"恩人弁護士の不可解な書類" 第10話
「榎本先」
自分の声が、ったよりもく、震えずに響いた。
「これ、梨郁恵さんの労働審判の準備面ですよね。今朝、霞が関の裁で、記録を閲覧してきました」
榎本はかなかった。 線を類に落としたまま、言葉を発しない。
「ここにかれている節……『印鑑はあんたがで押したんだ。察して自分から引け』という言葉。これ、私がこの部で、先にだけ話した言葉ですよね」
狭い事務所のを、苦しい沈黙が支配した。 換気扇の回る微かな音だけが、やけにきく聞こえる。
私は、まっすぐに榎本の目を見つめた。
「どうして、私の言葉が、赤のの裁判の証拠として提されているんですか? 先、私に何の断りもなく、私のプライバシーを勝に使ったんですか?」
問い詰める声に、しずつが混じっていくのを止められなかった。
「佐伯の件を無料で引き受けてくれたのも……最初から、これが目だったんですか? 私が藤堂専務の秘密をっているから、利用するために私にづいたんですか!? 答えてください、先!」
榎本は、目を伏せた。 い睫毛が、暗い部のにを落としている。
彼は言い訳をしなかった。 「偶然の致だ」とも、「の聞き違いだ」とも言わなかった。 ただ、く息を吐きし、両を机ので組んだ。
「……違います」
榎本の声は、く、かすれていた。
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「あなたを利用するために、あの調を引き受けたわけではありません。それは、信じてほしい」
「じゃあ、これは何なんですか!?」
私はをく指差した。
「弁護士には、守秘義務があるはずです! 依頼が話したことを、本の許もなく部に漏らすなんて、絶対に許されないことなんじゃないんですか!?」
榎本は、ゆっくりと顔をげた。 その瞳には、私がこれまで見たことのない、い疲労と苦悩のが宿っていた。 充血した目が、痛々しいほど赤かった。
「……その通りです。弁護士法第条、守秘義務違反です。弁護士として、弁解の余は切ありません」
榎本は組んでいたを解き、子の背もたれからを起こした。 そして、私に向かって、机に額がつくほどくをげた。
「申し訳ありませんでした、矢野さん。私が、線を越えました」
あまりにもあっさりと非を認められ、私は言葉を失った。 りの矛先をどこへ向ければいいのかわからず、拳を膝ので握りしめる。
榎本はをげたまま、静かに語り始めた。
「郁恵は……梨郁恵は、私の実の隣にんでいた、妹のようなです。彼女の父親がくなった、私は彼女の母親から『どうかあの子を見守ってやってくれ』と頼まれていました」
梨さんのアパートで聞いた「拓兄ちゃん」という言葉が、脳裏をよぎる。
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「あの子は、本当に真面目で、誰かを疑うことをらない子でした。そのあの子が、あの商事で藤堂から正経理の片棒を担がされそうになり、拒絶した結果、徹底に精神を破壊された。救急で運ばれた夜、集治療のベッドで管だらけになった郁恵を見た……私は、自分の無力さに気が狂いそうになりました」
榎本の声が、微かに震えていた。
「だが、藤堂は狡猾でした。社内のメールもログも、郁恵が倒れたそののうちに全て消されていた。会社側は『私な精神疾患』として処理し、労働基準監督署も確たる物証がないとしていてくれない。どの弁護士も、勝ち目がないとサジを投げた。郁恵は今も、夜になると聴に怯え、薬がなければ眠れない状態です。この裁判で藤堂の責任を認めさせ、謝罪と補償を勝ち取らなければ……あの子は、度と社会に戻れない。命を絶ってしまうかもしれない」
榎本はゆっくりと顔をげた。 その表には、罪悪と、それ以にい、戻りのできない執が刻まれていた。
「そんなに、あなたが事務所に来られたんです」
榎本の線が、私を射抜いた。
「佐伯の画の件で、あなたが泣きながら話してくれた藤堂のやりを聞いた瞬……私は、鳥肌がちました。藤堂のは完全にパターン化されていた。部に正をし、拒絶されれば『で押した』と脅して自己都退職に追い込む。
まさに郁恵がやられたことと全く同じだった」
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