"何番まで落ちたら離婚するの" 第9話
――あの子が、夜にでゴミ箱から拾い集めたんだ。
雅が吐き捨てた言葉が、蓋骨の内側に杭のように打ち込まれていた。 斎のに膝をついたまま、私は呼吸の仕方を忘れた魚のように、ただ浅く喉を鳴らすことしかできなかった。
。 翔太が初めて全県模試で位を取った、あの。 私は翔太を抱きしめて、声をげて泣いた。「すごいね、翔太。お母さん、あなたを誇りにうわ」。私の腕ので、歳だった翔太はさく笑っていたはずだ。 その夜、夫は台所で婚届にペンをらせ、破り捨てていた。 そして、親たちが眠りについた夜、あの子は暗のキッチンでゴミ箱にを突っ込み、濡れたゴミの底から、々になった両親の破滅を拾い集めていたのだ。
どんな気持ちで? どんな顔をして、その破片を枚ずつ机のに並べたのだろう。 破れた文字の端と端をわせながら、歳の子供は、どんな恐怖をその胸に抱え込んでいたのか。
「う……っ、あ……」
声にならない嗚咽が漏れた。胸が引きちぎられるように痛かった。 私はあの子に、何をしてきたのだろう。 『あなたのため』『あなたの将来のため』。 そう唱えながら私が差ししてきたものは、すべて、あの子の首を絞める真綿だったのではないか。
その夜、私はもできなかった。 隣のベッドで背を向けたまま微だにしない雅の息遣いも、階の蔵庫が折く唸る音も、すべてが私を責めてる裁判官の声のように聞こえた。
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朝が来ても、リビングの空気は澱んだままだった。 翔太は昨と同じように、綺麗にえた制を着てりてきた。 「おはよう、お母さん」 その澄んだ瞳を見た瞬、私は界が歪みそうになるのを必で堪えた。 「……おはよう、翔太」 声が震えないように、自分の太ももをエプロンのでく抓った。
このままではいけない。 問い詰めるのではない。叱りつけるのでもない。 私は、あの子が背負ってしまったものの本当のさをらなければならない。 そして、このの歪んだ呪縛を、私ので解かなければならない。
*
そのの午、私は震えるでスマートフォンを操作した。 啓ゼミナールに話をかけ、今週予定されていた特別化宿と、週末の志望別オープン模試の受講をすべてキャンセルした。 話で副の宮本先が「お母様、本気ですか? この直期のキャンセルは、本番の否に直結しますよ」と語気をめたが、私のにはもう届かなかった。 「息子の体調が優れませんので。しばらく、休ませます」 それだけを告げて、通話を切った。
曜。 普段なら、朝から夕方まで塾の特訓講座で埋まっているはずのだった。
「翔太、今はどこかへかけましょう」 リビングで過問のテキストをこうとしていた翔太に、私はできる限り柔らかい声でそう告げた。
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翔太のが、ピタリと止まった。 シャープペンの芯が、カチリと音をてて引っ込む。
「かけるって……模試は? から会に入らないと」 「お休みしたのよ。最、根を詰めすぎていたでしょう? たまには息抜きも必だわ。あなたの好きだった、きな芝のある公園にかない? 昔、よくお父さんとでキャッチボールをした、あの総運公園」
翔太の顔から、すっと表が消えた。 ぶでもなく、議がるでもない。 ただ、のような無質な線が、私に向けられた。
「……僕、何か悪いことした?」 「え?」 「テストの点数が悪かったから? だから、もう塾にかせてくれないの?」
息子の声は、微かに震えていた。 その瞳の奥に浮かんでいたのは、紛れもない『怯え』だった。 遊園や公園にこうと言われてぶ齢はとうに過ぎているとはいえ、息抜きを提案された子供が浮かべる顔ではなかった。まるで、牢獄の扉を急にけ放たれた囚が、処刑へ連れてかれるのではないかと怯えているような、痛ましい警戒。
「違うのよ、翔太。そうじゃないの。ただ、あなたを休ませてあげたくて……」 「僕、ちゃんとやるよ」 翔太は私の言葉を遮り、机のの問題集を両でく抱え込んだ。 「次は絶対に満点取るから。昨の復習も全部終わらせたし、違えたところの類題も問解いたよ。
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