"恩人弁護士の不可解な書類" 第18話
及川法務部は本気です。会社が組織ぐるみで虚偽の帳簿を作れば、警察だってかざるを得ない。そうなれば……あなたは再び、容疑者として名を晒されることになる」
榎本先は両で顔を覆った。 指の隙から、漏れた呼吸がを帯びていた。
「私は……どちらか方しか救えないのかもしれない。郁恵の命を救うために、あなたにまたを被せるのか。それとも、あなたとの約束を守って、郁恵を破滅の淵にたせ続けるのか……。私は、弁護士としても、としても、最初から違っていたんだ」
沈黙が落ちた。 換気扇の回る規則正しい音だけが、事務所の空気を削り取っていく。
私は歩み寄り、デスクのにった。 そして、カバンから通の類を取りした。
昨夜、自宅で何回も推敲し、自分ので清した『証承諾』と、陳述の原本だった。 それを、榎本先の目の、あの解のにねて置いた。
「榎本先」
私は静かに言った。
「佐伯の盗撮画でが終わったとった、先が事務所の扉をけてくれました。あの、私にお茶をして、『怖かったでしょう』と言ってくれた。あの瞬の先は、私にとって神様に見えました」
榎本先が、ゆっくりと顔をげた。
「でも、違ったんですよね。先は神様なんかじゃない。妹のように育った子を救いたくて必になって、の秘密を勝に使ってしまうくらい愚かで、と脅迫をにしてペンを震わせるくらい、ただのいです」
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私の言葉に、榎本先は息を呑んだ。 非難するためではない。事実を、そのまま差しすための言葉だった。
「だからこそ、先。私を理由にして、逃げないでください」
私は解の文字を指差した。
「この解にサインすれば、梨さんはに助かるかもしれない。でも、私は『横領の疑いをかけられたまま逃げた女』として、を歩き続けることになります。梨さんだって、誰かを犠牲にしてに入れたおで、本当にからち直れるといますか?」
榎本先の目が、赤く充血していた。
「私は、誰かの救済のために踏み台にされるのはごめんです。でも、自分のを守るために、梨さんを見殺しにするのも嫌なんです。藤堂が番恐れているのは何ですか? おを払うことじゃない。自分たちの悪事が、公の記録に残ることでしょう」
私は榎本先の目を、まっすぐに見据えた。
「私は、逃げずに証言台にちます。横領の告訴でも何でも、受けてちます。物証はここにある。あとは、先が弁護士として、目のの理尽と戦う覚悟があるかどうかだけです」
榎本先は、机のの類を見つめた。 私の陳述と、相方の解協定。 つの未来が、のなりとなってそこにあった。
分、分。 計の針が刻む音だけが響く、榎本先の指先がいた。
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彼は万を置いた。 そして、両でファックスの解協定を掴み取った。
ビリ、と乾いた音が内に響いた。
度、度。 榎本先は切のためらいを捨てったつきで、千百万円の解をつ裂きに引き裂いた。 片が、ゴミ箱のに音をてて落ちていく。
「……矢野さん」
榎本先の顔から、迷いが消えていた。 そこにあったのは、ヶ、霞が関の調で佐伯を圧倒したの、あの鋭く研ぎ澄まされた法律の顔だった。
「は、半に裁です。分も遅れないでください」
「はい」
私はくうなずいた。 背筋が、すっと伸びるのをじていた。
翌朝、霞が関の空は、つないれだった。
え込みは厳しく、吐く息がくちる。 京方裁判所の正には、廷を待つ弁護士や当事者たちがき交っていた。 私は指定されたより分く到着し、コートの襟をてて待った。
半ちょうど、榎本先がりでやってきた。 黒いコートに、分いブリーフケース。 目のには隈が残っていたが、その取りに切の迷いはなかった。
「おはようございます、矢野さん。体調は?」
「丈夫です。もできませんでしたけど、は驚くほど冴えています」
「よかった。……あの方が、来ています」
榎本先が線を向けた先、裁判所の玄関脇の植え込みのに、さながあった。
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