"レジ打ちの妻は恥ずかしい" 第19話
役職も、仕事の信用も、親戚の信頼も……母さんは毎で泣いてて、所のからもい目で見られて……。 俺には、もう何も残ってないんだよ……」
その姿を見ても、私の胸には片のれみも湧かなかった。 彼らが失ったものは、すべて彼ら自がの尊厳を蔑ろにした結果として、自らので撒いた種が芽吹いただけなのだから。
「自分で選んだことよ」
私は静かにちがった。
「失ったんじゃないわ。の丈にわない偽物のプライドを、ようやく剥がされただけよ。 これからは、作業着を着て、自分の汗で、円のみをりながらきていきなさい。 ……さようなら、翔平さん」
私は度も振り返ることなく、喫茶の伝票をに取ってレジへと向かった。 背で、男が静かに嗚咽する声が聞こえていたが、私の取りが乱れることは度となかった。
悦子についても、の噂でに入ってきた。
息子の借と遷、そして親族同からの猛烈な非難を受けた悦子は、あれほど執着していた「の格式」を完全に失っていた。 実の母を恫して救急で運ばせたという話は、宗様を通じて親戚にれ渡り、法事や親族の集まりへの席を固く禁じられたという。 かつて買い漁っていたシャネルのジャケットやエルメスのバッグは、息子の違約の支払いのためにすべて買い取り業者へ引き渡され、所のスーパーで値引きシールの貼られた惣菜を、を向いてに買い求める姿が目撃されていた。
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の仕事を「銭数え」と嘲笑った女性が、最は自分自がその銭に縋り付いてきるしかなくなったのだ。 因果応報とは、まさにこのことだった。
それから、以のが流れた。
静岡の母はすっかり元気を取り戻していた。 血圧も定し、庭のさな畑で根やトマトを育てては、「千、今度送るからね」とるい声で話をかけてきてくれる。 父もでの仕事を無事に勤めげ、穏やかな活に入っていた。 あの悪のような々は、族の絆をよりく、より確かなものへと変えてくれていた。
そして、私自の々もまた、きくきしていた。
私はあの事件の、スーパー「マルエイ」の正社員として、これまで以に仕事に打ち込んだ。 舗の売データと廃棄ロスの削減計画を独自にまとめ、本社の業務改善提案コンテストで最優秀賞を受賞したのだ。
毎のレジ打ちで、お客様が何を求め、どの帯にどんな商品がに取られるかを肌でじてきた経験が、何よりも確かなデータとなっていた。 机のの数字しか見ていない本社の幹部たちも、私の現に根ざした提案の正確さとには、舌を巻くしかなかった。
「千さん、辞令がたよ」
あるの朝、部が満面の笑みを浮かべて、私に通の辞令を渡してくれた。
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『佐伯千 殿 舗・品川 副を命ずる』
「……!」
「君がこので積みねてきた努力の成果だ。胸を張ってきなさい。千さんなら、きっと素らしいおを作れるよ」
島田さんをはじめ、売りのパートさんたち全員が、拍で私を囲んでくれた。 誰として、私の仕事を「銭数え」と呼ぶ者はいなかった。 ここには、誠実に働くをから認め、支えう、本物のリスペクトがしていた。
私はそのの、職のくに、築の古の1LDKのマンションを購入した。 私が貯めてきたおと、自らの信用で組んだ宅ローン。 契約の署名欄に、自分の名を黒いペンでしっかりとき込んだ、胸の奥からいものがこみげてきた。
誰かの見栄の庇護に入る必など、最初からなかったのだ。 自分ののは、自分の汗と労働で、自分ので築きげることができる。
引っ越しを終えたしい部のベランダからは、京の並みが望できた。 朝の柔らかなが、リビングの無垢材のフローリングを温かく照らしている。 そこには、倒れた缶ビールの染みも、誰かの傲な罵声も、勝な嘘もしない。 ただ、私自の誠実な活だけが、静かに息づいていた。
朝。 しい制に袖を通し、ネームプレートを胸につける。
『副 佐伯千』
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鏡のの私は、あののように怯えても、泣いてもいなかった。 しっかりとを見据え、穏やかで揺るぎないを湛えた、の自したの女性の顔があった。
自ドアの鍵をけると、朝の澄んだ空気が舗のへと流れ込んできた。 焼きてのパンのばしい匂い。 から届いたばかりの、鮮な野菜の青いり。 レジの源をちげると、気よい子音がピッ、と鳴り響く。
「おはようございます!」
しく入ってきた若いレジスタッフに、私は笑顔で声をかけた。
「今も、お客様に気持ちよくお買い物していただけるように、笑顔で頑張りましょうね」
「はい、副!」
元気な返事が、ピカピカに磨かれた内によく反響した。
は、着ているのブランドや、乗っているの値段、配偶者の肩きで尊くなるのではない。 どんな仕事であれ、自分の持ちで誠実に汗を流し、自分のでを踏みしめてきているこそが、最も美しく、気いのだ。
私はエプロンの紐をきゅっと結び直し、レジカウンターのにった。
ガラス窓の向こうから、眩しい朝の太陽が差し込んできた。 私の誇りい、しいが、今、始まった。
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