅く腰掛けていた。
蓮は過ぎに階の自へがったきり、度もりてこなかった。
呼びにっても返事はなく、ドアには内側から鍵が掛けられていた。
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