"父の形見をゴミと笑った夫と五十億円の引導" 第7話
私は慌ててをげ、挨拶をしようとした。
「突然押しかけてしまい、申し訳ありません」
彼女は優しくを差しして、私の言葉を制した。
「謝る必などありません」
彼女は私を真っ直ぐに見つめ、信じられない言葉をにした。
「私はずっと、あなたがここへ来るを待っていたのです」
待っていた。
その言葉のが分からず、私は戸惑ったように彼女を見返した。
「あなたが、父のメモにあった方ですか?」
私が尋ねると、彼女はゆっくりと頷いた。
「はい。私がお父様からこの所を預かっている、京子と申します」
京子さん。
父から度も聞いたことのない名だった。
私は戸惑いながらも、父の言葉をそのまま伝えた。
「あの、父はあなた様を内縁の妻だと……」
私が言い淀むと、京子さんは慈しむような微笑みを浮かべた。
「いえ、法律の続きこそ踏んでいませんが、私はから彼をし、彼のためにこのグループを守ってきました」
このグループを守ってきた。
その言葉で、私は彼女の正体をはっきりと理解した。
彼女は、この暁グループという巨企業のトップCEOなのだ。
志がをげても決して会うことのできない、のの。
そんなが、さな町で油にまみれていた父をしていたというのか。
京子さんがしだけ声を震わせて尋ねた。
「お父様は、どうされましたか?」
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私は無識に線を落とし、抱えていたブリキ箱を見つめた。
「父は数に息を引き取りました」
私は再び顔をげ、彼女に伝えた。
「最期まで、この箱を届けることだけを気にかけていました」
その言葉を聞いた瞬、京子さんは両で顔を覆った。
く息を吐きし、部のに彼女の押し殺したようなさな泣き声が響いた。
数秒、彼女は顔をげ、ハンカチでそっと目元を押さえた。
「そうですか。彼はついに、その荷をろしたのですね」
京子さんの瞳には、しみと同に何かきな使命を果たした堵のようなものが浮かんでいた。
私はを決して、両で抱えていたブリキ箱をに差しした。
「これをあなたに渡してくれと言われました。は私には分かりません」
元夫の志が汚いゴミと嘲笑し、私をから追いす理由になった箱。
京子さんはそれを、まるで世界で番尊いものであるかのように、両で切に受け取った。
「ありがとうございます。あなたが届けてくれたことで、彼のいは無事に果たされました」
彼女はブリキ箱を胸に抱き、おしそうにその錆びた表面を撫でた。
踵を返し、部の央にあるなのテーブルへ向かう。
そっと箱を置き、私を振り返った。
「希さん、こちらへ来てください」
京子さんに名を呼ばれ、私は驚いた。
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私はまだ、自分の名を名乗っていなかったからだ。
彼女は私のことなど、ずっとから全てっていたのだ。
私は戸惑いながらも、テーブルのそばへ歩み寄った。
京子さんはきく呼吸をし、箱の留めにをかけた。
錆びついた属が、ギシッと鈍い音をてる。
私は息を呑んで、その元をじっと見つめた。
箱の蓋が、ゆっくりと持ちげられる。
に入っていたのは、宝でも札束でもなかった。
褪せた赤い布に包まれた、古いの束とつの属の塊。
京子さんが震えるで布をく。
そこには、な黄の鍵と、で作られた1枚の証が納められていた。
証には達な文字で何かがき込まれ、いくつもの赤い印が押されている。
京子さんはその証と鍵を見た瞬、姿勢を正した。
そして、私に向かってくをげた。
それは先ほどの黒の社員たちよりもさらにく、絶対な敬を込めたお辞儀だった。
私は驚き、慌てて声をかけた。
「京子さん、それは体……」
私が尋ねると、彼女は顔をげて真剣な目で私を真っ直ぐに見据えた。
「お父様があなたに託したものは、ただの形見ではありません」
彼女の静かな声が、広い特別に響き渡った。
私はその言葉のを量りかねて、ただち尽くすことしかできなかった。
父が残したゴミのようなブリキ箱のが、巨グループのトップを跪かせる理由。
その真実が、今まさに私の目のでかされようとしていた。
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