"恩人弁護士の不可解な書類" 第21話
印鑑を返却した分の、分です。の辻褄は完璧にっています。さらに、梨氏が正を指示されたと主張する百万円の振込伝票に押された印と、あなたがこの持ちした印鑑の印は、ミリ単位で完全に致します」
法廷内が、完全に静まり返った。
逃げは、塞がれていた。 言い訳をねればねるほど、自らが仕掛けた罠の網が、藤堂自の首を絞めげていく。
及川法務部は、もはや藤堂を見ようともせず、俯いて類を凝していた。 代理の神弁護士に至っては、額にを当て、くため息をついていた。勝負が決したことを、プロとして悟ったのだ。
「藤堂さん」
審判の声は、氷のようにたかった。
「当審判委員会としては、申の主張を全面に真実と証を得ました。あなたが部に対して違法な業務をし、自ら印鑑を持ちして伝票を偽造し、その責任を梨氏に転嫁して自寸まで追い込んだことはです。また、矢野氏に対する連の脅迫、封じの企ても、極めて悪質と言わざるを得ません」
審判は鏡をし、藤堂を射抜くように見据えた。
「このまま審判続きを続し、決定をした、当職としては記録を検察庁へ送致し、偽証および背任、私文偽造の疑いで刑事告発の続きを取ることを検討します。
広告
……どうされますか、神先」
神弁護士は、ちがることすら億劫な様子で、さくをげた。
「……相方としては、審判の証を真摯に受け止め、直ちに調続きに代わる解の協議に入りたいとじます」
「おい、神! 何を勝なことを言って……!」
藤堂が半狂乱になって叫んだが、神弁護士は淡に言い放った。
「黙りなさい、藤堂専務。これ以恥の塗りをすれば、会社全体が特別背任の捜査対象になります。及川部、本社社に至急連絡を入れてください。『専務個の責任を認め、全額会社が弁済して幕引きを図るべし』と」
及川は青ざめた顔で、逃げるように法廷をていった。
藤堂は、子から崩れ落ちるようにして座り込んだ。 その顔には、かつて私を酷に見ろしていた常務の威厳など、欠片も残っていなかった。 ただの、保のために嘘をね、最にはその嘘に押し潰された、醜くれな初老の男だった。
私は証言台から、その姿を静かに見ろしていた。
憎しみは、議なほど消えていた。 胸を満たしていたのは、たく澄み切った、確かな応えだけだった。
私は勝ったのだ。 誰かに守られるだけの被害者としてではなく、自分ので証拠を握りしめ、自分の言葉で真実を語り、あの男の支配を完全に打ち砕いたのだ。
隣を見ると、梨さんが母の胸に顔を埋めて、声を押し殺して泣いていた。
広告
それは、絶望の涙ではなく、ようやくい悪から解放された堵の涙だった。 榎本先が、私に向かってさく、くうなずいた。 その瞳にも、微かにるものがあった。
解続きは、そのの夕方までかかって完した。
会社側は、梨郁恵氏に対する違法な退職とパワハラを全面に認め、公式な謝罪文を交付すること。 治療費、逸失利益、慰謝料を含めた解決として、計千万円を即括で支払うこと。 そして――。
榎本先が、最の条項として頑として譲らなかった項目があった。
『会社側は、矢野真氏に対する切の横領等の疑惑がしないことを公式に認め、過の解雇処分を取り消し、会社都による円満退職としての証を発すること。また、本件に関する矢野氏の名誉を回復するための面を交付すること』
調調に、裁判官の印が押された。 全ての戦いが、終わった瞬だった。
裁のにた、にはすでに夜の帳がりていた。 たいが吹き抜けていくが、昼とは違い、そのはよく私の頬を撫でていった。
梨さんとその母親は、何度も、何度も私と榎本先にをげ、夜の霞が関駅へと消えていった。 あの子の背は、朝よりもしだけ、しっかりとを向いていた。
私と榎本先は、無言のまま鉄に乗り、神保町へと戻った。
裏の雑居ビルの。
広告
おすすめ作品
-
完結第22話
側溝の底のGPS
六年前に娘を事故で亡くし、近所から「不注意な母親」と後ろ指を指されながら暮らしてきた私。ある朝、向かいの名士宅との境界にある側溝の泥から、泥まみれの「娘の見守りGPS」を掘り出した。壊れた端末のログを開くと、六年間、豪雨の深夜になるたび、向かいの家のWi-Fiと通信を繰り返していた。問い詰めた夫が無言で開けた物置には、壁一面に貼られた隣家の行動記録と、五年間密かに改造されていた配管図面があった。ミステリー|因果応報|裡切られた|真相3.3万字5 0 -
完結第18話
退職金と三百万円の借金
三十二年間勤めた会社を定年退職する日、人事に呼び止められた私は、一枚の紙を突き出された。それは私の名義と私印で作成された、三百万円の福祉貸付金の借用証書だった。返済が済むまで退職金は支払えないと告げられるが、私に借金の覚えなど一切ない。震える手で書類の日付を確認すると、そこには十一年前、夫が急逝して告別式を行っていた日の数字が並んでいた。私は退職の合意書へのサインを拒み、人事の机に手をついた。怒り|退職金|金銭問題|修羅場2.6万字5 0 -
完結第19話
席次表から消された姉
披露宴の席次表を確認していた時、婚約者は親族席にある私の姉の名前を赤ペンで乱暴に塗りつぶした。介護士の姉を親戚に見せるのは家の格に関わると吐き捨てる彼に、私は必死で抗議した。だが、両親のいない私を育ててくれた姉は、侮辱されても取り乱すことすらしなかった。ただ、赤線の引かれた名前を静かに見つめ、「彼のお父さんが去年入院した時、毎晩誰が付き添っていたか聞いてごらん」と私に告げた。裡切られた|兄弟姉妹|親不孝|介護|修羅場2.9万字5 2 -
完結第19話
レジ打ちの妻は恥ずかしい
結婚式まであと一か月。婚約者から突然、私の名前が印刷された『退職届』を差し出された。「うちの嫁がスーパーでレジ打ちなんて困る」と義母と決めたという。冗談だと笑おうとした私に、彼は真顔で「取引先に見られたら恥ずかしい」と言い放った。この三年間、一生懸命働く私の姿が好きだと言ってくれたのは嘘だったのかと問うと、彼は静かに言った。「恋愛と結婚は、違うんだよ」。私は差し出されたペンを机に押し返した。裡切られた|怒り|金銭問題|修羅場2.9万字5 0 -
完結第22話
母は死んだと書いた娘
夫の連れ子だった八歳の娘を引き取り、七年間毎朝弁当を作り、熱を出せば夜通し看病を続けてきた。ぎこちなくとも穏やかに暮らしてきたはずの中学三年の秋、担任に呼び出された私は、娘が提出した調査票を見て言葉を失った。家族欄には「実母は七年前に他界、父と二人のみで生活」と書かれ、私の名前は存在すら消されていた。裡切られた|夫婦|孤獨|修羅場3.3万字5 0 -
完結第10話
月給22万円の「給料泥棒」と50億円のAI
「首にしとくから一生寝とけ。高卒の給料泥棒が」――交通事故で全身に重傷を負い、病室に運ばれた私・み月りんへ届いたのは、8年間耐えてきた上司・気藤からの非情なメッセージだった。難病の母の治療費を払うため、月給22万円でも「無能」と罵られながら働き続けてきた私。だが会社の誰も知らなかった。顧客管理、会計、在庫を結ぶ基幹システムを一人で設計し、独自AIを開発、20件以上の特許まで持つ本当の実力を。しかも気藤は、その成果を自分の手柄として奪い続けていた。もう十分だ。私は病室から「本日付けで退職します」とだけ返信し、会社との連絡をすべて断つ。翌朝、社内の全システムが機能しなくなり、誰一人として復旧できない事態に。そこで初めて会社は、自分たちが“給料泥棒”と嘲った女性が何を支えていたのかを思い知ることになる――。職場逆転1.6万字5 85 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 0 -
完結第12話
午前五時の朝餉
母・加奈子を理不尽に追い出して七日目の朝。二重ロックで施錠されたはずの台所で、炊飯器のランプが黄色く灯っていた。「保温:28分」。蓋を開けると、湯気を立てる筍ご飯と、包丁立てから消えた一番重い三徳包丁。電源を抜いても、暗証番号を変えても、毎朝午前五時に届き続ける温かい米。やがて米の底から現れた“ある金属片”を境に、父と祖母の顔から血の気が引いていく。母はどこから入り、この家で何を見つめているのか。因果応報|嫁姑|真実|修羅場1.8万字5 0