"父の形見をゴミと笑った夫と五十億円の引導" 第10話
京子さんが温かいお茶を淹れながら、穏やかな声で言った。
「お父様が残してくれたこの所は、あなたのしいでもあります」
彼女は湯呑みを私のに置いた。
「もう誰かに怯えたり、理尽な扱いに耐えたりする必はどこにもありません」
その優しい言葉に、私は張り詰めていた糸がふっと緩むのをじた。
同に、私の胸の奥にあるが、確な形を持って浮かびがってきた。
それは、父の尊厳をゴミのように踏みにじった元夫への、静かでたいりだった。
志は私が反論できないと見し、社令嬢との再婚のためには私を追いした。
私は窓のへ線を向けた。
広な敷をき交う社員たちの姿が、元にさく見えた。
私のの絶望としみは完全に消えり、しい決が固まり始めていた。
父が命懸けで守り抜いたこの誇りを胸に、私は自らの志でちがる。
特別の窓から差し込む午のが、テーブルに置かれた黄の鍵を鈍く照らしていた。
温かいお茶をみ、私はようやく自分の呼吸が本来の速さに戻るのをじた。
自分のが根底から覆った事実を、しずつので理していく。
ふと、私の線はソファーの脇に置いた自分の提げ鞄に向けられた。
を追いされる、必最限の荷物と緒に押し込んできたものがある。
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私は鞄を引き寄せ、から黒ずんだ革表の古い帳を取りした。
「希さん、それは何ですか?」
京子さんが私の元を見つめて尋ねた。
「父がくなった、病院から渡された遺品のにあったものです」
私は帳の表を撫でながら、静かに答えた。
「父は毎晩、仕事が終わったもの片隅に残り、これに何かをき込んでいました」
私は父の背をいしながら言った。
「私はずっと、の部品の庫管理か、借の計算でもしているのだとっていました」
私は帳のページをめくった。
そこには、細かな数字とアルファベットの羅列がびっしりとき込まれている。
それは本語の文章ではなく、私にはまるでの分からない暗号のようだった。
「ただの落きかもしれませんが、父がずっと切にしていたので捨てられなくて……」
私が帳をテーブルの央へ置くと、京子さんがゆっくりとを乗りした。
彼女は帳のかれたページに目を落とした瞬、息をさく呑んだ。
そして、信じられないものを見るような目で帳をに取った。
「これは、落きなどではありません」
京子さんの声が、微かに震えていた。
「京子さん、何か分かるのですか?」
彼女は答えず、部の隅にある自分のデスクへ向かった。
帳をいたまま、パソコンの画面と見比べ始める。
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キーボードを叩く乾いた音が、静かな特別に響き渡る。
数秒、彼女はパソコンの画面から目をし、い嘆のため息を漏らした。
「希さん、お父様はただを隠してを過ごしていたわけではありませんでした」
彼女は帳を持ったまま私の元へ戻り、興奮を抑えきれない様子で語り始めた。
「グループの技術発部が、ここ数莫な資を投じても突破できなかった、次世代通信の暗号化技術があります」
彼女は帳のページを指差した。
「この帳にかれている数字の羅列は、その技術の最もな基幹コードです」
私はその言葉のを理解しようと、瞬きを繰り返した。
「基幹コード……父がそれを、1でいていたということですか?」
京子さんはく頷いた。
「ええ。彼は30、グループの権力闘争かられたも、研究者としての脳を1度も休ませてはいなかったのです」
京子さんの目は、帳のページをおしそうになぞっていた。
「誰の目にも留まらない、さな町。そこは彼にとって、派閥争いや利益のしがらみに邪魔されない、最の極秘研究だったのですね」
その事実をり、私の胸の奥にいものが込みげてきた。
父は、社会の底辺で惨めにきていたわけではなかった。
する娘を全な所で育てながら、する女性が守る巨グループの未来を、たった1で切りいていたのだ。
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