"何番まで落ちたら離婚するの" 第8話
その目は、デスクのの茶封筒と、私のにある緑のを、然と見ろしていた。
「雅……これ……」 私の声は完全に震えていた。を握る指が、くしゃりと音をてる。 「これ、何なの……!? あなた、から……翔太が初めて位を取ったあのから、私と別れるつもりだったの!?」
雅はため息すら吐かなかった。 靴を脱ぎ、ゆっくりと部のへ歩み寄ってくる。その音が、刑執の音のようにく響く。
「勝にの部を漁るなと言ったはずだ」 「答えなさいよ!」 私は叫んでいた。叫ばずにはいられなかった。 「あなた、これを翔太に見せたの!? あの子に『位を取ったら婚する』って言ったのは、あなたがこのを見せて脅したからでしょう!? のあの、翔太が位を取ったから、あなたが……!」
「脅す?」 雅の元が、微かに歪んだ。 それは、自嘲と、侮蔑と、そして底れぬ絶望が混ざりったような、歪な笑みだった。
「俺が翔太に見せたと本気でっているのか?」 「じゃあ、なんであの子がってるのよ! あの子はわざと点数を落としてるのよ! 親の婚を止めるために、成績をコントロールしてるの! 塾の先にまで相談して……!」
私の言葉を聞いた瞬、雅の瞳の奥に、暗いがった。 だが、夫は取り乱すことはなかった。 ただ、静かに目を伏せ、首を横に振った。
「綾子。おは本当に……何も見ていないんだな」
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「何ですって……?」
「そのを、よく見てみろ」 雅は私から乱暴に婚届を奪い取ると、蛍灯のにかざすようにして私の目のに突きつけた。
「え……?」
言われて、私は目を凝らした。 の表面。 文字の隙。 そこには――無数の、細い透な線がっていた。
セロハンテープ。 経劣化でし黄く変した、細幅のセロハンテープが、何にも、何にも、の裏と表に貼り巡らされていた。
よく見ると、その婚届は、度バラバラに破棄されていたものだった。 幾にも引き裂かれたの破片が、ミリ単位の狂いもなく、パズルのように完璧に繋ぎわされている。 子供の、さな、震える指先で。 セロハンテープの端には、さな指紋がく残っていた。
「俺はあの、おが翔太の成績表を見て狂乱している姿を見て、完全に限界だと悟った」 雅のい声が、静まり返った部に落ちる。
「このはもう終わりだ。おは子供をしているんじゃない、自分の作品として消費しているだけだ。そうって、その夜、役所の窓でこの用を取ってきて、名をいた。……だが、突きつける勇気はなかった。おのあの狂気のような笑顔を見たら、とても切りせなかった。だから俺は、そのでこれをつ裂きにして、キッチンのゴミ箱の底に捨てたんだ」
私の喉が、からからに干からびていく。
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「翌朝、ゴミ箱からそれは消えていた。俺はてっきり、ゴミと緒に回収されたとっていたよ」 雅は、乾いた笑い声を漏らした。 「だが、違ったんだ。経った先、翔太の部の掃除を伝った……あいつの机の奥から、これが見つかった」
雅の指が、貼りわされたの継ぎ目をなぞる。
「翔太が、夜にでゴミを漁って、破片を全部拾い集めて……自分の部で、泣きながらテープで貼りわせたんだよ。あいつが初めて全県位を取った、あのトロフィーの箱の底に、これが切そうに隠されていた」
「……嘘……」 私の唇から、微かな掠れ声が漏れた。 の力が抜け、そのに崩れ落ちそうになるのを、デスクの端を必で掴んで耐えた。
あの子が? 学の翔太が、夜にゴミ箱から、父親が引き裂いた婚届を拾い集めた? そして、パズルのように繋ぎわせた?
「翔太はっていたんだよ、綾子」 雅のたい瞳が、にへたり込む私を見ろしていた。 「あのからずっと。自分が満点を取ったそのの夜に、このが々に割れかけていたことを。あいつはずっとっていたんだ」
テープの継ぎ目をなぞる指先が、刻みに震えて止まらなかった。
幾にも引き裂かれ、再び貼りわされた枚の。 隅が擦り切れ、セロハンテープの端には埃がこびりつき、黄く変している。
そのに記された、のという付。
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