"父の形見をゴミと笑った夫と五十億円の引導" 第1話
たいが容赦なくり続く、暗く沈んだ夜だった。
私は黒い喪を着たまま、み慣れたマンションの玄関のにっていた。
が傘の端から滴り落ち、元を濡らしていく。
私は震えるをゆっくりと持ちげ、たい属のドアノブにをかけた。
いつきでドアノブを回し、玄関のドアを静かにけた。
今は、私にとってたった1の切な内だった、父の葬儀があっただ。
さな町で、毎無に働き続けていた父の姿が脳裏をよぎる。
油にまみれた作業着姿で、いつも私を優しく見守ってくれていた。
そんな父は、い闘病活の末に、病院のベッドで静かに息を引き取った。
私は玄関のにち、濡れた靴を脱ごうとをかがめた。
その、私のにリビングからテレビのるい音声が聞こえてきた。
私は顔をげ、ゆっくりとした取りでリビングのドアへと向かった。
ドアをけて部のに入ると、夫の志の姿が目に入った。
彼は級な革張りのソファーにく腰をろし、ワイングラスを傾けていた。
彼は私の父の葬儀に、仕事が忙しいという理由で席しなかった。
しかし、ソファーに座る彼の級スーツからは、甘くて華やかなの匂いが漂ってきている。
私はその匂いを嗅ぎ、静かに目を伏せた。
広告
それが仕事の打ちわせでつくような匂いではないことは、私にもすぐにわかった。
志はグラスからをし、私の方へと線を向けた。
「やっと帰ってきたか」
彼は私を気遣う言葉を1つもかけず、ひどく面倒臭そうにため息をついた。
私は無言のまま、リビングの入りにち尽くしていた。
彼の鋭い線が、私が両で切に抱えている古いブリキ箱でピタリと止まる。
それは、父が病院のベッドで最期に私へ託した切な遺品だった。
志は眉にいシワを寄せ、あからさまな嫌悪を顔に浮かべた。
「なんだその汚いゴミは?」
私は無識のうちに、その錆びた箱を自分の胸へとく引き寄せた。
そして、絞りすようなさな声で答えた。
「お父さんが最に残してくれたものよ」
私は箱のたい触を確かめながら、言葉を続けた。
「にいるに届けて欲しいって……」
その言葉を聞いた瞬、志はでたく笑った。
彼はにしていたワイングラスを、テーブルのに乱暴な作で置いた。
「隠し子だと?」
彼は私をたい目で見据え、吐き捨てるように言った。
「おの親父は貧乏なに、倫理観もない底辺のだったのか」
私はを疑うような言葉に、わず息を呑んだ。
志は以から、私や私の実のことを見し、馬鹿にしていた。
広告
しかし、くなったばかりの父をここまで残酷に侮辱するとはわなかった。
私は両に力を込め、震える声で反論した。
「やめて。お父さんのことを悪く言わないで」
私が答えをした瞬、志はソファーからゆっくりとちがった。
彼は圧な態度で歩み寄り、私を酷に見ろした。
「事実だろうが」
彼は私の抱えるブリキ箱を瞥し、で笑った。
「ろくな財産も残さず、あんな古ぼけたゴミを娘に押し付けるような男だ」
彼はそう吐き捨てると、線を逸らしてリビングの引きしへと向かった。
引きしを乱暴にけ、から1枚のを取りす。
彼は再び私の方へ振り返り、音をててづいてきた。
そして、私の目のにあるテーブルへ、そのを音をてて突きつけた。
私の線は、自然とそのへと引き寄せられた。
そこには、緑の枠線がはっきりと印刷されている。
それは、記入欄が設けられた婚届だった。
志はスーツのポケットにを入れ、級な万を取りした。
「ちょうどいい。底辺の血筋の女とはもううんざりしていたんだ」
彼は万の先で、婚届の自分の記入欄をコツコツと叩いた。
そこにはすでに、彼の名が綺麗な字でき込まれていた。
志は私を嘲笑うように見つめ、はっきりとした声で宣言した。
「俺は、うちの社の娘であるリナさんと再婚する」
彼は万をしまい、胸を張った。
「もう話はついているんだ」
突然の宣告に、私ののは完全に真っになった。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
午前五時の朝餉
母・加奈子を理不尽に追い出して七日目の朝。二重ロックで施錠されたはずの台所で、炊飯器のランプが黄色く灯っていた。「保温:28分」。蓋を開けると、湯気を立てる筍ご飯と、包丁立てから消えた一番重い三徳包丁。電源を抜いても、暗証番号を変えても、毎朝午前五時に届き続ける温かい米。やがて米の底から現れた“ある金属片”を境に、父と祖母の顔から血の気が引いていく。母はどこから入り、この家で何を見つめているのか。因果応報|嫁姑|真実|修羅場1.8万字5 0 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 0